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鋼鉄のアイ  作者: 大紀直家@パブロン
スローター
35/90

<|走り屋(ぶっこみ)>ターク

 <殲滅者スローター>と呼ばれる男に懸賞が付いた。


 その額は200万ドル。


 破格だ。大型生体兵器並みの賞金額だ。もちろん、俺様にもそんくらいの額が付いている。問題はこのスローターって野郎が罪を犯していねえってところにある。

 犯罪者であればその罪の大きさや、社会への影響度を踏まえてそれなりの懸賞金が付く。しかし、罪のない野郎を殺しても、換金出来ないばかりか、財産だって奪い取れねえ。


 もちろん、殺人依頼をかけた本人にも罪状が付く。いわゆる「殺人教唆」ってやつだ。


「まったく、どんだけ恨みを買ってるんだか」

 車外カメラから覗けるスローターはそこらにいる優男にしか見えねえ。こんなのが上級開拓者50人を再起不能にしたってんだから分からねえもんだ。


 愛車の四輪バギーで狩場へと向かうのだろう。


「ま、俺様には関係ないがね」

 キーを回し、エンジンに火を付ける。ダララララッと大排気量のエンジン二つが、銃撃めいた爆音を響かせた。


「んじゃ、レース開始だ!」

 アクセルを踏み込むと、愛車<暴走車>が乾いた荒野を蹴り上げた。




「来たか……」

 四輪バギーの背面に見慣れない装甲車が引っ付いたのを確認し、タクムは呟いた。


 重機銃でもぶっ放しているような爆裂音。タークの駆る装甲車――正確にはM113装甲兵員輸送車は、兵員を乗せるスペースを潰し、8気筒のターボディーゼルエンジンを追加搭載した特注車両であるらしい。


 2000馬力という主力戦車をも超える馬力でもって無理矢理にキャタピラを高速回転させており、巡航速度は120キロをマークするという。しかも、それは不整地走行での話だ。整地であればその速度は150キロを超えてくる。


 車体の前部はスパイクが付いた複合装甲であり、衝突と共に先端についた成型炸薬が爆発をするのだという。側面や背面は20ミリ程度の装甲なのに対し、前面だけは重戦車並みの分厚さ――90ミリ複合装甲板で覆われているのはそのためであるらしい。


 15トンを超える鉄の塊に100キロを超える速度で突っ込まれれば、どんな装甲を身に纏っても意味がない。衝撃で吹き飛ばされ、内蔵を叩き潰されるのがオチだ。


 その自慢の一突きでもって武装トラックや戦車などを仕留めてきたという。その高速移動と突撃戦術から付いたあだ名が<走り屋ぶっこみ>のターク。愛車の名前が<暴走車バーサーカー>。この世界の住人は名前を何だと思っているのだろう。タクムは苦笑を浮かべながら四輪バギーのアクセルを振り絞らせる(・・・)。


 両者の距離が300メートルほどにまで近づく。バギーがブレーキを踏み、くるりとその場で反転した。砲手の肩には見慣れたRPG-7が乗っている。


 タクムはコースを変え、傾斜の多い道を選んで走っていたが、もはや逃げ切れないと覚悟した。バギーの不整地走行速度は70キロ程度。操縦技術は人並み以上にはあるが、決して並外れた技量ではない。ガンマ一の運転技術を持つとされるタークと移動能力にのみ特化したバーサーカーのコンビに敵うはずがない。


 バギーの上からロケット砲が掃射され、敵の装甲板にぶち当たる。轟音。爆炎。黒煙。その赤と黒の破壊音を突き破り、置き去りにするかのように暴走車両が突っ込んでくる。


 四輪バギーとその搭乗者は為す術もなく吹き飛ばされ――、


 ――装甲車両も弾け跳んだドゴオオオオォォォォォッ




 ――何が、起こった……。


 気が付きゃぁ、天井裏に投げ出されていた。俺様はシートベルトはなんか主義だ。あんなものは予期せず、事故を起こすようなド素人のためにあるもんだかんな。


 例え、戦車に突っ込んだって、きちんと気構えさえもってりゃ耐えられる。


「痛ッ、ガアアア、イデェ! 痛ェェェッ!!」

 なんて、そんな風に舐めてかかっていた俺様にも天罰が下った。


 頭ん中が白濁としてやがる。痛くて痛くて、もう死にたいくらいの痛みに呻く素の俺様と、それをどこか冷静に俯瞰している殺し屋の俺様。


 とはいえ、今は痛みの比重のほうが強くて、痛みに呻くくらいしか出来ねえ!


