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鋼鉄のアイ  作者: 大紀直家@パブロン
スクラップ
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狂信者のお誘い

「アアアアァァアアァァァ――ッ!!」

 気勢を上げ、ベジーは走った。


 スローターはヘルメットのバイザーを下げると、肩に担いだ剣銃<ドリームリッパー>を引き抜いた。天井から降り注ぐ人工光を浴び、金色の蟻牙が血に飢えたような鈍い光を放つ。


 ベジーが大上段に大鉈を構え、振り下ろした。スローターは同時に動き、重心を左に逸らしながら銃剣を跳ね上げた。


 迎撃音ギィン


「グッ!」

 ベジーの体が後背へと仰け反る。大上段からの振り下ろしも、タクムの振るう銃剣の威力の前には役に立たない。


 分厚い刀身に加え、20ミリ砲弾を放つ機関部を持つ<ドリームリッパー>の重量は10キログラムを超える。中世に於ける両手剣ツヴァイハンダーでも重量は5キロ程度であったことを鑑みればどれだけの過重かは考えるまでもない。


 しかし、タクムは複数兵種によって裏打ちされた高ステータスにより、<ドリームリッパー>をまるで小枝を振るうように扱うことが出来た。


 威力というのは速さと重さに比例する。


 ベジーの持つ、多少丈夫なくらいの鉈剣が通じるはずがないのだ。タクムが跳ね上げた剣銃を手首の返しだけで振り下ろすと、ベジーは鉈剣を捨てて退いた。


「らぁ!!」

 それを見逃すスローターではない。<ダッシュ>スキルで懐に飛び込む。





 その目前に無数の予測線が浮かぶ。


「――ッ!!」

 タクムは反射的にサイドステップで射線から逃れた。数瞬前まで彼の立っていた場所を散弾が襲っていた。


 U.S.AS12――アサルトショットガンによる連続射撃フルオート。刃が触れ合うような距離にあって、散弾のような面攻撃、マンストッピングパワーに優れた攻撃は脅威の一言に尽きる。


 ――さすが、ベジーだ!


 タクムは半ば感心していた。重圧に耐えかね不用意に飛び出したか、と失望しかけていたが、近接格闘による不利を悟るとすぐさま近接武器を捨て、近接戦闘に切り替えた。この判断能力の高さ、引き出しの多さはいかな高ステータスを誇るスローターとて持ち得ないものであった。



「いいぞ、そういうの、もっと見せてくれよ!」

 タクムは叫びながら、懐に飛び込んでいく。銃口に近づけば近づくほど散弾はその効果範囲は小さくなる。地面が抉れるほどのフットワーク。猛烈な脚力の為せる業に、ベジーは再び追い詰められる。


 <ドリームリッパー>を横薙ぎに振るう。そのままベジーの腹部を断ち切るはずだったそれは――


「ふんッ……」

 キィン、という金属がぶつかり合う甲高い音が演習場に響いた。タクムの驚愕とベジーの視線がかち合った。


 ――いつの間に持ち替えた!?


 ベジーの右手には捨てたはずの鉈剣が、更に不可解なことに左手には鋭い光を放つ軍刀サーベルが握られていた。二本の刃により、凶刃は止められたのだ。


「死ねッ!」

 硬直するタクムを他所に、バックステップで距離を取ったベジーが言う。その手にはMINIMI軽機関銃が握られていた。


 ――飛び交う弾丸をタクムは慌てて躱す(ダラララララララララララララ)!





