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弟子の目標

「師匠、そろそろ私一人で依頼受けても良いですか?」

「駄目だ」


 えええええ。

 水竜の件は油断とそもそも事前情報がなかったので対処に遅れた、というのがある。だから、もうそんな失態は演じないし、油断するつもりもないし、危険なものは選ばないのに。


 でも、オスカーさんはそれでも駄目だと言い張ってしまうのだ。水竜に食べられかけたのと、この間の誘拐未遂の事がオスカーさんの過保護魂に火をつけてしまったらしい。

 兎に角、一人で出掛けさせてくれない。離れないでくれ、と言ったのは本気というか有言実行というか、寧ろオスカーさんが離さないのだ。


「私これじゃあ上達しませんー」

「側に居た所で変わりないだろ」

「そうですけどー」


 お出掛けの時は、私を絶対に一人にさせない。オスカーさんがついてくるか、テオやイェルクさんをつかせる。オスカーさんがついてくるのは兎も角、テオやイェルクさんの時間を取るのは頂けない。

 テオは仕事がない日なら喜んでしてくれるというか、寧ろ進んでしてくれる。私が襲われかけたのを後から知ってお説教されてしまったし。


 というか、よく考えればテオは私と違ってほぼ自活してるんだよね。一人前の剣士として、魔物討伐したりしてお金稼いでるし。お兄ちゃんだって弟子入りして、働きつつ技を盗んでいる訳だし。

 ……私だけオスカーさんに頼りきりだ。


「……駄目?」

「駄目だ」

「でも、私オスカーさんに頼ってばかりですし……私も経験積みたいですし、ちょっとでも家計の足しになれたら、と思うのです」

「経験積むのなら監督が居ても良いだろ。あと、家計とかは気にしなくて結構だ。俺の稼ぎでどうにでもなるし、お前一人くらい一生養える自信はある」

「……家事は私担当ですけどね」

「やかましい。それならそれで家の事だけしていれば良いだろう、俺はそれだけで充分だ」


 意地でも危ない事はさせたくないらしいオスカーさん。……むう、私だってやれば出来る所を見せたいのに。

 不満げに唇を尖らせると「ぶさいくだぞ」と余計な発言をするオスカーさんをべしべしと叩きつつ「私も依頼するー」と懇願する。


「そんな事してたらいつまで経っても師匠の弟子を卒業出来ませんー、側には居るけどちゃんと一人前になりたいですー」

「依頼なんてこなさなくても、一定の水準まで出来れば試験受けてどうにでもなる。というか正直、充分に魔法使いとしては成長してる」

「嫌です! 師匠の弟子なんだから、堂々と胸張れるくらいに立派にならなきゃ意味ないですもん!」


 オスカーさんが私を危ない目に遭わせたくないのも、重々承知している。

 でも、私はオスカーさんの弟子だ、最高位の魔法使いで最強の魔法使いであるオスカーさんの、唯一無二の弟子だ。

 その私が、中途半端な力で肩書きだけ魔法使いになるなんて、嫌だ。私はオスカーさんに認められて、一人前の弟子になりたいのだから。


 どうして分かってくれないの、と頬を膨らませて抗議する私に、オスカーさんは困ったように眉をハの字に下げた。


 心配なのは、分かるけど。私が危なっかしいのも、分かってるけど。でも、一人じゃ何にも出来ないような情けない魔法使いなんて、嫌だもん。


「私は、師匠の隣に胸を張って立てる魔法使いになりたいもん」


 このまま一緒に居ても、オスカーさんは、嫌がらないのかもしれない。でも、それだと弟子入りした意味がない。

 弟子を止めたくない気持ちだってあるけど、それ以上に、私はオスカーさんに一人前になった自分を見て欲しい。

 オスカーさんに相応しい女性に、魔法使いに、なりたいもの。


「俺は、幸せ者なんだろうな。弟子にそこまで言って貰えるんだから」

「……師匠」

「……無茶はしたら怒るからな? あと、手出しはしないのでせめて見守らせろ」


 苦笑と共に譲歩してくれたオスカーさん。やっぱりついてくる事は譲ってくれなかったけど、あくまで私の自主性を重んじてくれるようだ。

 ……何かあったら間違いなくオスカーさん今度はお外に出してくれなくなる気がするので、気を付けなくては。でも、心配してくれるっていうのは、嬉しい。大切に思われてる、って事だから。


 ちょっと仕方なさそうながらも認めてくれたオスカーさんに「ばりばり頑張りますね!」と意気込みを伝えると、オスカーさんに苦笑されながらも頷かれた。

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