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7-2 ダンジョンの主


「あぁまさか、日本の攻略者育成の要、銀月高校理事長をよりによってダンジョンの味方だなんて、面白い冗談ですね」


 楓花先生は余裕を崩さない。

 しかし私にとっては、その余裕こそが怪しさの裏付けになっていた。

 推理ドラマでの定番『犯人だという証拠はあるのか」と余裕を見せるのと同じだ。


「冗談とは思っていません」


 私が睨んでも、楓花先生はなんでもない様子だ。

「そもそも私は、楓花先生に声をかけられなければ銀月高校に入ることはありませんでした。

 私が月に来て、魔王の力を目覚めさせ、いちはやくダンジョンに足を踏み入れるというすべてに楓花先生が絡んでいます」

「魔王を地球で遊ばせておく余裕は人類にはありませんから」


 楓花先生の説明はその通りだ。そう考えても全く矛盾はない。


「そうでしょうか。儀同さんに私が地球に戻った場合のことを約束させられて、焦ったんじゃないですか。だから急いで演習という名目で私をダンジョンに入れ、第1層には現われないはずのモンスターまで使って私を捕まえようとした。

 私は、ダンジョンのあるじの使者にも会いました。私を、魔王の帰還を、待っていたそうです」


 牛頭馬頭を倒し、下層へ降りる前に姿を見せた少女の語った内容が思い起こされる。

 あの仮面の少女は魔王の帰還を待っていたと、確かに言ったのだ。


「ダンジョンのあるじの使者だと名乗ったんですか?」

「いいえ、明確には。私が魔王だと知っていたんです。なぜダンジョンは私を魔王だと知っていたのか。それは誰かが教えたからでしょう。

 しかし、ダンジョンの中と外で通信はできません。出入りは、国連によって厳しく管理されていますし、物理的に門を開けるという動作が必要な以上、監視は容易でくぐり抜けることは難しいはず。

 楓花先生、中から外に転移できるなら、当然、逆もできるんじゃないですか?」

「やだなぁ、一方通行ですよ。RPGゲームではダンジョン脱出の呪文はよくあるでしょう」

「そうかもしれないし、そうでもないかもしれません」

「推測ばかりですね。しかし、そうではないという証拠を示すことも難しいのも事実……」


 楓花先生は腕を組んで少しの間考えるそぶりを見せた。


「いいでしょう。沙耶さん、初めて会ったとき、私が言ったことを覚えていますか?」

「……なんのことです?」

「私は、『人類を救う禁断の果実を勧める破滅の悪魔』なんです」


 そういえば、そんなことを言っていた。

 楓花先生はゆったりと語りを続けている。


「この星の人類を救うには、この星の人類に備わっていた力では足りません。この地球ほしの人類は、あまりに物質側によりすぎて、物理法則による制約を強く受けてしまっていたからです。

