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鋼鉄のアイ  作者: 大紀直家@パブロン
スクラップ
52/90

Power of music☆

すいません、英語訳間違ってると思います。

歌詞全般での突っ込みはやんわりとお願いします。


「いやー、やっぱり自宅が一番ってな」

 タクムはそんなことを言いながら、大通りに面した本拠地に帰ってきた。しばらく放置したせいでガレージはとても埃っぽい。


「こりゃ業者呼ぶしかないな……」

 タクムは言いつつも、車輌から降りる。本拠地はL字型の建物であり、道路に面した下線のほうがガレージ、縦線が居住スペースとなっている。ガレージと母屋は無骨な鉄扉で繋がっており、タクムはギーギーと音のする錆の浮いた扉を開いた。


「……誰か、いるのか……」

 戦闘技能者としてほぼ完成しつつあるタクムの第六感が、屋敷内の生命体の存在をキャッチする。<サークルレーダー>ほどの精度はないが、それでも自らの勘を信じない戦士はいない。


 やはり生命体はリビングにいるようだ。タクムはスタングレネードのピンを抜くと、僅かに開いた扉の中へと放り込む。


「いっぬっのー♪ おまわりさん♪ 『ち、違うっ! 俺は政府の犬なんかじゃねえ!』(←台詞調) わんわんわわーん♪ わんわんわわ――……んっ!?」


 猛烈な閃光。暴力的なまでの炸裂音が壁を介したタクムの耳まで伝わってくる。


「あぎゃー!!」

 奇襲に成功したタクムは、背中に帯びた銃剣<ドリームリッパー>を引き抜いてリビングに突入した。


 そこには――


「目がっ! 耳もッ! うぎゃ―!! 誰か、助けてー!!」

 目元をかきむしり、耳を抑えながらアイドル衣装で転げまわるライムの姿があった。




「で、こんなところでアイドル様が何してんだ?」

 回復したライムをソファーに座らせ、タクムは尋ねた。


「……アイドルは卒業した」

 暗い表情で彼女は言う。断罪TVの件で、彼女は現在、アイドル活動を自粛しているという。自粛というと耳ざわりが良く聞こえるが、簡単に言えば干されている状態だ。卒業ではなく、廃業。敏腕で知られていたマネージャーを失ったのも大きい。破天荒な彼女がアイドルとして成立していたのも、ライムから放たれる暴力をマネージャーが盾となっていたおかげでもあったらしい。


「……ああ、そうか。そりゃ残念だったな。日本の歌、また聴きたかったし、復活してくれればいいと思ってたんだが……仕方がないか……」

 タクムは無念そうに言った。


 ――どうしても死にたくなったら、俺んところに来な。


 ライムに、タクムは言った。自殺をさせてやると。


 手を出す必要のない相手に喧嘩を売り、大切な人を殺されて、そんな相手に命を助けられて、泣き崩れた彼女にかつての自分を重ねたのだ。散々に罵り、追い詰め、唾を吐きかけ、そして同情してしまった。


