7-4 短期決戦
時間がない。
私は、飛び回ってアザディスの攻撃をかいくぐりながら、焦っていた。
アザディスは周囲に10個のオーブを浮かべ、そのオーブが次々と光弾を撃ってくる。一発一発は強い威力ではないが、受ければ衝撃で動きが阻害され、何連発も食らえば防御で手一杯になってしまいそうな攻撃だった。
変身は出来たとは言え、私が戦いを継続できる時間は短い。
魔蛸との戦いでの消耗から回復しきれていない。
幸いなことに変身する度に変身時間が延びてきている。体がどんどん適応していっている、力が目覚めてきたと言うことなのだろう。
それでも変身を維持できる時間は2分もない。
全解放は、不可。
つまり、ウルトラマンより短い時間で、スペシウム光線抜きで戦わなければいけない。
アザディスもそれを分かっているのか推測しているのか、ギリギリ交わせる程度の攻撃をしかけてきて、私に反撃の糸口を与えようとしない。
狙いは分かっている。
作戦を組み立てる時間を与えず、消耗させ、いちかばちかの大技に出てくることを狙っているのだ。
変身限界。
そこに持ち込まれてしまえば私になすすべはない。
アザディスに近づこうにも、近づこうとすれば光弾の弾幕が厚くなり、私を阻む。
焦る気持ちを抑えて私は回避に徹した。
消耗が彼の戦術なら、消耗を抑えての引き延ばしが私の戦術。
来るはずだ。
あの二人なら。
絶対に来る。
そう信じて、私は回避し続ける。
偽装のため、大技の魔法陣を展開しかけては光弾に阻まれ諦める、と言う演出もまぜた。
アザディスが一瞬陸地の方に目を送り、光弾が途切れた。
アザディスの視線の先に、儀同さんがいる。
いまだ。
私はチャンスと見定めて、魔法を展開した。
「魔弓の射手」
魔法が弓を造りだし、私はそれを左手で取った。弦を引くと、黒いエネルギーが矢となった。
狙いを定めようとした瞬間、アザディスの周囲のオーブの全てがこちらを向けてエネルギーを収束させた。
儀同さんの姿が霞のように消えた。
幻影。
狙われた。
2人を待つという私の作戦は見透かされ、攻撃を誘われたのだ。
魔法を放棄して避けるか?
いや。
私はそのまま矢を放った。
ほぼ同時にアザディスのオーブが光線を放った。
「防御障壁っ」
防御のために展開された障壁が光線を受け止めた。
障壁を砕こうとする光線と、障壁を維持し修復する魔力の流れが拮抗した。
光線が収まる。
障壁は砕かれていない。だが、かなりの魔力を消耗してしまった。
タイムアップが近づいている。
アザディスと目が合う。
私が放った矢がどうなったのか、自分でも見る余裕がなかったから分からない。おそらく避けられたか、受け止められたかだろう。
「やはり、まだかつての陛下には遠く及びませんね。私ごときに苦戦なさるとは」
オーブが再びエネルギーを収束していく。
1人では敵わない。
しかし。
海の中から何かが飛び出してきた。
その手には剣。
白銀に光り輝く勇者の剣。
「天衝剣!」
天から落ちるような速度で急上昇し、アザディスに斬りかかっていく。
アザディスは腕を交差させ、生じた障壁でその剣を受け止めた。
「お前は!」
アザディスが驚いている。
「勇者儀同瑞月、参上!」
儀同さんの姿がかき消え、私の前に現れた。背中が頼もしい。
「儀同さん……」
「鬼沢さん、遅くなって悪いわね」
「ううん、大丈夫」
「前衛が来たからにはもう安心よ。とっととあいつ倒して帰りましょう」
「うん」
頷きながら、私には分かっていた。
儀同さんが来ると言うことは当然菜摘も来る。
私は見た。
空を駆け、一筋の光となって迫ってくるその流星を。
跳び蹴り。
ただそれだけの技だ。
だが、物質が持つエネルギーは、速度の二乗に比例する。
その跳び蹴りは、その速さゆえに雷に匹敵するエネルギーを持っていた。
アザディスが気づき、振り返った。
回避する間はない。
防御。
跳び蹴りが命中し、雷が炸裂した。
「ぬうう!」
菜摘の流星蹴りでもアザディスの防御は破れなかった。
菜摘はアザディスの腕を蹴ってふわりと飛び退き、距離を取った。
「やはり、お前もか!」
「当然だろ」
菜摘は、アザディスのオーブが放つ光弾を最小限の動きですり抜け、その懐に入り込んだ。
くるりとアザディスの体が回った。
投げ技。
相手が人型であればこそ菜摘の技は冴える。
菜摘は空中で回転するアザディスを蹴りで追撃した。
アザディスが吹っ飛ぶ。
体勢を立て直したアザディスが菜摘を睨む。
「その姿、その気配、鬼王ゼチュアか」
「誰だよそれ」
菜摘は空中に床があるかのようにトントンとステップを踏んでいる。
「あたしは赤城菜摘ってんだ。覚えとけ」
名乗ってから、菜摘はアザディスとの距離を詰め、肉弾戦を挑んだ。
「さて、じゃあ私も」
接近戦に儀同さんも加わっていく。
アザディスはオーブによる攻撃と防御を駆使して2人の猛攻をしのいでいる。しのぐので精一杯という様子で、余裕はなさそうだ。
菜摘と儀同さんの連携はさすがで、相手に息つく暇を与えない。
私は最後の一撃にでることにした。
私は魔法陣を構築し、魔法を準備していく。
残された魔力で使える最大の魔法。この魔法に残り全てを込める。
胸の前で向かい合わせた手のひらの間に、闇黒の塊が生じる。
夜闇よりも深く、奈落から汲み出してきたかのような真の闇黒。あまりに冥すぎるがゆえにまぶしいその球体が、少しずつ少しずつ、巨大化していく。
大きさはバレーボール大。
まるでぽっかりと空間に穴が空いたかのような闇がそこに在った。
私はそれを腰だめに構えた。
タイミングを見計らう。
今だ。
見定めた瞬間、それを押し出す。
「聖天を崩す奈落!」
闇球が一直線にアザディスを襲う。
菜摘と儀同さんが見計らっていたかのように同時に距離を取った。
アザディスはそれを両手で受け止めた。
「ぐぅぅ!!」
暴れようとする闇を、手に込めた魔力で押さえ込む。
「負けるものかぁぁ!」
アザディスが叫びながら、闇を空高く弾いた。
弾き飛ばされた闇が昇っていく。
そこに菜摘の姿があった。
両手をがっちりと組み、ふりかぶっている。
「くらっとけ!」
菜摘が闇をたたき落とす。
闇は再びアザディスの元に。
「ぐぅっ」
アザディスは再び両手で受け止めた。
「ま、だ、ま、だぁぁ」
再度弾き飛ばそうとしている。
その胸の中央を、儀同さんの剣が貫いた。
「な―――」
ばかな、とアザディスの目が胸を貫いた剣を見た。
「全解放」
儀同さんの声が響く。
「暁謳う黎明の剣!!」
剣が光を放ち、同時に、闇が弾けた。




