2-2 二人組
「しょぼーん」
翌朝、私はしょぼくれたまま登校した。
「さっちゃん昨日から元気ないじゃん」
「うん。盛大に滑ったからね……」
私の渾身の自己紹介は全く受けなかった。
どっちらけ中のどっちらけ。
穴があったら入りたい。
「あれな……」
「なっちゃんに受けなかったからひねりを加えたのが良くなかったのかなぁ」
「いや、そもそもひねる前から全然面白くないよ?」
「そんなぁ」
はっきり言われると辛い。
「三日も考えて一週間も練習したのに」
「正直、笑いのセンスないと思う」
「そうなのかなぁ」
「諦めたら。大丈夫、攻略者に笑いのセンスは求められてないからさ」
「やだぁ。笑いとるぅー」
菜摘と2人で歩きながら、私は実は満足していた。
これぞ青春の無駄話。
「なっちゃん、今日学校終わった後って何か予定ある?」
あわよくばこの流れでもう一つの夢、友達とスタバを実現させてしまいたい。
私はそんなことを企んでいた。
昨日は自己紹介の後、学生寮に案内され、そのまま夕食、荷ほどきと続いてそんな暇はなかったのだ。
「今日からは自主練しようかなって思ってる」
「自主練?」
「そう。入学式からずっと移動ばっかで全然体動かせてないじゃん。授業が本格化する前に少し動かしておきたいなって」
「そっか」
真面目だ。この子真面目ちゃんだ。
こういう子は、真面目にやると決めたら真面目を通すものだ。
きっと今日のスタバは無理だろう。
私は早々に諦めた。
むしろここでスタバ行こうなどと言おうモノなら不真面目な奴と思われて嫌われてしまうかもしれない。
それは怖い。
「どこか行きたいところでもあんの?」
諦めた瞬間に踏み込んでこられて、私は動揺した。
「えっ、いや、別にちょっと」
「あるんでしょ」
「ないよ、ないない。ほーんとにない」
「……」
菜摘がじーっと見てくる。
「さっちゃんて、ごまかすとき上の歯出す癖あるよね」
「えっ!?」
出てた!?
ていうかそんな癖あったの!?
「ほらやっぱり行きたいとこあるんでしょ。いいよ言いなよ」
私は引っかけられたことに気づいた。
「ま、まさか策士孔明……!?」
「ふふふ、さっちゃんを手玉に取ることなど、赤壁を火の海にすることよりたやすい」
三国志ネタが通じた。
菜摘は親指と人差し指を広げて顎に当てるポーズを決めた。
「さぁ、どこに行きたいのか、言っちゃいなよ」
「う」
「さぁさぁ、さぁさぁ」
菜摘が指先でつついてくる。
「……すたば」
「すたば?」
「スタバ」
「スタバか」
なぜか言葉を繰り返す私たち。
「好きなのか?」
「うち田舎の方だから、近くになくて行ったことないの」
だから行きたい。
都会の人が通うと噂のスタバへ。
中学の時のオンライン授業仲間に1人近くにスタバがある人がいて、たまに飲んでいたのがとてもとても羨ましかった。
「あっはっは」
菜摘は急に笑い出した。
「なによう」
「わかったわかった、じゃあ今日はスタバな。そういえば校門のとこに開店したんだっけね」
「いいの?」
「自主練はスタバ行った後にすればいいさ」
そういって菜摘は軽く拳を握り、空に突き出した。
その動きがすごくなじんでいた。きっと空手か何かをやっていたのだろう。
「ありがとう」
「友達のスタバデビューに付き合う方が大事だよ」
「男前すぎる」
「よく言われる。そういうさっちゃんは、女の子だねぇ」
菜摘はぐっと力強く肩を抱いてきた。
私はなぜか恥ずかしくなって、体を少し丸く縮めた。
「さ、そろそろ急ごうぜ。今日の一限、体操着で校庭集合だろ」
「そうだねっ」
私たちは離れて、歩くペースを速めた。
一限の開始を告げる鐘が鳴った。
校庭に集まった1年1組22人は、ジャージ姿の草薙先生の前に集まっていた。
「いないやつ、いないわね?」
草薙先生は刀を肩に担いで持っていた。