 なるほど大切な人々を一気に失い、アイドルとして失業し、彼女は幾度となく死を望んだのだろう。それこそ昔のタクムのように。


 タクムは<ドリームリッパー>を再び引き抜くと大きく振りかぶる。


「ちょま、おい!」

「動くなよ。下手に当たると無駄に苦しむことになる。安心しろ、こちとら毎日のように生体兵器の首を落としてんだ、お前みたいな細っこい首を刎ねることくらい問題ない」

「瞳孔開きながら言うんじゃねえ! マジでこえぇんだよ、あんたの兎みたいな眼!! 一度、鏡で見てみろって、あ、やば、なんか今ので……も、もれそう……」

 股間――ひらひらのスカートを抑えながらライムは言う。


 さすがにリビングで漏らされてはたまらないと――首を跳ねればそれ以上のことが起きることをタクムは考えていなかった――タクムは剣銃を鞘に収める。


「なんだ、自殺しに来たんじゃないのか……」

「う、うん、違います……スローターさんが帰ってきたって聞いて、お話があってきたんです……」

「で、なんだ」

「そ、その前にちょっと……おトイレに……」

「はあ、分かった。行って来いよ……」

「あ、はい、ちょっと待っててね……あ、あと、これおしっこじゃないから! アイドルはおしっこなんてしないから!!」

「今更遅ぇよ! さっさと聖水放出してこい!」

「下品! サイッテー!!」

 トイレへと駆け込みながらライムが悪態を付いたのだった。




「で、何の用だ。こっちもいつまでも無職ニートに付き合ってる暇はないんだが?」

「なんか、アンタ、一段と性格悪くなってない……? 物凄い壊れた目玉しているのに、声色だけ聞くと前よりちょっと柔らかいし……」

「ああ、強い手駒が手に入ってな」

「……まあ、いいわ。ねえ、アンタ、金持ってんでしょ?」

「ああ、使い切れんほどにな」

「うわ、性格悪ぅ」

 未換金の生体兵器のカードと素材は1万体分にも及ぶ。高価買取中のギルドで売れば1000万ドルは下らるまい。更に数百体に及ぶ中型、2体の大型生体兵器。全てを換金すれば総額2000万ドルにもなるだろう。


「で、それを聞くってことは、お前は?」

「……うん、多少の貯金はあるけど、収入ないから無駄使いできないし……物価もどんどん上がっているしであんまり余裕ないかも」

「それで?」

「だから、ちょっとにゃーの支援をしてほしいにゃ~って☆」

 ライムはその場で招き猫のポーズを決めてみせる。両手をやや絞込み、大きな胸を強調することも忘れない。パッションピンクにレースとフリルをあしらったアイドル衣装から、危うくまろびでそうになるそれ――


「ハッ、今更、何を色気づいてんだ」

 タクムは鼻で笑う。色仕掛けが通じないことが分かると、ライムはすぐさま甘ったるい砂糖菓子みたいな仮面スマイルを外す。


「当面の生活費と武器弾薬や戦闘車両、開拓者として必要な諸々の開業資金――そうね、10万ドルもあればいいわ。貸してくれない? 同じ日本人のよしみで」

支援者パトロンってやつか?」

「そう。でも、無担保無金利って貸せなんて言うつもりはないわ。今、開拓者は優遇されているし、生活が軌道に乗ればすぐに返済できると思う……あ、そうそう体でのお支払いはNGでお願いにゃん」

「ハッ、てめえのきったねー体なんざ二束三文になりゃしねえよ」

「まー失礼しちゃにゃん。これでもぷりっぷりの初物にゃよ!」

「二十歳過ぎて処女ってむしろ逆に汚いよな」

「にゃーっ!?」

「あ、やっぱり年上だったんだ」

「こ、殺す……!」


「あ?」

 キーワードに触れたタクムの瞳孔が再び全開にまで開く。

「うひぃー」

 睨んだはずのライムは、タクムの獣めいた瞳にすぐさまひるんだ。


 ――なんなの、この子。すっごいDQNっぷり……ほんと怖いわ……。


 とはいえ年下だと分かったためか、ライムのタクムを見る目が少しだけ変わった。4年前、18歳の時にこの世界に落とされたライムもそれなりに苦労した。固有兵種<偶像>がなければアイドルとして成り上がることはおろか、生き残ることすらできなかったかもしれない。


 ライムは、くりんとした大きな瞳に少しだけ慈愛の色を浮かべた。


 ――たぶん、この子、すっごい苦労したんだろうな。


 そう考えればライムはずいぶんと幸運であった。近くの街の広場でルンルンランラン踊っていたらマネージャーにスカウトされたのだ。彼は彼女だけが知る日本の萌え文化に心酔し、以降、どんなワガママを言っても笑って許してくれた。


 純粋な戦闘職としてこの世界で戦い続けたこの少年の苦労はライムの比ではなかっただろう。聞けば信頼していた相棒との死別があったという。さらにその間隙を縫うように開拓者達の裏切り、そして次々に現れる暗殺者達。悪党と罵られる日々。それはもう必死だったろう。手段を選んでいる暇などなかったに違いない。


 信頼している人との別れはとても辛いものだ。想像を絶するような痛みを心の奥底へ刻み込む。治療もできないほど深い場所にあるのに、それは事あるごとにじゅくじゅくと痛みを発し、本人を傷つける。


 そんな中で傷つけられたら過剰反応してもおかしくはなかった。多分、自分なら発狂していた。


 しかし、殺人は犯罪だ。仕方なかったで許されることではない。


 ライムは感情を切り替える。女性というのは痛みに強い。男が出産を経験すればその痛みにショック死するという。それは精神的にも言えることであり、それはライムが3ヵ月前の事件を乗り越えたこと、そして生きていくために敵であるスローターに資金援助を願い出るところからもその片鱗は窺える。


