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師匠のちょっとした変化

 改めて思ったのだけど、私は最近オスカーさんに寄りかかりすぎている気がする。

 いや、オスカーさんに寄りかかっても良いと言われてるし、無理するよりは頼れ甘えろと言われてるし、良いのだとは思うのだけど。


 何というか、守られてばかりな気がする。自分の至らなさと不甲斐なさがそもそもの原因であるとは重々承知しているのだけども。


「……むぅ」

「何だ、その顔は」

「私、資質があるとか師匠に言われてますけど、ぽんこつですよね。だってそんなに強くないもん」


 いつも守られてばっかりだ、と今までを思い返して、自分の弱さに溜め息ばかりが増産される。

 水竜の時は結果的にオスカーさんに助けられたし、誘拐組織の事だって、多分、というか十中八九オスカーさんが報復に行ったんだろうし。何だかオスカーさんに頼りっぱなしだなあ、と。


「……あのなあ。普通、習って間もないのにそこまで使いこなすやつなんて居ないんだが」

「間もないっていってももう四年ですよ? しかも途中自己流だったし」

「それは誠に申し訳ないと思ってます」


 オスカーさんが居ない間は独学でやってたのだけど、それはオスカーさんの後悔を再発させたらしくとても申し訳なさそうな顔に。

 せ、責めたかったんじゃないんだけどな。もう気にしてないし、オスカーさん優しくなったもん。女の子として見てくれるようになったし、案外良い事もあったし。


 地味に凹んでしまったオスカーさんにはぶんぶんと首を振って大丈夫ですよ、とアピール。


「気にしてませんから、ね?」

「あんだけ泣いたのにか」

「根には持ちませんよ。……それに、師匠はどきどきしてくれたんですよね! 喜ぶ事です!」


 散々子供扱いされてきたから、あの時異性として見てくれるようになったと吐露してくれて、嬉しかった。

 今は、それなりに、女の子として見てくれてるんだよね。ちょっと、恥ずかしいけど、でも私もオスカーさんを男性として見ているからおあいこだろう。


 へへー、と笑う私に、オスカーさんは口を微妙にもごつかせたけど、諦めているらしく何も言わない。


「……まあ、さておき。お前は充分にやってるよ。俺が教える必要なんてないくらいに、自立してるからな」

「えー、嫌ですよ、師匠に教えてもらわなきゃ。まだまだ知らない事とか出来ない事、一杯ありますもん。師匠に沢山教えて欲しいです。知らない事、全部」

「……俺にも教えられない事はあるぞ?」

「じゃあこれから一緒に知っていけたら良いです」

「これからも一緒に居るという言質を取ろうとしとないか?」

「えへ」


 ばれちゃった。

 でも、全部本音だもん。一緒に居たいのも、教えて欲しいのも、一緒に学んでいきたいのも。ずっと側に居てくれたら、私は幸せだ。


 結婚とか、そういうのは、分からない。だってオスカーさんが私の事を好きになってくれなきゃ出来ないもん。だから、側に居てくれるだけで充分。


「でも、これだと私だけ幸せで師匠に得はないですよね。でも、私に出来るのは家事だけですし……ええと、私しかあげられるものがないので、私を対価にしちゃ駄目ですかね」

「聞きようによってはとんでもない事を言ってるから止めてくれ。見返りとか要求しないから、好きにしてくれ」

「ほんとですか?」


 やったあ、と笑ってオスカーさんに抱き付……いたらちょっと照れた風に怒られそうだったので、膝の上に置いてあったクッションを抱き締めて、頬を緩める。

 許して貰えた、それだけで満足な私は安いのかな。でも、これからも側に居るっていう、ある意味で束縛のような事を許して貰えるのは、計れない価値があるもの。


 えへへー、とクッションをむぎゅむぎゅとたわませる私に、何故かオスカーさんは固まっていた。というか、ちょっと身構えていた状態で待機していたというか。

 オスカーさんが、瞳をぱちくりとさせている。私も、瞳をしばたかせた。


「どうしましたか?」

「い、いや……別に」

「もしかして、くっついても良かったんですか?」


 一応遠慮して一人で喜んだんだけど、もしかして今のはくっつかれるのを期待していたのだろうか。

 窺うと、オスカーさんはびくりと体を揺らして「良いとかじゃなくて、いつもみたいにくっつかれるかと思った」との事。……でも拒む感じじゃないって事は、許容しているのかな。


 にや、と笑ってクッションからオスカーさんにくっつく対象を変えると、分かりやすく体が揺れた。

 唸る声は微妙に聞こえたけれど、逃げはしなかった。


 べったりとはせず、寄り添うように身を近付ける私に、オスカーさんは此方を横目で見ては深々と溜め息をつく。


「……本当に、早く一人前にしないと俺が辛い」

「え? が、頑張りますね! 師匠を養えるように!」

「そういう意味じゃない馬鹿たれ」


 オスカーさんの腕に頬をくっつけて意気込む私に、オスカーさんは頭を抱えてしまった。

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