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弟子、大師匠にお願いする

 オスカーさんの真意は分からないけど、兎に角大切にしてくれているのは間違いないらしい。それは日頃の言動でもよく分かるから、改めて思い知った形なのだけど。

 ……でも、大切って、間接的に言ってもらえて、胸がほわほわする。本当はちゃんと言って欲しかったけど、あれだけでも、良い。そう思ってくれている事には、変わりないのだから。


 そんな訳でへへへー、と上機嫌な私。オスカーさんは、私をつれて協会に向かってるのだけど、呆れたような眼差しを私に向けている。


「何にやにやしてるんだよ」

「ふふふ、師匠にとって私は大切なんだなって」

「そりゃあ俺の弟子だからな」


 素っ気ない返事だけど、想定内だったので落胆はしない。照れ隠しなのか、それとも『弟子』だから大切なのかは、考えない事にしている。

 まあどちらにせよ大切なのは間違いないので、良しとしよう。あとは、私が振り向かせれば完璧だ。前向きなのが私の取り柄だから、頑張らないと。


 オスカーさんの態度にもめげずに、私は握ってくるオスカーさんの手を握り返す。

 迷子防止という事で手を繋いでいるのだけど、やっぱりちょっとどきどきする。オスカーさんが、離さないってしっかり握ってくるから、照れ臭い。……まあ連行されてるんだけどね。


「師匠師匠」

「何だ」

「私、ユルゲンさんとお話ししたいので、二人にさせて貰えますか?」


 私の一言に、オスカーさんは一気に機嫌が悪くなった。


「……何でユルゲンなんだよ、何するつもりだ」

「師匠に内緒で秘密の特訓しようかと思って!」


 前々から思っていたのだけど、私が転移を使えないとかなり不便な気がする。

 師匠が居れば転移で戻れはするけど、常に師匠と居る訳じゃないし、テオ達と出掛けたらわざわざ送ってもらわないといけないもん。それじゃあ不便だ。


 だから、転移を使える、というかオスカーさんに教えたらしいユルゲンさんに教わろうと思って。オスカーさんには内緒にしておいて、後で驚かせようと思って。


「……内緒と言いつつ俺に言ってるな?」

「あ。……ええと、何をするかは秘密ですもん! 師匠には内緒です!」

「頼むから危ない事だけはするなよ」

「えっユルゲンさんに教えてもらっても良いんですか」

「止めても聞かないだろ。……それに、俺よりユルゲンを頼りたいって事は余程なんだろ」


 だったら仕方ない、と締め括ったオスカーさんは、何だか、やや不貞腐れたような雰囲気で。……あ、あれ、オスカーさん拗ねた? 自分頼ってくれないから、怒ってる?

 ちら、と見上げれば、仏頂面のオスカーさん。


「師匠、拗ねないで下さい」

「誰がそんな餓鬼みたいな事」

「顔が不機嫌ですもん。大丈夫ですよ、師匠びっくりさせたいからユルゲンさんに教えてもらうんですから!」


 だから師匠が駄目とかじゃない、と説明すると、オスカーさんは複雑そうな顔をしつつ、少しだけ安堵したようだ。

 ……やっぱり拗ねたんじゃないか、と疑ったものの、それが嫉妬という感情に似たものだったから、嬉しかったので黙っておいた。


 ただにへにへしながらオスカーさんを見上げてたら、視線の種類が分かったらしくサッと頬を染めて「うるさい」とデコピンしてきた。まだ何も喋ってないのに。

 ひどいですー、とおでこを押さえながら唇を尖らせた私に、オスカーさんは少しだけ機嫌が直ったのか楽しそうに笑みを浮かべるのだった。



 協会に着いてからは、別行動だ。

 オスカーさんは仕事の報告をしてから書庫で調べもの、私はユルゲンさんの元に。

 ただオスカーさんに「何かあったら直ぐに書庫に来るんだぞ、一人で帰ろうとかするなよ」と念押しされたので、あの誘拐未遂は私だけじゃなくてオスカーさんにまで影響を出しているようだ。……私も、思い出すと気持ち悪くなるから、あまり考えないようにしつつ周囲を見てるのだけど。


「おや、ソフィちゃん。どうかしたかな」

「ちょっとお願いが……」


 一応協会の頂点に君臨する人だけど、面会はあっさりと叶った。多分私がオスカーさんの弟子だから取り次ぎのタイムロスがほぼなかったのだろう。

 そこはオスカーさんに多大なる感謝をしつつ、かくかくしかじかと事情を説明。


「なるほどねえ……転移。使えるならかなり便利だとは、思うけど」

「だから覚えたいし、師匠びっくりさせたいんですけど……」

「うん、気持ちは分かるし、えーと……この間の事は、此方でも聞いているから、覚えておいた方が良いとは思う」


 ユルゲンさんにまで伝わっているだなんて、と思ったのだけど、ユルゲンさんが「いや絶対オスカーが王都に巣食う例の組織ぶっ潰したんだろうなあ、と。出来るのはオスカーかディルクくらいだよ」というお言葉をくれた。

 ……やっぱりオスカーさんだよねあれ。というか、ディルクさんもそんなに強いのか、とか感心してしまった。いつもは弟子の尻に敷かれてる感があるので。


「まあ、そういう事なら協力するよ。それに、転移ならソフィちゃんの方が向いてそうだからね」

「本当ですか!」

「オスカーより細かいし集中力あるからね。それにまあ……」

「それにまあ?」

「いいや、こっちの話だよ。兎に角、転移なら理論と練習は付き合うよ。オスカーを驚かせようか」

「はい!」


 どうやら乗り気らしいユルゲンさんに笑顔を咲かせると、ユルゲンさんは穏やかな笑みで私を見守るのだった。

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