5-1 ダンジョン演習
『ここに入るものは一切の希望を捨てよ』
そこにはそう書いてあるそうだ。
私にはラテン語は分からないから、ただのアルファベットの羅列にしか見えない。
大きな門ではない。
幅は3メートル、高さは3.5メートル。
少し縦に細長い長方形で、門枠は真っ黒な石で、門扉は金属質だ。装飾は全く施されていない。
これが月面ダンジョンへの入り口だ。
現在は門を囲うように建屋が設けられ、国連の職員がダンジョンへの出入りを管理していた。
今、門の前には、100人近い人が集まっていた。
その大半が日本の攻略隊だが、その中に、私も含めた銀月高校の生徒16名もいた。
「演習、がんばろうね」
栗原さんが気合いに満ちていた。
「初めてのダンジョン演習ね。モンスターに出会えるかしら」
「行くのは第1層だろ、楽勝だって聞くよ」
「どうせなら強敵がいいわ」
儀同さんと菜摘は自然体そのものだ。当然二人ともダンジョンに入るのは初めてなはずに、緊張感とは無縁そうだった。
「こっそり第2層入っちゃう?」
菜摘がにやりと悪い誘いをしてきた。
「へっ!? い、いやそれはよしたほうがっ」
私はと言うと、がちがちだ。
菜摘の冗談を笑って受け流す余裕はない。
「冗談だよ」
「わかってはいるけど……」
「入んないって。大丈夫」
「絶対入れさせないわよ」
草薙先生が釘を刺してきた。草薙先生は引率として一緒にダンジョンに入るのだ。
「2年生までは第1層だけ。第2層以下は3年生のインターンまで待ちなさい」
「もちろん分かってるよ、先生」
「ならいいけど。あまりなめてかかって第1層のモンスターにさえやられちゃうなんてことのないようにね。今捕まったら、禁固14年よ」
攻略者は、ダンジョンに捕まることを『禁固』と呼ぶことがある。30才まで解放されない。それが禁固刑のようだということらしい。
「出てきたらもうおばちゃんじゃん……」
「そうよ。だから絶対に油断しないように。足が速いやつに捕まったら助けられないかもしれないわ」
「気をつけます」
菜摘は神妙な顔をした。
草薙先生は満足そうに頷いた。
「開門!」
大きな声が響いた。
攻略隊の隊員2名が門扉を押し、開いていく。
「開門よし!」
「攻略隊、進め!」
号令一下、攻略者たちが隊列を組んで門へと入っていった。
私たち銀月高校の生徒組はそれを眺めた。
攻略者たちは皆、防刃性の白い戦闘服を着ていた。私たちも同じ物を着ているが、私たちは実習生であることを示す赤いラインが袖に入っている。
攻略者たちが全員ダンジョンの中に入って、門扉を抑えていた2人もダンジョンの奥へと入っていくと、門扉は自然としまりはじめ、閉じた。
ずん、と門が閉まる音がした。
「さて、じゃあ生徒達、いくわよ!」
草薙先生が声を上げた。
草薙先生の先導で、私たちは門の前に並んだ。1年生と2年生、それぞれのクラスから4名ずつだ。
この16人と草薙先生を合わせた17人で、1日ダンジョンに入る。
「開門!」
2年生が門扉を押し開いた。
開けきって、そのまま閉まらないように押さえている。ダンジョンの門は手を離せば自動で閉まってしまうのだ。
草薙先生を先頭に、私たちは門の中に入った。
門の中は広い部屋になっていた。100人も入れば一杯になってしまいそうなくらいの広さの部屋だ。壁際には電線がむき出しのまま設置された照明スタンドが並んでいた。
背後で門が閉じた。
部屋の床に設置された大きな魔方陣が光った。
ダンジョンに入った者を第1層に送る転移の魔方陣だ。
魔方陣の光は次第に強くなり、一瞬強く輝くと、私たちの姿を飲み込んだ。