「アハハ、すげーな。反則だろ、転移テレポート、いや転送アポートか?」

 スローターが踊るように射線を逃れながら楽しそうに嗤う。数百という武器を使いこなすと言われる<八百屋ミックス>の所以に触れ、我知らず興奮しているのだった。


「いいじゃん、いいじゃん、ゲームはこうでなくっちゃ!」

 これまでひた隠しにしてきたベジーの秘術。ガンマ最強の殺し屋の地位を不動のものにしてきた固有エクストラスキルである。半径100メートル以内にある登録した武装を一定のコスト(SP)を支払うことで呼び寄せることが出来る。一度に運べる重量は10キロまで。近づけば剣撃、離れれば散弾や機関銃による一斉掃射。武器を持ち替えることなく、その距離、その位置、その状況によって最適な武装に切り替えることで、己の優位性を保つことが出来る。


 この技能による恩恵は説明するまでもない。装備やステータスにおいて遥かに劣るはずのベジーは、最上位兵種を複数所持するスローター相手に有利に戦闘を進めていることが何よりの証拠であった。


「オラッ!!」

 弾薬が尽きたところでスローターが突っ込んでくる。ベジーも<アポート>による二刀流で攻撃を防ぐ。幸いにもスローターは剣術に疎いようだ。飛び込みからの一撃は強力そのものだが、それ以降の剣戟の威力はそれほどでもない。手首や肘関節のスナップだけで超重量の剣銃を振るうのは驚きだが、狙いが単純すぎる。受け流すことはそう難しいことではない。


「シッ!」

 ベジーは二撃目を鉈剣で巧みに受け流すと、軍刀サーベルによる刺突を放つ。スローターは深追いすることなく、真後ろに跳んだ。


「じゃあ、そろそろこっちも本気出すぞ」

 言うが早いか、スローターは肩掛けにしていた対物アサルトライフル<デイドリーム>を構える。


 ――三連射ダダダッ


 その内の一発が左腕に命中。凶悪な.338ラプア弾が装甲板を貫通し、骨ごと砕けるような衝撃がベジーを襲った。


「ぐあッ……ア、アポート!」

 痛みに呻きながらM4カービンを転送。銃撃戦を開始する。


 広間には障害物などない。それ以降、二人の射撃はどちらも命中することはなかった。正確な狙いはしかし、互いの優れた回避能力によって躱されてしまうのだ。


 走りながら、撃つ。撃ちながら放つ。およそ人間離れした戦いがそこにあった。





「アハハ、ゾクゾクする! ゾクゾクするよ!! ああッ、たまんない! たまんないよ、ベジー!! もっと、見せてくれ、お前の秘儀を全て、この俺に見せてくれ!!」

「くそ! 化け物め!」

 ベジーがM4カービンを引きっぱなしにした。スローターは停止状態からの急発進によって射線を躱す。弾道予測線により、相手の狙いが明確に分かるタクムには、この回避方法と相性がよかった。


 スローターは対物ライフル<デイドリーム>を三連射。逆にベジーは豊富な戦闘経験に裏打ちされた戦闘勘で回避を試みた。移動速度に緩急を付け、姿勢を変え、方向転換を繰り返し、あるいは相手が撃つ寸前に発砲することで狙いを絞らせない戦術である。


 ベジーのM4カービンにあるマガジンが底をついた。すぐさまスローターが飛び込んでくる。慌てて転送スキルでAK-47(ライフル)を呼び寄せて距離を取る。


「ハハハ、流石に踏み込めないね! じゃあこれはどう乗り切る?」

 スローターはサイドステップで銃撃を躱しながら、腰ポーチから取り出した手榴弾パイナップルを投げつける。ベジーはその場で爆薬を撃ち抜き、爆破処理する。


 閃光と黒煙が視界を覆う、寸前――ベジーは瞠目した。いまだ中空で踊り続ける爆炎、その踊る最中を切り裂くようにスローターが突っ込んで来たからだ。


「ヒャハーッ!」

「――ぐッ!?」

 ベジーは二刀流で剣銃を防ぐ。


 ――もう、アポートに対応するとは…………。


 <殲滅者ばけもの>は目覚しい成長を遂げていた。転送による武装切り替えはもはや切り札としての意味を失っている。武装の切り替えは既に20回を超えていたが、ただの一度もスローターへ銃撃を命中させることが出来なかった。


