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鋼鉄のアイ  作者: 大紀直家@パブロン
スローター
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下準備は大事です。

 地下牢にタクムは足を踏み入れた。六畳ほどの牢屋には薄い毛布とベッドマット、プラスティック製の簡易式トイレおまるだけが存在している。


 太さ5センチほどの鉄格子の向こうにはガンマを代表する殺し屋<八百屋ミックス>べジーがいる。


「いやー大したもんだな」

 僅かに歪んだ格子棒を見て、タクムは呟く。人外じみた怪力でもない限り、太さ5センチもの鉄棒が曲がることなど有り得ない。


 相当な腕力だ。タクムは素直に感心した。


 しかし、代償――体力の消費――はそれなりにあったようで、<八百屋ミックス>べジーは疲れ切った表情でベッドマットの上に座り込んでいた。


「貴様……卑怯だぞ……」

 カサカサに乾いた唇でべジーが言う。ぐぎゅるる、と腹の音がした。シックスパックに割れた腹部が抉れるように窪んでいる。飲まず食わずで丸一週間、彼もずいぶんと大人しくなった。


 初めて顔を合わせた時にはそれはもう口汚く罵られたものだ。武人としての誇りを問われたところで我慢しきれず声を上げて笑ってしまった。



 なにそれ、美味しいの?



 タクムは対べジー用に取った戦略は実に単純なものであった。奴が留守中に拠点を荒らし回り、金品から武器弾薬を根こそぎ奪う。ついでに壁には相手を挑発するようなメッセージを残していく。


 ベジーが平常心を失えば万々歳。例え奴自身に影響はなくても超一流の殺し屋がせっせと溜め込んだ財宝を奪うことが出来るのだからこちらに損はない。


 復讐に走るにせよ、一度落ち着くにせよ、武器弾薬がなければ戦うことは出来ない。


 奴がガンショップに姿を見せることは間違いない。そこの店員に成り済まして待っていれば、案の定、<八百屋>――怒声を放ちながら武器弾薬を大量購入する怪しい兵士と出くわしたというわけだ。あえて愚鈍な振りをしたら無防備に胸倉に掴みかかってきたので、スタンガンを当てて眠らせてやったというわけだ。


 幸いにも時刻は深夜。営業している店舗は数少なく、奴が訪れそうな店はすぐに割り出せた。夜半時にも開いているガンショップといえば、あなたと弾丸バレット・マートくらいしかないのである。


 万一べジーがタクムの存在に気付いて襲い掛かって来たとしても問題・・ない。今度・・は自宅付近に用意した狙撃ポイントに身を潜めておけばいいだけの話である。


 その後、しばらく全身を針金でぐるぐる巻きにして地下室に放り込み、その後、急遽手に入れた秘密基地にベジーを運び込んで地下牢に収容。そこからひたすら放置プレイ。そして現在に至る。


「ハッ、犯罪者相手に卑怯もなにもあるかよ」

 タクムは鼻で笑う。<八百屋ミックス>の虚ろな瞳に光が点る。体力は尽きたが、気力までは失っていないようだ。


 タクムはこの一週間、べジーに一切の食事を取らせていない。水も同様である。まあ、トイレ(おまる)に出した糞尿までは関知するところではないが。


「なあ、ここから出たい?」

「いいから、さっさと……出せ!!」

 べジーは瞬時に立ち上がると鉄格子の隙間から拳を振るってきた。


 タクムはそれを僅かに首を捻るだけで躱した。


「なッ!」

「残念ながらその辺の奇襲は俺には通用しないぞ」

 弾道予測線の範囲は銃弾の軌道だけに留まらない。打撃、剣撃ありとあらゆる攻撃の弾道を白日はくせんの下に暴き出す。


「そんなに動けるならまだダメだな」

 タクムは言って踵を返した。


「待てッ、貴様、何が目的なんだっ! さっさとここから出せ!! 正々堂々勝負しろ!!」

 <八百屋>の言葉なぞまるで聞こえていないかのように、地下室の扉は閉じられた。






 それから更に一週間経ち、タクムは再び地下室を訪れた。


「これならいいかな」

 べジーは牢屋のど真ん中でうつ伏せに倒れていた。もはや虫の息に近い。口周りが茶黒く染まっていることから何があったのかを察する。


 タクムは鉄格子越しの八百屋に向けて、バケツの水をぶち撒けた。


「起きろ」

「うっ……み、みず……」

 饐えた臭いの漂う床に溢れた水を、べジーは気力を振り絞って啜る。その顔に向けてホースの蛇口を向ける。


「今日から水は解禁だ。ほら、好きなだけ飲めよ」

 およそ14日振りの水分。べジーは咳き込みながら嚥下していく。


 べジーが満足したところでタクムは牢屋の床にこびり付いていた汚れを水で洗い流した。茶色く染まった汚水が排水溝に流れていく。


「……まだ臭うな……」

 汚れはともかく、臭いまでは水で流したくらいではどうにもならない。右手で消臭剤を辺りにばら撒きつつ、ホースの水圧を上げる。


 ようやく耐えられるくらいの臭気にまで収まったところで、タクムは地下牢のカギを開けた。


 べジーもその事に気づいたようで、無精ひげを生やし、ほとんど浮浪者のような生気のない顔を上げた。


「貴様……なんの、つもりだ……」

「水を飲んだら上に来い。お前が望む通り、正々堂々勝負してやる。武器はあっちの部屋にある奴を貸してやる」

 タクムが地下牢の向かいにあったクローゼットを空けるとそこには百に届こうかという武具が――サバイバルナイフにダガー、マチェット幅広剣ブロードソード曲刀タルワール、短槍、戦斧、日本刀に死神の持つような大鎌、拳銃ではトカレフ、デザートイーグル、コルトガバメントにジグP220、S&W M500、グロック18、サブマシンガンにM1A1短機関銃トンプソン、自動小銃のAK-47、M1918やM4カービン、M16、機関銃であるMINIMI、ブローニングM2、狙撃銃でバレットM99、ゲパードM1、ロケットランチャーにRPG-7とカールグスタフ、パンツァーファウストⅢ、サブウェポンとして手榴弾、スタングレネード、M2火炎放射器ファイアースロワー――ありとあらゆる武装が整然と並べられていた。


「わ、私の武器……」

 見間違うはずがない、これらは全てベジー自信が苦心して手に入れ、手を加えた一級品ばかりである。


「今は俺のものだがな」

「貴様……ッ」

 水を飲み、多少気力が戻ってきたらしい<八百屋>が睨みつけてくる。あろうことか立ち上がり、隙あらば襲い掛かろうとしてくる。

 

 約2週間もの間、飲まず食わずで過ごした人間の動きではない。まさに人外。複数の上級兵種を取得しているべジーの体力はまさに超人の域にあった。


 タクムは肩をすくめ、上階へと続く階段に足をかけた。


「どこへ行く」

「準備が出来たら上がってこい。そこにある武器で俺達・・を倒せたらお前さんは解放だ」

 タクムは振り返らずにそう答え、階段を上っていく。


「まあ、いい……せいぜい、いたぶって殺してやる」

 ベジーはそう言って武器庫へ向かった。


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