「とにかくアイドルは恋愛禁止。世間的にはどうか分からないけれど、にゃーはまだアイドルにゃん☆」

「ああ、そう」

「そうって、スローニャーは冷たいにゃん。それで、どうするにゃん? にゃーにお金貸してくれるかにゃん??」

 いちいち可愛い子振るライムに辟易しながらもタクムはガレージを指で指し示す。


「ガレージにブローニングM2の付いたジープがある。防弾仕様だ。7.62ミリ徹甲弾くらいなら防げる。弾薬の予備は倉庫、ついでに装甲服は……」

「大丈夫にゃん。この衣装はすべて防弾、NIJ-Ⅳにゃん」

「俺のジープとほとんど同じくらい硬ぇじゃねえか……」

 タクムは呆れた。それはもはや衣服ではなく装甲服バトルアーマーの類である。パワドルとはそんなに危険な職業なのだろうか。


「ほとんどファンからの贈り物にゃん。いい素材手に入れたんでどうぞ使ってくださいって」

 薄いヒダのついたスカートを摘みながらライムは明るく笑う。


「あと携行武器は不要にゃよ。にゃーには歌の力があるからにゃん☆」

「マイクで敵をぶん殴んのか?」

「な、なぜ知ってるにゃん……」

 タクムは戦慄した。棍棒マイク片手に近接戦闘などいつの時代の戦闘風景か。そんなものは原始人と変わらない。


「そうか……さすがパワドルだな……」

「え、うそん!? なんで信じるの! ……にゃ、にゃーは腐ってもアイドルよ? 商売道具で敵を殴るなんてことするわけないにゃん……そ、それに歌手の歌には力が宿るんにゃから」

「え、それまだ言うの?」

 タクムは開きっぱなしの瞳孔に憐憫の色が浮かぶ。


「くのッ……つ、ついてくるにゃん」

 ライムはそう言って、タクムの袖をちょんと摘む――怖かったらしい――とリビングから引っ張っていった。その手を振り切ることも出来たが、タクムとてベジーの処理が終わるまでは暇である。彼女の余興に付き合ってやるくらいの時間はあるはずだった。





 屋敷を出てタクムが射撃場に使っている中庭まで来ると、ライムは振り返った。ピンクのスカートがふんわりと広がる。


「すろーにゃん、その目をみひら……もうちょっと閉じ気味にしてよく見ているにゃん。これが歌の……いやトップアイドルの……むしろ、あたしだけの力にゃ!」

 自己顕示欲丸出しでライムは言うと、広がった袖口に腕を突っ込む。


 取り出したのは一本のマイク。直線に対して一本、銃把ピストルグリップのような突起が付いていた。構造としてはマイクと拡声器の合いの子といったところ。本来広がるべきスピーカー部分がきゅっと尖っていることが特徴といえば特徴であった。


「なるほど、トンファーバトンか」

「そうそう、これでぐるぐる回してぼかん、って違うにゃ! 確かに似ているけれども!」

 ライムは言いながら拡声器のボタンを押した。キンと甲高い音の後に、拡声器にスイッチが入った。


「まあいいにゃ。黙って見てろ……いや、聞いていればいいにゃん☆ <ミュージックスタート>!」

 何かのスキルであろう。どこからともなく流れ出す音。200ppmを超えるような高速のドラムビート。低いベースの音が続く。


 躍動感ロックンロール――ライムが体を小刻みに揺らす。


「なっ……!?」

 タクムは瞠目した。


 ライムが体を揺するたび、それ以上の旋律でもって胸部の肉がぶるんばるんと上下左右、無軌道なランダム移動を決める。それを自然と目で追ってしまうタクム。


 ――ばるん、ぼるん、ぷにゅん。


 合わせてライムの衣装が局所的に揺れ動く。大きなお胸が揺れる。揺れる。揺れる!


 ――これが、<越後屋サービス>ライムの本領ということか……。


 ビートが上がる。恐らく300ppmを超える猛烈な歌の鼓動。


『……すぅ』

 インストゥメタルを終え、歌い出しに差し掛かる。


 そして彼女は息を吸う。大きな胸を更に強調するように逸らした。ライムはかっと見開かれる瞳、ユージュの乗ったうす桃色の唇を開く。


 タクムが感心しつつその胸を観賞している中、それは始まった。


『|死ねええぇぇぇええぇぇぇぇぇぇ(ファァァアァァァァアアァァック)ッ!!!』


 爆撃音と共に射撃的が三つまとめて吹き飛んだ。


「よりにもよってデスメタかよ!?」

 耳を聾するような轟音の中、タクムは耳を抑えながらけなげにツッコミを入れる。


『Fuck'n! Fuck'n! Fuck'n! Fuck'n all!!(死ね死ね死ね、みんな死ね!!)』

 ステップを踏みながらライムが中指を突き上げる。


『Fuck'n' Roll!(ファッキンロール!)