その刀さえなければ、普通の体育の授業だ。
だがこれは体育の授業ではない。
戦闘訓練の授業で、草薙先生の得意分野だ。
「さて、では今日から授業なわけだけど、まずはあなた達の今の時点の力を見たいから、2対2の模擬戦をするわ。適当に2人組作ってちょうだい」
いきなりの模擬戦の宣告。
どうしよう、私格闘技なんて一度もやったことないのに。
私たちは様子を探り合うように互いに顔を見合わせた。
草薙先生が手を叩いた。
「はいはやーく。10秒以内、間に合わない奴は減点ね」
一斉に生徒達が動き出した。
仲のいい子、自己紹介の時に戦闘向けの前世を発表していた子、それぞれの基準で2人組を組める相手を探していく。
私の周りにはだれも来なかった。
『女王』という戦闘にいかにも向かなそうな前世なうえに自己紹介で滑った痛い子だ。
そんな私が不安そうな顔をしてきょろきょろしたら、誰も寄ってこないのは当然とも言える。
しょうがないことだ。
胸の痛みをこらえて消極的に辺りを見回した。
だれか同じようなぼっちはいないだろうか。
いた。
その仲間は一直線に私の方に向かって歩いてきているところだった。
一切の迷いがない。それが当然とでも言うかのように。
菜摘だ。
『村娘』という極めつけの非戦闘員。
まだ2人組を組めていない子も、菜摘を見ると気がつかなかったふりをして違う方を向く。
そんな中、菜摘は、万夫不当の英雄であるかのように歩いてきて、私の前に立った。
「さっちゃん、組もうよ」
私は圧倒されていた。
なぜこの子は、『村娘』という前世にもかかわらずこの銀月高校に来て、しかもこれほどの自信と強さにあふれているのか。
これまでの数日で仲良くなったような気でいた。
けれど私は、決定的なところで彼女とは違う。私は自分の前世をそんなに堂々と言うことはできない。
菜摘に自分の弱さを突きつけられた気がして、私は答えに詰まっていた。
「おっと、しまった。この誘い方じゃ駄目だな」
菜摘はそんな私の戸惑いをどう受け取ったのか、右手を折って自分のお腹に当てながら、丁重に腰を折った。
「女王陛下、この私に陛下を守る名誉を担わせていただけませんか」
私の中で、断ったらぼっちになる恐怖が勝った。
「よろしく、おねがいします」
2人組が成立した。
周りでも同じように全員2人組になることができたようだった。
その状態を見て、草薙先生が再び手を叩いた。
「よーし、それじゃあ戦いの時間よ。一番に戦いたい人はだれ?」
「はい」
すっと手を上げたのは儀同さんだった。
「お、特待生の勇者様ね。いいわね。相手になろうって人は?」
草薙先生がぐるっと生徒たちを見回した。
いるわけない、そんな人。勇者の引き立て役になるに決まっているじゃないか。
そう思っていると、私の近くで手が上がった。
「お、生きのいいのがいるわね。あなたはたしか」
「赤城菜摘。村娘だよ」
「……」
菜摘ならやるかもとちょっと思ってた。うん。
「村娘が勇者に挑もうというのね?」
草薙先生は楽しそうだった。
馬鹿にしているそぶりではない。わくわくしているようだった。
「もちろん。大事なのは、前世じゃなく、あたしが今どんだけ強いかだろ」
菜摘は胸の前で拳を打ち合わせた。
「儀同さん、良くって?」
草薙先生が儀同さんに確認した。
儀同さんも嬉しそうに微笑みを浮かべていた。
「良いですよ。だれが相手でも叩き潰すだけですから」
儀同さんは絶対の自信を持っている。
その儀同さんの余裕に対して、菜摘は肩と手足をほぐし始めた。
「よし、じゃあやるぞ。さっちゃん、いいよな?」
「私、戦いの経験なんて無いよ?」
「大丈夫だよ。あたしが1人で、あっち2人をぶっ飛ばす。それで終わりだ」
菜摘もすごい自信だ。
この自信はどこから来るのだろう。
その根拠を見たい。見てみたい。
私は菜摘に頷いた。