 冷静なままの殺し屋おれさまは、この突然の出来事に予想を付けていた。


 地雷だ。対戦車地雷。俺が奴を轢き殺すその瞬間、奴は背嚢を車体の下に投げつけていた。中には複数の地雷が入っていたに違いない。それをバーサーカーが踏んづけたから爆発したんだろう。


 思えば奴の動きは妙だった。操縦の腕はそこそこあった。が、まだまだ甘い。コーナリング技術やルート選択は素人そのものだった。


 しかし、それを補ってあまりある能力の持ち主だった。荒野に点在する岩や、細かい砂粒の罠。あらゆる障害物を反射神経と強引なハンドルワークで無理矢理に踏破していた。膂力と反射神経の桁が違っていた。


 上手く岩場に逃げ込めば、小回りに勝る四輪バギーなら逃げ切れたかも知んねえ。それをあえて無視して何もない原っぱをひた走っていた。


 思えばこれは罠だったんだろう。しかし、俺様とバーサーカーの追跡速度が予想よりも速過ぎて、地雷原に到着できなかった。一か八か、手持ちの地雷で一発逆転にかけたのか。あるいは最初から相打ち狙いだったのかもしれない。


 ――ああ、いい勝負レースだった。


 運転技術では俺が、能力面では奴が勝っていた。最後は経験と駆る車両の力の差で俺が勝利した。最高だった。こんだけ燃えるようなレースは久しぶりだった。


 出来れば誰かに助けて欲しいが、俺様はかの有名な<走り屋ぶっこみの>ターク。人殺しはしちゃいないが、<危険運転致死傷罪>を20件も起こし、40件の<業務上過失致死傷罪>をも引き起こした世紀の名ドライバーはんざいしゃだ。


 捕まれば即死刑。


 ――やべぇ……逃げ、逃げねえと……。


 愛車のバーサーカーはどうやら引っくり返っているようで、当然ながら接地しているハッチを押し上げてもビクともしねえ。元々兵員輸送車であるため、複数のドアがあったのだが、エンジンを追加搭載するために潰しちまってる。


 ようやく痛みに慣れ始めた俺様が焦っていると、


 ガインッ、ギィィィイ――耳を劈くような甲高い音がした。


「うッ、ヒィッ」

 目の前にぶっとい刃が生えていた。すいすいと紙を切るように進んでいる。


 ――あ、有り得ねえ!!


 強い車体はまず足元からって決まってるかんな、シャーシには相当な金をつぎ込んでいる。いくら装甲の薄い車体裏とはいえ、こんな易々と切り裂けるような安物は使っちゃいねえ。


 さしもの俺様もたまらず腰を抜かした。


 こりゃダメだ、と諦めた。この鋭さ、こりゃぁ大型生体兵器の牙か爪だろう。ひっくり返った車両に乗りかかられて助かる術はない。


 ――結局、同着ひきわけか。


 少し残念な気がしたが、勝ち逃げは許さねえっていう<スローター>の気迫が勝ったんだろう。


 すぅっと刃が円を描くように一周し、人の体がようやく通れるかくらいの穴が開く。そこから生体機関をぶっ放されて終わりだ。


「よう、」

 ぶっとい銃口が穴から飛び出してくるとばかり思っていた俺の耳に、もう聞くことはないと思っていた人間の声が届いた。


 そこから顔を覗かせたのは歳若い、優しげな顔をしたガキだった。


「なッ、スローター!? てめぇ! なんで生きてやがる!!」

「企業秘密だ。それよりもお前、選べ。この場で死ぬか、大人しく捕まるか」

 スローターは文字通り、俺様を見下しながら言った。


「なんだとッ! 舐めんなよ、このクソガキ!」

 腰に帯びた護身用の拳銃を抜いた。生体兵器じゃないならなんとかなる。奴は凄腕の開拓者らしいが、所詮は人間だ。一発でも銃弾を当てられれば勝機がある。


 穴に銃口を向けると、スローターはすっと姿を消した。


 ふん、いい気味だ。あのレースの勝者は確かに俺様だったのだ。スローターは俺様に追いつかれ、バーサーカーに轢き殺されたはずなのだ。


「まあ、いいか。強引に捕まえれば」

 穴の向こうからそんな声が聞こえてくる。俺様がただの<運転手ドライバー>だと思うなよ。こちとら上級兵の<操縦者パイロット>である。たかだか単一車両ソロで特大型生体兵器を倒したくらいで……上級開拓者50人を単一兵団シングル・アーミーで壊滅させたくらで……


 ――あれ、これって絶望的じゃねえの……?


 俺様がそう思うより早く、車内に筒状の何かが放り込まれる。スプレー缶の表面を分厚くして、上部に起爆剤を仕込んだそれは――


 ――グレネード!?


「くそ、や――」

 悪態を付き終えるよりも早く、スプレー缶が爆発し、俺様の意識は刈り取られたのだった。



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