 Fuck'n' All!(ファッキンオール!)』


 その都度、的が吹き飛んだ。


 ――なんてふざけたいりょくだ……。


 1パート毎に発生する爆発はそれこそ迫撃砲クラスの破壊力を有していた。特に最初の一撃は凄まじく――105ミリ戦車砲にも比肩するだろうか。横にいただけのタクムでさえ、三メートルは吹き飛ばされていたし、直撃した的は砕け散り、それどころか後方に積んでいた土嚢まで消失している。


『Hey to late.I Kill You!!(のんびりしてたら殺しちゃうぞ☆)』

 Fuck'n' Roll!(ファッキンロール!)

 Fuck'n' All!(ファッキンオール!)』


 タクムを指差しなぜかウィンク。彼の足元が爆ぜる。タクムの耳は鼓膜を劈く爆裂音の中に濃密な魔力(SP)の波を感じ取った。


 ――音爆ソニックブーム。彼女には――というか<偶像>という兵種には――声を衝撃波を変換する能力があるのだろう。恐らく手にしたマイクは音に増幅させ、収縮させて指向性を持たせるためのものだ。だから全方位ではなく、彼女がスピーカーを向けた先だけが爆発していく。


 なるほどこれだけの範囲攻撃力を持つならば携行武器など要らないだろう。MNDの高いタクムでさえ直撃したら失神するような破壊力だ。小型など一発である。歌い出しの一撃は中型でさえ一声の下、葬り去るだろう。


 何より、この攻撃の優れた点は、ダメージ量が装甲の硬さに由来しないということだろう。


『But to premature, It is not permitted!!(けど早すぎるのもお断り!)

 Fuck'n' Roll!(ファッキンロール!)

 Fuck'n' All!(ファッキンロール!)』


 指向性を持たされた大音量によるぶちかまし。音を前にしては装甲の硬度なぞ関係ない。音さえ通す素材であればほぼ確実に貫通する――要するに防御力無視の絶対ダメージ。硬い装甲に守られた脆い内部組織ごとずたずたに破壊する。


『Fuck'n' All!(ファッキンオール!)

 Fuck'n' All!(ファッキンオール!)

 Fuck'n' All!(ファッキンオール!)

 Fuck'n' All!(ファッキンオール!)

 Fuck'n' All!(ファッキンオール!)

 Fuck'n' All!(ファッキンオール!)』


 黒髪を振り乱しながらライムがバンク。どうやら彼女のテンションに威力は比例するらしい。更に破壊力が増していく。


 これは使えるな、タクムは確信と抱く。


 これは分厚い装甲を持つ、大型生体兵器にこそ有用な兵器となる。基地時代、何度か大型生体兵器との遭遇戦を行ったが、彼等の装甲の分厚さにはほとほと手を焼かされた。加えて異常なまでの攻撃力と生命力を兼ね備えていた奴等は、それこそ<殲滅者>たるタクムの手にも余った。


 仕方ないので撤退して戦闘車両4台を同時に遠隔操作したり(その後、オーバーフローで2日寝込んだ)、落とし穴にありったけの弾薬やC4爆弾や対戦車地雷に手榴弾をばら撒いて始末したりしたのだ。


 携行型の音爆砲ソニックキャノン。発射にこそ時間がかかるものの、大型や特型といった強大な相手を倒すためには持って来いの新兵器である。


 ただし、


「うるせー!」

 タクムは、ノリノリで歌って踊るライムの足元を狙い撃った。


「お前等全員、Fuck――うぎゃー!!」

 途端に集中力が切れたのか、音楽が止まる。


「な、なにすんじゃー!? あぶ、あぶ、あぶないだろがー!!」

「うるせえ!! 少しは近所迷惑ってもんを考えろや!!」

「………おっふ………」

 ガンマの害獣と呼ばれるスローターには言われたくなかったライムであった。



(¥ω¥){あたし、音楽の力、信じてるから(キリッ


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