2-3 勇者
校庭の中央で私たちは向かい合って立った。
周りには他のクラスメイトが遠巻きにしている。
「私が一本、と言ったらその人は負けよ」
中央で先生が説明をしている。
「手加減は?」
と聞くのは菜摘だ。
「なし。素手で一発殴ったくらいじゃ人は死なないわ。怪我は保健室で治癒かけてもらって」
「オッケー。さっちゃんは私の後ろに」
私たちは縦に並んだ。
儀同さん達2人は横に並んでいる。儀同さんの組んだ相手は、申し訳ないけどまだ名前を覚えてない子だ。
「両方とも、いいわね?」
準備はいいか、と草薙先生。
4人が頷いた。
「では、はじめっ」
号令と同時に菜摘が走った。両手を構え、一直線に儀同さん達に突っ込んでいった。
「炎よ、飛び、穿ち、貫け」
儀同さんの仲間が手のひらを菜摘に向けた。
「ファイヤアロー!」
魔法だ。
まだ習ってもいないのに、使えるなんて。彼女の前世は魔法に特化したものなのだろう。
ダーツのようなサイズの炎の矢が菜摘めがけて飛んでいった。
当たる。
爆発した。
火炎が膨らむ。
一本取られてしまったのでは。私は思ったけど、草薙先生は何も言わない。
菜摘は一瞬だけ走る速度を落としたけれど、そのまま走り続けていた。
きっと拳で払ったんだ。
私はそう思った。
菜摘が魔法使いの少女に迫る。その目の前に儀同さんが立ち塞がった。儀同さんは腰を軽く落として構えている。
武道の心得がある構えだった。
「勝負よ、赤城さん!」
「いいぜ、儀同!」
突進しながら、菜摘が拳を振るった。
左手でのジャブ2連発。儀同さんはそれを両手で捌き防いだ。
菜摘がさらにワンツー。私にはほとんど同時にしか見えない二連打だ。
しかし儀同さんもしっかりと腕でガードしている。
ふわりと、儀同さんが蹴った。
素早く動いたようには見えないのに、いつのまにか蹴り終わっている。
菜摘は両手で蹴りを止めていた。
そこに儀同さんの拳が迫る。
菜摘は体を反らしてかわした。
一瞬2人の距離が開いた。
私も魔法使いも何もできずに2人の接近戦を見ていた。
私にはこの状況でできることはない。魔法使いも、魔法を打てば儀同さんを巻き込む。
事実上一対一の戦いになった。
2人の距離がすぐに再び縮まった。
手と足が交錯する激しい格闘戦。
私の目では細かく理解することさえできないほど激しく技の応酬が繰り広げられていた。
激しい菜摘の攻撃を儀同さんが柔らかく受けては返していく。
そんな儀同さんの反撃の拳を菜摘の手が止めた。打ち合う音はなく、無音で、柔らかく受け止め捕まえたようだった。
儀同さんが仕舞ったという顔をした。
次の瞬間、儀同さんの体がくるりと宙に回った。
むかしテレビで見た合気道の投げのようだった。
空中で回転する儀同さんに、菜摘が蹴りを見舞おうとした。
「は、あぁっ」
儀同さんの気合いが一閃。空中で体をひねり込んで更に回転をまし、その勢いに任せたかかと落としが菜摘の右肩に刺さった。
「一本!」
草薙先生が宣言した。菜摘の負けだ。
儀同さんが着地し、私を見た。
来る。
どうしよう。
私はさきほどの菜摘の構えを見よう見まねでとった。
テレビで見たことのあるボクシングの構えみたいな感じだ。
儀同さんは左右に体を振りながら私に向かって突っ込んでくる。
私に複雑なやりとりなんてできない。
私はタイミングだけを見計らって、右手を前に突き出した。
儀同さんは私の拳を難なく避けた。
くる。左拳。
私はとっさに目をつぶってしまい、体を固めた。
来ると思った衝撃は来なかった。
「一本!」
草薙先生が宣告していた。
恐る恐る目を開くと、すぐ目の前で拳が止まっていた。
「よし、それまで!」
草薙先生が宣言した。
「あー、いてて。くっそー、また負けたぜ」
菜摘が肩を押さえながら起き上がった。
「当然よ、村娘が勇者に勝てるわけないじゃない」
儀同さんが言い残して魔法使いと一緒にクラスメイトの円に戻っていった。
「なっちゃん、大丈夫?」
「大丈夫だよ。骨は折れてない」
「よかった。ごめんね、勝てなくて」
「あたしの台詞だよ。さっちゃんじゃ儀同には勝ち目ないのは分かってる」
菜摘はそう言うけれど、私はそれでも気にしていた。
例え分かっていたとしても、何もできないのはあまりに申し訳がなさ過ぎる。
「よし、じゃあ次の模擬戦いくわよ。だれがいいかしらね」
草薙先生が次の模擬戦のカードを組み始めていた。
私と菜摘はクラスメイトの輪に戻り、残りの模擬戦を観戦した。
「なっちゃん、儀同さんと知り合いなの?」
「同中だよ」
「そうなんだ。強いね」
「儀同は剣道部のエースだったからね」
「なっちゃんも何かやってた?」
「部活はしてない。オヤジが柔術なんてやっててさ、他のものもやれってボクシングやら空手やらいろんなことやらされたよ」
「それなのに村娘かぁ」
私は何の気なしに言った。
「村娘は関係ない」
聞いた菜摘の方はそうもいかなかった。
菜摘は強く言い切った。
「でも、攻略者になるなら前世は大事なんじゃないの?」
「関係ないって言ってるだろ!」
菜摘は声を荒げた。
周囲のクラスメイトがビクッとして私たちを見た。
「ごめん」
私はとっさに謝った。
「……」
菜摘は何も応えず、模擬戦に目を移して黙っていた。
それから一日中、菜摘はふきげんだった。
放課後も結局、
「模擬戦で負けて悔しいから早く自主練する」
といってさっさと教室を出て行ってしまった。
菜摘は『村娘』の前世を気にしている。それは私にも分かった。
それが分かったからといって、どう菜摘に声をかけたらいいというのだろうか。
攻略者になるなら、強い『前世』は必須といってもいい。
神話の時代の英雄や、ファンタジー異世界の英雄の、人の枠を超えた力。転生してなお魂に刻まれているその力を引き出し、振るう。
そうでなければ月面ダンジョンのモンスターには敵わない。
そんなことは人類がダンジョン攻略最初の10年で第1層のモンスターにすら勝てず、散々痛い目を見たことからも明らかだっていうのに。
私は間違ったことは言ってないんだ。