 だから私は取引をしました。滅亡までの時間を買う代わりに、彼らの求めるものを提供する」


 彼らの求める者。

 まさかそれは。

 私が察したのを見て、楓花先生は頷いた。


「そう、魔王です。彼らが求めたのは転生した魔王。つまり、沙耶さんです」

解放リリース!」


 菜摘と儀同さんの声が重なった。

 しかし、鍵器に形を変えるはずの腕輪が反応しない。


「なぜっ!?」

「鍵器による前世覚醒システムを構築したのは私ですよ?」


 楓花先生が悠然とした笑顔を保ったまま指をパチンと鳴らすと、私を含めた3人の腕輪が小さく破裂し、割れ散った。


「当然、私に向けられないための細工はしてあります」

「楓花先生、あなたは……」


 儀同さんが楓花先生を睨んでいる。


「人類の味方ですよ。瑞月さんも、菜摘さんも、一紗さんも、ここでダンジョンに捕らえさせるわけにはいきません。私と一緒に戻っていただきます」

「鬼沢さんを置いて?」

「そうです。恨み言は後でいくらでも聞きましょう。力尽くでも連れていきますからね?」


 楓花先生の気配が強まった。意識が戦闘態勢に入ったのだ。

 強い。

 その気配だけでなんとなく想像が付いた。変身なし、鍵器なしで戦える相手ではない。


 儀同さんと菜摘が一歩前に出た。

 この二人、絶対断る気だ。

 私は確信して身構えた。


「そうですか、やむをえませ―――」


 言葉の途中で、楓花先生の喉を一本の細長い杭が貫いた。


 攻撃は右手、陸の奥の森の中から。

 楓花先生がそちらへ振り返ろうとしたところを、更に立て続けに5本の杭が飛来した。左肩、胴と立て続けに突き刺さり、楓花先生の体が衝撃で操り人形のように不気味に舞う。


 楓花先生が崩れ落ちた。


「楓花ちゃん!?」


 草薙先生が楓花先生に駆け寄った。

 私は倒れた楓花先生から目が離せなかった。


 首と胴。

 それは貫かれれば致命傷となりうる場所。


 殺しには来ない。殺されはしない。

 それがダンジョンのルールのはずだった。

 なぜ。

 なにが。

 死。

 その圧力が私の体を縛った。


「死ん……でる……」


 草薙先生のつぶやきが、いやに大きく耳を打った。


全解放フルバースト!」


 草薙先生は立ち上がりつつ変身し、刀を構えて森の方へと向き直った。


「掃破斬!」


 業火が森をなぎ払おうと殺到した。

 草に、木の葉に、火が付いて、たちまち森が火に包まれた。


 その火の合間から、再び杭が草薙先生めがけて飛んだ。

 2本を刀で弾くが、片手では上手く力を流せないのか、刀が流れる。3本目を弾けたのはギリギリだった。それで大きく体勢が崩れた。

 4本目はかろうじて頬を掠めて避け。

 5本目が草薙先生の右肩に突き刺さった。


 衝撃で刀が飛ぶ。

 6本目は、草薙先生の頭へ。

 直撃を受けて、草薙先生の体が飛んだ。


 私は目を倒れた楓花先生から動かせなかった。

 楓花先生は動かない。


「さっちゃん!」


 目の前に菜摘の顔が現れた。


「しっかりしろ。呼吸は深く、吸って。吐いて」


 言われるままに吸って吐く。


「そう。落ち着けるね?」


 言い聞かされて、私は頷いた。まだ後を引いているものの、少し平静を取り戻すことができた。


「よし」


 菜摘が改めて森の方に向き直った。

 儀同さんはすでに、私と森の間に入って警戒の構えを取っていた。

 菜摘が儀同さんの横に並ぶ。菜摘は腰を軽く落とし、両手を自然に開いて体の前で構えた。


「儀同、最近剣ばっか振ってたから、無手の感触忘れてんじゃない?」

「素手だって赤城さんに負けるつもりはないわよ」

「言うねぇ。上に戻ったら勝負しようぜ」

「いいわよ。負けた方がスタバ驕りね」

「オーケー、さっちゃんの分もな」

「もちろん」


 2人は下校途中のような気楽さで言葉を交す。


 炎の奥に人影が現れた。

 森を焼き尽くそうとする炎を意に介さず、ゆっくりと燃える草木をかき分けながら、私たちの方に向かってくる。


 森から出てきたのは青年の男だった。

 服装は完全にファンタジー。修道士のローブのような、魔王のローブに似たデザインの、漆黒のローブ。金の刺繍で彩られていて、正装といっても通用しそうな華麗さがある。


 男の表情は厳粛だ。

 どのような感情をその内に隠しているのだろう。ただ、不思議なことに敵意は感じない。

 目線は私を見据え、警戒感のない、優雅な足取りで進んでくる。


 私たちはその男を待ち構えた。

 男は5メートルほどの距離のところで立ち止まると、その場で跪いた。


「臣アザディス、まかり越しました」


 名乗った。

 私はこの男を知らない。

 状況から察するにかつての魔王の配下なのだろう。


「私は貴方のことを知らないけど?」

「転生なされたのですから、仕方の無いことかと。臣は、陛下の軍師としておそばに仕えておりました」

「貴方にはその記憶がある、と?」

「はい。臣は転生しておりませんので」

「そう。それで、何の用?」


 答えを予想しながらも、私は尋ねた。


「お迎えにあがりました。この地下王城は臣が陛下の為に用意した物でございます。君臨し、ふたたび魔王軍の御指揮をお取りください」

「指揮。指揮して何と戦えと?」

「あの星、地球の生命を無に帰す。それだけが我々が生存を許されるただ1つの道です」


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