5-3 牛頭と馬頭
「1年生は外側へ、2年生は中央から真正面よ」
対牛頭魔人の指揮を任された梅木先輩が指示を出した。私たちは指示に従って隊列を整えた。
「勇者チーム、変身の余力は?」
「いけます」
応えたのは儀同さん。
「よろしい、それじゃあ特別には守らないわよ」
「はい」
「1年生は私たちが戦っている間にすり抜けていきなさい。さーて2年生、ひよっこに先輩のかっこいいところ見せるわよ!」
梅木先輩が2年生の先輩達を鼓舞していく。
梅木先輩の鍵器は矛。
前世では大将軍だったそうだ。
「総員変身!」
梅木先輩が光に包まれ、中華風の黄金の鎧を纏った。
矛の石突きが地面を打つ。
「対軍強化・攻・防・速」
私たち全員の体が3度かすかに光った。梅木先輩による強化魔法だ。
牛頭魔人が足を止めた。私たちが戦う姿勢を見せたことに反応して、背中に背負う巨大な戦斧を左手で持った。
「かかれ!」
2年生たちが一斉に牛頭に迫っていった。
先頭は槍2人。歩調を完全に合わせて突撃していく。
牛頭は防御をしない。右拳を握り込み、槍の一人に向けて振るった。
拳を向けられた槍使いが身を翻してよけた。そのすきにもう一人が牛頭の胴体のど真ん中を突いた。
槍の穂先は牛頭の肌の手前で止まった。
障壁。
第3層のモンスターの障壁は厚く堅い。
二本目の槍が牛頭の目を狙う。
これも障壁に阻まれた。
槍二人が、風を切る轟音と共に振り払われる戦斧を飛び退って避けた。
そこに、魔法と矢が殺到する。
その全てを障壁で受け止め、牛頭はにやりと笑った。
その目が私を狙っているような気がして、私の背筋に何かが走った。
あの笑いは余裕でも嘲笑でもない。標的を見つけた歓喜だ。
「さっちゃん、どうした?」
「大丈夫、たぶん、気のせい」
魔王だからと言って魔物に好まれるとか、狙われるとか言うことはないはずだ。それはあくまで前世、違う世界での話なのだから。
私は頭を振って悪い妄想を外に追いやった。
先輩たちが牛頭に挑んでいく。
牽制と本命がものすごい速さで入れ替わりあい、牛頭を翻弄しようとしていた。
牛頭の体に攻撃が加えられていく。
攻撃の蓄積で障壁を破ろうというのだ。
「遠距離隊、構え!」
梅木先輩の号令に従い、弓や、魔法使いの杖が構えられる。栗原さんもライフルに魔法を込め、牛頭を狙った。
「前線散開!」
前衛の先輩たちが牛頭から離れた。
「撃て!」
再度の一斉射撃。
牛頭は射撃がうっとうしいのか、両手で顔を守った。
直後再び先輩達が殺到する。
牛頭が右の平手を振るい、1人を打った。剣を持ったその先輩は、両手でその平手打ちをしっかりガードしたが、大きく弾き飛ばされ壁際まで飛んだ。
「立野さん!?」
梅木先輩がその先輩に声をかけた。
「まだいけるよ!」
平手打ちを受けた先輩はすぐに戦列へ戻っていく。
「全解放!!」
その剣が白く輝く。
「1年。駆け抜けなさい!」
梅木先輩が叫んだ。
「聖・光・剣!!」
まばゆいばかりの光を放ちながら剣が振るわれた。
牛頭は戦斧でそれを迎え撃つ。
立野先輩の剣と牛頭の戦斧が撃ち合った。
閃光。
立野先輩の剣が放つ光に目をくらまされながら、私は壁際を走り抜けた。牛頭の背後の方へ。
回り込んで向き直る。
1年生チームは全員こちら側に抜けてこられたようだ。
立野先輩と牛頭は、剣と戦斧を打ち合わせたまま、押し合っている。周りの先輩達が牛頭を斬り、刺し貫こうと攻撃を加えるが、障壁は依然健在で、牛頭を怯ませることさえできない。
「くっ」
じりじりと剣が押されていく。
立野先輩の服と剣が光と散り、探索服に戻った。変身が解けたのだ。
戦斧が引かれ、代わりに拳が襲いかかる。
立野先輩が両手で拳をガードしようとした。拳がガードの上からたたきつけられ、立野先輩の体が飛んだ。
立野先輩は背中を壁に打ち付けられ、壁にびし、と大きなヒビが走った。
立野先輩が崩れ落ち、地面に横たわった。
気を失っている。
近くにいた弓士が立野先輩に掛けより、牛頭との間には斧を持った先輩が立ち塞がった。
牛頭はゆっくりと私たち1年生の方を向いた。
いや、やはりこれは私だ。
私は確信した。
牛頭はゆっくりと私にむかって歩き始めた。
先輩達が牛頭の前に回り込み、隊列を組んだ。気を失っている立野先輩は、先輩2人がかりで担ぎ上げて連れてこられていた。
その牛頭の向こう側で、草薙先生が馬頭と戦っていた。
ちらりとこちらを見て、刀を鞘に。
「全解放!!」
草薙先生が宣言した。姿勢は居合。方向は牛頭。
「全員、全力で走りなさい!!」
草薙先生が叫んだ。何をしようとしているのか全員が悟って、回れ右して走り出した。
「炎獄次元斬!」
私がチラリと後ろを窺うと、横一文字に走る炎の斬撃が牛頭の胴を灼いていた。
その草薙先生の背後で馬頭が大剣を振りかぶっている。
振り下ろされた。
草薙先生は、居合い斬ったままの姿勢で動かない。動けないのか。
「先生!!」
私はつい立ち止まって、叫んだ。
馬頭の剣が草薙先生の左肩を打った。




