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1-1 私の前世

序盤10話くらい後ろ向きになりがちな主人公ですが、徐々に上がってきますので、長い目でお付き合いくださいませ。

魔王様との約束ですよ?


「えー、鬼沢きざわ沙耶さやさんですね」


 スーツ姿の男が、手元のファイルを見ながら確認してきた。


「はい」


 私はその男の正面の椅子に座って頷いた。

 私は先月13才の誕生日を迎えて、前世診断という国の制度で自分の前世を調べてもらったのだ。


「じゃ、前世診断の結果をお伝えします」


 男は事務的な調子でファイルを開いた。


「沙耶さんの前世は、魔王でした」

「まおう」


 私はオウム返しに聞いてしまった。


「そうです」

「えっと、あの、それってどういうことなんですか」

「診断でそう出てるんだからそうなんでしょ。以上なんで、次の人呼んでください」


 男はどこまでもめんどくさそうに手を振った。

 追い払われるように私が待合室に戻ると、友達が駆け寄ってきた。同じ月に生まれた仲のいいクラスメイトだ。


「次私だよね。沙耶ちゃんはなんだった!?」

「えっとね、なんか、魔王って言われた」

「まおう? それって、ゲームとかアニメでよく見るやつ?」

「たぶん……」

「うわぁ、ラスボスじゃん。こわっ! 逃げろー、殺されちゃうー!」


 友達はそう言い残して、私が出てきた部屋に入っていった。それはふざけた調子の言葉だったが、私の心に深く刺さった。


「そうだね……」


 私はだれもいない空間に応えた。

 友達の言葉がいばらが全身を縛り付けてくるかのように駆け巡っていた。





 家に帰ると、母親がテレビをつけたまま夕食の準備をしていた。


「沙耶、おかえりー」


 母親が包丁を振るう音がとんとんとリズミカルに響いている。


「ただいま」


 私は短く応えて、テレビを見た。ちょうど夕方のニュースをやっているところだ。


「今日のニュースはこちらです」


 画面では、今日のピックアップとしていくつかの見出しが並んでいた。


「本日、月面ダンジョン攻略隊が基地に帰還したとの報告がありました。攻略隊24名は先週からダンジョン攻略に入っていましたが、今回、人類として初めて第四層に到達したとのことです」


 画面がスタジオから切り替わった。

 スーツ姿のおじさんが報道陣に囲まれている。何度もフラッシュがたかれていた。

 『総理大臣』とかいう人だ。


「本日、月面ダンジョン攻略隊が第四層に到達した上で帰還したとの報告があったことは事実です。現在、経緯を含めて詳細な報告を待っているところです。これは人類初の快挙であり、人類の存続に向けて大きな一歩であることは間違いないものと考えております」


 総理大臣は神妙な顔をしていた。


「沙耶、帰ってきたら手洗いうがいをしなさい」


 私はニュースを聞き流しながらキッチンに向かい、料理をしている母親の横で手を洗った。


「前世診断、どうだったの?」


 私は母親の問いかけに応えなかった。さきほど友達に言われた言葉がまだ耳の奥に残っている。

 私はニュースに聞き入っている振りをした。


 テレビ画面は再びスタジオに戻ってきていて、アナウンサーと『月面ダンジョン研究者』という解説者が話し合っているところだった。


「やっと第四層にたどり着いたと言うことですが」

「そうですね。タイムリミットまであと10年と迫った中で画期的なことです。ここしばらく攻略隊は第三層のモンスター達に苦戦し、第四層への階段を見つけることができずにいたのですが、ついに発見したということでしょう。これで第四層への最短ルートをとれるようになりますから、攻略が一気に進むことは間違いありません」

「期待が高まりますね」

「タイムリミットまでに最深部にたどり着かなければ人類を滅ぼす、という『例の金属板』を信じるかどうかという問題はありますが、攻略隊にはこのまま最深部まで頑張ってもらいたい、そう思います」

「最深部が何層目なのかも分かってないのにねぇ」


 母親がニュースにコメントした。

 不安なのだ。


 55年前、月面を調査していた無人探査機がひとつの空洞を発見した。

 そうした空洞があることはそれまでの探査で否定されていたはずが、『まるで突然発生したかのように』空洞ができていた。


 その空洞の中央には門が立っていて、ラテン語で『ここに入るものは一切の希望を捨てよ』と書かれていた。

 だれが作ったのか。

 当初はその議論に集中した。ダンテの『神曲』で地獄の門に刻まれているとされている銘文をラテン語で記したというその形態から、どこかの国がいたずらで作ったのではないか、との見方が大勢だった。


 その2年後、中国の有人探査の宇宙飛行士チームが、ついにその門を開けた。

 中に入った探査チームが帰ってくることはなかった。否、3年の月日が経ってから一人だけが帰ってきた。


 探査チーム唯一の女性でもあるその飛行士が語った内容は、常識では理解不能な内容だった。


「門の中は、古い時代の建物の中のようでした。ゲームで良くあるダンジョンのような感じです。なかには化け物がいて、私たちは化け物に襲われました。チームの他の飛行士はその化け物と内部の罠に殺されました。私だけが生き残れた理由は分かりません。化け物に捕らえられて気を失った後、気がついたら門の外に出されていましたから」


 その飛行士は、一枚の金属プレートを持たされていた。そのプレートにはやはりラテン語でこう記されていた。


『今から50年後に地球人類を滅ぼす。滅びたくなければ最深部まで来い』


 それから40年。

 人類は『月面ダンジョン』と名付けたそこを攻略しようという努力を続けている。


 ダンジョンについて分かっていることは少ない。

 40年もの試行錯誤の結果、わかっている基本的なルールは次のようなものだ。


 内部にはモンスターがいて銃ではモンスターに太刀打ちできないこと。

 男は殺されるが、若い女には殺傷性の罠や攻撃はなく、捕らえられるのみであること。

 捕らえられた女は30才になると門の外に解放されること。

 捕らえられてから解放されるまでの記憶は完全に消去されていること。


 こうしたルールから、現在では、ダンジョン攻略隊は若い女性のみで構成されているそうだ。

 モンスターと戦うために人類が手にした唯一の手段ぶき

 それが『前世』。


「お母さん、あのね」


 手洗いを終えて、私は手を拭いた。


「私、村娘だったみたい」


 私は嘘をついた。


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