 斬撃を振るう。しかし、すぐさまスローターは退き、銃撃戦に移行する。


「アポート……」

 三挺目のM4カービン。予備のマガジンは大量に用意していたが、装弾するタイミングが得られないため、弾薬が尽きる度に武器を切り替えなければならなかった。


 ――不味い……このまま、では……。


 ベジーの息が徐々に上がってくる。<アポート>の連続行使により、SPは底を尽き始めていた。一回当りのコストは50とそれほど高いわけではないが、一日にこれほどの回数のスキルを行使したことはなかった。


 スタミナ切れである。スローターは中距離での銃撃戦から、格闘戦へ、さらに銃撃戦へと戦闘距離を切り返ることにより、ベジーの<アポート>を誘発していたのだ。


 ――頭が……鈍い……。


「ベジー、終わり?」

 スローターがまるで遊び足りない子供のような声で尋ねてくる。


 カッ、と頭が熱くなる。


 これは戦いだ!

 殺し合いだ!

 断じて子供の遊びなどではない!


「死ねええぇぇぇぇ――!!」

 ベジーは気勢をあげ、|マガジンが空になるまで銃撃を続ける(ダラララララララララ)!そのタイミングを見計らい、スローターが突進する。


 二刀を放り出して下がったベジーは肩に背負った・・・・・カールグスタフ――無反動バズーカ砲を射出した。


「スローター―ッ!!」

 驚愕するタクムを他所に、巨大な炸裂音が、閃光が、ベジーの目を焼いた。


 ADM 401 フレシェット砲弾。


 砲弾に内蔵された1100発からなる鉄の矢がスローターを覆った。距離、タイミング、共に完璧であった。単調な戦いを繰り返すことで相手の集中力を殺ぎ、油断したところに最大の一撃を見舞う。強力な武装はすぐさま使ってみたくなるものだが、対人戦闘豊かなベジーは強靭な精神力で欲求を堪え、このタイミングで本当の切り札を発動させたのだ。


 スローターは動かない。諦めたのだろう。この一撃を避けられる者などいない。


 そして――|無数の鉄矢がスローターの装甲を次々と貫いた(ガガガガガガガガガガガガガガガガガ)。





 爆炎に包まれる演習場。


「…………お見事」

 背中から分厚い刃を生やした――否、貫かれた男がぽつりと零した。


「ガは、ハッ、あハは……代わりにちょっともってかれちゃったがなぁ……」

 タクムが言う。バイザーの奥、口端からは一筋血が零れていた。火に炙られ、湯気の立つ装甲。左腕部分には無数の鉄矢が突き刺さっている。


 射撃の瞬間、タクムは姿勢を極限まで低くし、銃剣の分厚い刀身と左腕を盾代わりにして前面へと突っ込んだ。この狭い距離から放たれた散弾砲から逃れ切ることは出来ない。そのため、自ら散弾分布に近づいていくことで防御範囲を広げたのだ。頭部と胴体さえ守れれば死ぬことはない。


 タクムがゆっくりと刃を引き抜くと、支えを失ったベジーがその場で倒れ込む。


 タクムはバイザーを上げ、腰ポーチから取り出した回復薬を取り出した。ケミカル臭のするそれを飲み下す。


 途端に左腕が熱を持った。筋肉が蠕動し、鉄矢を体内から摘出する。破損した筋組織と砕けた骨や関節がゴリゴリと形を変えながら正常な形に戻っていく。常人であれば耐えられないほどの激痛をタクムは顔色一つ変えずに耐え切った。狂信者となってからこっち、痛覚がやけに遠い。痛いことは痛いが、何処か他人事のような感触を覚えるのだ。


「はい、終了っと」

 左手を握り、開き、その場で振り回して違和感がないことを確認する。そのまま腰ポーチから二つ目の回復薬を取り出すと、ベジーの傷口に向けて振りかけた。


「うが……あっ……ぐ……貴様……何を……」

 タクムの腕で起こっていたのと同じ事象が発生しているのだろう、ベジーがその場でのた打ち回る。


「こんなつまらないところで死んでもらっては困る」

 ベジーが顔を上げると、タクムは毛細血管の浮かび上がった朱色の瞳で彼を見つめる。


「ベジー、俺の配下になれ」


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