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4-3 魔法銃士


 栗原さんは、立ったまま銃床を肩に当て、左手で銃身をささえる立射の構えを取っていた。


 構えている銃は、時代劇ドラマで見たことのある、火縄銃のような形をしていたが、引き金に近い部分にある回転式のシリンダーと、銃身の上に取り付けられた近代的な光学照準器スコープが火縄銃とは全く異なる雰囲気を出していた。


 栗原さんは照準器を覗いて狙いを付け、引き金を引いた。

 引き金の動きに合わせてシリンダーが回転し、撃鉄が起きていく。


 カチン。

 撃鉄が雷管を打った。

 シリンダー内の魔石に込められて魔法が発現した。

 術式は栗原さんの18番、火矢ファイヤアロー


 魔法銃の内部で発生した炎の矢は、銃身内部に込められた加速術式によって速度を与えられ、銃口から一直線に飛び出していった。

 魔法銃無しで撃つよりも矢が速い。

 ビームライフルのような速度で炎が奔った。


 炎の矢は円形の的の中心をわずかにそれていた。

 栗原さんはそのまま、次の的に狙いを定め、撃った。

 6連発。

 5発が的にあたり、一発は外れた。


 栗原さんが銃を下ろす。ふう、とため息をついた。


「おぉー」


 私は思わず声を上げてしまった。

 かっこいい。

 私の賞賛の声に、栗原さんは照れくさそうだった。


「一発外しちゃった」

「体育館の反対側で5発も当たれば十分すごいと思うよ!」

「止まってる的に100発100中でなければ動く的には当たらないわよ」


 栗原さんは儀同さんの口調をまねた。真似たんだと言うことが一瞬で分かるほどそっくりだ。


「さすが儀同さんは厳しい」

「それだけ高いレベルでものを見てるってことだよ。さすがお姉様」


 栗原さんは、もちろん儀同さんと同年齢なのに、なぜか儀同さんのことをお姉様と呼んでいる。同じような人はクラスに何人かいるようだった。


「それで居残りを?」

「そう。速くお姉様の足を引っ張らないくらいにまでならなくっちゃ」


 栗原さんは、儀同さんと自主練をした後も一人残って練習をしていた。わたしが教室に忘れ物をして取りに戻ったときに、つい見かけてしまった流れで、そのまま練習を見せてもらっていた。


「なぁなぁなぁ」


 私の横で目を輝かせていた菜摘がしゃしゃり出てきた。


「次あたしが的やっていいか?」

「赤城さんが?」

「飛び道具対策しておきたいんだよ。大丈夫、全部こいつで弾くつもりだから」


 赤城さんが左拳を握って見せ、ガントレットを纏った。

 栗原さんがうなずいた。


「わかった。鬼沢さんはやる?」

「わたしはやらないよ」

「えー、さっちゃんもやろうぜ」

「私の杖は弾くのには向いてないやつだから」

「しょうがないなぁ。じゃあ今日はあたしだけってことで」


 菜摘は小走りに的のあるところまで走っていた。

 栗原さんは銃のシリンダーを横に弾き出すと、その中央にある魔石に親指を当てた。


「宿れ、炎よ。飛び、穿ち、貫くものよ」


 魔石が光った。まほうが込められたのだ。


 栗原さんはシリンダーを戻し、銃を構えた。

 菜摘は軽く腰を落とし、左手を前に突き出して待っていた。


 引き金が引かれ、炎の矢が飛ぶ。

 菜摘がガントレットで矢を弾いた。

 2発、3発、4発、5発。一直線に飛んでいく矢を菜摘が難なく弾いていく。


 6発目。

 菜摘の足下めがけて飛んでいった。低い。狙いはすねだろうか。

 菜摘は片足をあげてよけようとした。


 矢の軌道が、急に角度を付けて変わった。

 上へ。

 菜摘はとっさに上体を開いてそれをかわした。


「あっぶねー!」


 菜摘が叫んでいる。


「切り札だったのにー!」


 栗原さんも叫んでいた。


「いいね、もっと組み合わせて攻めてきなよ!」


 菜摘は楽しそうだった。

 私は二人の練習を眺め続けた。





「はい、では今日は、鍵器を使った降臨アドベントをやってみましょうか」


 校庭。草薙先生が1年1組の全員を並べていた。


「降臨については、儀同さん、わかる?」

「鍵器を使って、前世への扉を開き今世に降臨させる、ということですよね」

「そう、つまり変身よ」


 そう言って草薙先生は、腰の刀に手を添えた。

 刀が光る。

 光が帯となり、草薙先生の全身を包んだ。光が形を変え、いつものジャージではない服を形作っていく。


 赤い詰め襟の昔の軍服のようなデザインの上着。妙にたっぷりフリルの付いたスカート。肩は装飾の施された華美な赤マントが覆い、頭には白い羽飾り付きの筒帽がかぶせられた。


「と、こうなるわ。瞬間的にはかなりパワーアップするけど、長時間維持していると、強制的に戻って鍵器の解放さえできなくなるから、使いどころには注意が必要よ。じゃあ儀同さん、やってみて」

「はい」


 儀同さんが列から出て前にでた。

 鍵器を構えて、事前に教わったとおりに、イメージを固め、短い呪文を唱える。


降臨アドベント


 剣が金色の光を放った。

 儀同さんが変身していく。

 草薙先生と違って、儀同さんの件から出た光の帯は、全身を包むのではなく、儀同さんの胴体だけを包み込んだ。


 光が晴れたときに現われたのは銀の胸甲ブレストプレート

 儀同さんは体操着にブレストプレートというちょっと面白い服装になっていた。


「儀同さん、調子は?」


 先生に尋ねられて、儀同さんはじっと手を見て、握ったり開いたりしていた。


「試してもよろしいですか?」


 と言いながら草薙先生に向けて剣を構えた。


「きなさい」


 草薙先生も笑って刀を抜いた。刀身が赤く燃えるような色をしていた。

 儀同さんが大きく踏み込み、草薙先生に斬りかかった。


「はっ」


 瞬きする程度の一瞬の間で3振り。私の目には閃光が走ったようにしか見えなかった。

 儀同さんの神速の斬撃を、草薙先生は刀で受け流しきっていた。


 激突の余波が風を起こして、生徒達の髪を揺らした。

 儀同さんが退いた。剣を降ろす。


「ありがとうございました」


 一礼。

 草薙先生は刀を鞘に収めていた。


「初めての降臨でここまでできれば見事だわ。もっと覚醒率が上がれば更に強くなれるわよ」

「精進します」


 儀同さんは降臨状態を解いた。ブレストプレートが光になって散り、ただの体操着に戻った。


「じゃあ次は……」


 草薙先生が生徒を見回した。

 その目が私のところでとまった。


「鬼沢さん」


 全く心構えをしていなかった私は、呼ばれて体を震わせた。


「わ、私ですか?」

「そうよ。大丈夫、降臨で引き出されるのは力だけだから」


 草薙先生の言葉は私の前世に配慮してのものだろう。


「……はい」


 指名されては仕方が無い。

 私は杖を持って前に出た。


 目を閉じて、呼吸を整える。

 大丈夫。草薙先生も、儀同さんも、人格は変わっていなかった。怖がる要素なんてない。


「鍵よ。失われた過去への戸を開き、ここに喚び給え」


 自分の中に固く閉ざされた門扉があるとイメージして、その鍵を鍵器で開ける。


降臨アドベント


 扉が開く。

 その瞬間、私は意識を失った。


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[気になる点] 魔法しょうじ……先生おいくつでしグハッ [一言] これは魔王降臨!
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