4-6 演習選抜
前世が魔王。
これはさすがの銀月高校の生徒たちも、押し黙っていた。
不安と戸惑いがクラスメイトたちの顔に表れている。その視線が私や、儀同さん、菜摘、草薙先生の顔を伺っていた。
誰も発言しないまま数十秒もの時間がたった。皆は思っていることを形にしかねている様子だった。
パン、と草薙先生が手を叩いた。
「はい、それじゃあHRに入るわよ。3人とも、そろそろ席にもどってくれる?」
教室の時間が再び動き出した。
その日の放課後、全ての授業が終わった後、私は職員室に向かっていた。
クラスメイトたちは、私の前世について何も言ってきていない。今日一日は、腫れ物に触るのを避けるように、ふんわりと遠巻きにされた感じだ。
“勇者”儀同さんと“暴れん坊村娘”菜摘が両脇に付いてくれたおかげか、表だって文句や嫌がらせの類いをしてくる人はいなかった。
だからといって快適なわけではもちろんない。
もちろんないけれども、今回は中学のときとは違う。
今回私は自分で前世を明かすと決めた。心強い味方もいる。
大丈夫。
そう自分に言い聞かせて前に立ったのだ。
私は職員室のドアをノックした。
「失礼します」
中に入って、草薙先生を見つけた。
既に職員室には儀同さん、菜摘、栗原さんの3人が来ていた。私たち4人は、放課後職員室に来るように呼ばれていたのだ。
「遅くなって済みません」
「大丈夫よ。さて、そろったわね」
うなずいた。
「用件はね、来週末の話よ」
「来週末、というと?」
儀同さんが聞き返した。
「ダンジョン演習」
「ダンジョン演習!!」
声がそろった。
「全員参加は秋からだけど、春の内から、一部の選抜生徒でダンジョンに入って演習を行うことになってるのよ」
「と、いうことはつまりあたしたちが?」
「そう。クラス対抗戦のチームでもあるし、ちょうどいいでしょう」
「……」
私たち4人は沈黙した。
私が選抜というのは自分でも『正気か?』って思う。降臨すれば暴走しそうな生徒をそんな演習なんかに連れてっていいのだろうか。
戸惑う気持ちと向き合っていると、栗原さんが口を開いた。
「辞退はできますか?」
「理由は?」
草薙先生に問い返されて、栗原さんは私をチラリと見た。
さもありなん。
「鬼沢さんです」
栗原さんははっきりと言った。
「降臨すれば暴走するような人と一緒にダンジョンに入るなんて危険すぎます」
「鬼沢さんは当面の間、降臨禁止よ。その心配はないわ」
「仮に禁止だとして、どうしようもなくなってしまったとき、他に手がないとき、それをしないっていう保証はありません。そしてそんなときにもし暴走されたら、一巻の終わりです」
「一理あるわね」
草薙先生は腕を組んだ。
「それなら」
「それでもよ。攻略者はチームメイトも、作戦も選べない。選ばれた以上辞退は許されないわ」
「あ、あのう」
私はおずおずと手を上げた。
「鬼沢さん、もちろんあなたの辞退も認めないわ」
草薙先生はにべもない。
「あなたがやるべきことは、栗原さんの信頼を得ることだし、降臨を制御することよ」
「……はい」
私は引き下がった。
「栗原さん」
儀同さんが口を挟んだ。
「鬼沢さんを信じてあげてくれないかしら」
「お姉様……けど……」
「こないだの暴走は、鬼沢さんにとっても驚きのことだったでしょう。同じことを繰り返すような人じゃないわ」
儀同さんに諭されて、栗原さんはうつむいた。
儀同さんを否定できないが、納得もしたくない。そういう感じだ。
「私は鬼沢さんを信じる。だから、そんな私を信じてくれない?」
「……」
沈黙。
草薙先生がそこにたたみかけた。
「今回のダンジョン演習は第1層。どこに何がいて、モンスターは何が出るか、全て判明しているわ。鬼沢さんが降臨しなければならない事態にはならない場所よ」
「……分かりました。辞退とか言い出してすみませんでした」
栗原さんは渋々妥協した。
「わかってくれればいいわ。詳細はまた何日か後に計画書が出来るから、それを渡すわね」
「はい」
返事をして、栗原さんがさっさと職員室から出て行った。
私はその背中を見送ることしか出来なかった。




