EP ダンジョン攻略
アザディスは、私の魔法と儀同さんの全解放技を同時に食らって、ひとかけらも残らず姿を消していた。
儀同さんは手応えありだと言っていたけれど、倒したのか、逃げられたのかは分からない。
ダンジョンは相変わらずそのまま存在し、モンスターもいる。
私たちは、楓花先生と草薙先生に合流し、無事ダンジョンから脱出した。
楓花先生を信用していいものか、判断はついていない。
ただ、すくなくともダンジョンの側の人間ではない、というくらいのことは信じてあげてもよさそうだった。
「本当ですよぅ、信じてくださいよう」
と嘘くさい涙を流しながら語ったところに寄れば、楓花先生の計画は、取引で50年の時間を稼ぎつつ、取引条件の隙を突いて魔王も人類側に引き込み、最終的にダンジョンに勝とうというものであったらしい。
「悪魔ですから取引の条件は守りますけど、条件の外までは知ったことではありません」
と言うので、私は今後気をつけようと思う。
ともあれ、楓花先生が私たちを全員救出してきた(ということになった)ことで、私たちのダンジョン演習は無事終わった。
今、私たちは体育祭で、1年2組の選抜チームと向かい合っている。
クラス対抗戦だ。
「はじめっ」
「降臨!」
開始の号令と共に1年1組4名、1年2組4名の声が重なった。
互いに作戦は変身速攻。
ただ、何が起こったのか全て見ることができた人がどれだけいるだろう。
儀同さんが目にもとまらぬ速さで2人を瞬殺し、菜摘が1人を空高く放り投げる。最後の1人は私の魔法を受けて一撃で昏倒していた。
「しょ、勝負あり!」
開始2秒。
クラス対抗戦の最短記録だろう。
私の隣で、栗原さんが魔法銃を持ったまま呆れた顔をしていた。
「みんな、レベルアップしすぎて引くレベルだね……」
「そうかな?」
「そうだよ。特に鬼沢さんね」
「ダンジョンで、いろいろあったからね。もう暴走しないよ」
私は笑って栗原さんに向けて手を挙げた。
栗原さんは小さく息を吐きつつ笑顔を返してくれた。
「そうね」
栗原さんが私の手をたたき、ハイタッチした。
「二回戦もよろしく」
「ふふ、全勝する勢いでがんばるよ」
「勢いというか、全勝するわよ」
「むしろ全勝が当然?」
儀同さんと菜摘が集まってきた。この2人、3年生まで含めて全員倒す気だ。
私も負ける気はしなかった。
体育祭も終わって数日後、私は楓花先生に呼び出された。
理事長室。
大きな執務机のある部屋で、私は応接セットのソファーに腰掛けた。
「体育祭、お疲れ様でした。見事な活躍でしたね」
私の他には楓花先生しかいない。
「ありがとうございます。それで、今日は何の用ですか?」
私は少し警戒していた。
「沙耶さん、私との取引内容覚えてます?」
「どの部分のことですか?」
「卒業後はダンジョン攻略しなくていい、という部分です」
「ありましたね」
覚えている。
「もしかして、卒業前にはダンジョン攻略に参加してもらうとかそういう話ですか?」
「本来のカリキュラムだと、在学中はあくまで演習まで。危険が伴う階層にはいかないというのが決まりです」
「なるほど」
「ただ、今回、体育祭でのあなたたちの実力を見て、攻略に参加させた方が良いのではないか、と言う意見が出ています。タイムリミットも近いので焦っているのでしょう」
当たりだった。
約束では『卒業後』なんだから今は別というつもりだろう。
「そうですか」
私は短く答えた。
「これは本校のカリキュラムではないので、強制はしません。菜摘さんと瑞月さんにはまだ話していません、おそらく答えが決まっているので。最初に沙耶さんに話しているのは、沙耶さんに決めていただきたいからです。
攻略に参加するか、しないか」
「え、しないっていう選択肢があるんですか?」
「ありますよ。これに参加すれば卒業後も引き続き攻略に参加してもらわなければならなくなる可能性がありますから」
「意外と律儀なんですね」
「悪魔として、取引は誠実に履行しますよ」
「……そうなんですね。参加するかしないか、答える代わりに一つ、質問に嘘をつかず答えてもらっていいですか?」
私は取引を持ちかけた。
「いいでしょう」
「どうして楓花先生は人類を滅ぼそうとするダンジョンと戦っているんですか?」
「それ聞きますか」
「大事なことです」
「昔、取引したんですよ。人類を守るって。だからその約束を履行しているだけです」
そう言う楓花先生は少しだけ寂しそうな顔をしたように見えた。
「……わかりました。ありがとうございます」
「それで、沙耶さんの答えは?」
「私は……」
どうしようか。私は考えながら言葉をつないでいった。
「魔王ということから逃げたい逃げたいと思っていました。普通に生きていきたいって。でも、月に来て、いろんなことがありました。
もう逃げないって決めたんです。どうやらダンジョンは、私の前世で配下だった男が作ったものとなると、無関係だと言い切ってしまうのも違うのかなって」
楓花先生はじっと私の話を聞いている。
「だから私は、この月面ダンジョンを攻略してやろうと思います。人類のためとかまでは思わないですけど、これから先も友達とスタバ行って馬鹿話するためには、それが必要みたいなので。私は攻略に参加します」
「ありがとう、沙耶さん」
楓花先生ははじめて裏のない微笑みを見せた。
これにて1章完!!
お読みいただきまして、ありがとうございました。半ば習作として書き始めた本作ですが、書いてみたらできがよく、ついつい当初の予定より長くしてしまいました。
序盤の動きが緩いのでWEBで戦うには不利ではありましたね。
話としては区切れても、ダンジョンはまだ残っているので、完結設定にはせず置いておくことにします。
続きを期待する声と私の気分が合致すれば、続きを書くこともあるでしょう!
一度に一つの作品しか書き進められない人種なので、気長にお待ちくださいませ。




