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元通りの生活と、ちょっとした変化

 何というか、一周回って、いつも通りの態度に戻れた。

 勿論、まあ色々と理解した事はあるのだけれど……それでも、私の態度は変えない事にした。

 そりゃあどきどきするけど、結局的に意識しても、好きな気持ちは変わらないのだ。寧ろ、好きという気持ちを表したいと思ってるし。オスカーさんが女の子として意識してくれるならば、ぐいぐい押さなければ。


 そんな決意と共にオスカーさんと接するのだけど、何だか微妙にオスカーさんの方がぎこちない気がする。

 前と同じように接していたら、オスカーさんが非常に居心地が悪そうだ。オスカーさんが前みたいに接してこいと言ったのに。


「師匠?」

「……確かに、普段通りにとは言ったんだがな。あんまりくっつかれると、困るというか」

「でもいつもくっついてますよ? それに、この間はオスカーさんから抱き締めてくれたのに」


 いつものように、べたべたはせずにぴとっと寄り添う程度なのに、オスカーさんは何だか困惑と羞恥がごちゃ混ぜになった顔をしている。

 先日のオスカーさんの大胆さは嘘のように消えて、やっぱり照れ屋さんな面ばかりが露になっていた。腕に凭れてるだけなのにこの反応をされるなんて。


「そ、それはその、……居なくなると思ったら、不安になったんだよ」

「居なくなったりしませんもん。側に居るって約束しましたし。師匠は私が養うのです!」


 えっへん、と胸を張ったら逆にオスカーさんが頭を抱えてしまった。


「……既に手放せない状況になっているのは策なのか」

「ふふふ、策だと思いますか」

「……お前の場合半分は素だろうな。尽くしたがるから」

「尽くすのが良い女性だと聞きました! あと女の人は影で支配するものだと!」

「誰だ余計な事を吹き込んだのは」

「お母さんですよ?」


 家事を叩き込んだのも、色々と教えてくれたのも、お母さんだ。……まあそっち方面の教育はされなかったけど、他は満面なく教えてもらっている。お陰で生活力皆無なオスカーさんとの共同生活は何の問題もなく出来てるし。

 一応商人の娘なので、算術も出来る。家計を預かってるのは私なので、これが地味に役立ってるのだ。


 お母さん仕込みの成果です、と自信満々に笑うと、オスカーさんはかなり複雑そうだ。「無邪気に強かなのはそのせいか」と呟かれたので、ふっふーんと笑っておいた。


 あ、いやオスカーさんを支配しようだなんて恐れ多いことは考えてないのだけど、オスカーさんの役に立ちたいからじゃんじゃん頼ってほしいなあ、と。


「兎に角、師匠の側から居なくなったりしませんよ。望む限り、側に居ます」

「……そうかよ、物好きめ」


 そしてゆくゆくは師匠の奥さんに、なーんてね。まあ、オスカーさん次第だけども。出来れば、事実婚とかなし崩しに結婚してもらうより、ちゃんと好きになって貰いたいな、とは思うのだけど。

 悪くは思われてないみたいだし、女の子として意識しているみたいだから、私が頑張れば好きになって貰える、だろうか。


 ……オスカーさんと家庭を築く、というのは何だか想像すると気恥ずかしいものの、よく考えればほぼ同棲生活みたいだから、今更だよね、うん。


「……踏ん切りつかない俺も俺なんだろうな」

「え?」

「いいや、何でも」


 聞き返すと、オスカーさんはやんわりと笑って、首を振った。それから、誤魔化すように私の頭を撫でてきた。


 それで誤魔化される私も私なのだけど、オスカーさんに触れられるのは大歓迎なので、そのままオスカーさんにしなだれる。んぅ、と甘えたような声が勝手に出てしまうのは、心地好さからだろう。


 オスカーさんに触れられる事は幸せで、微睡むような感覚にとろり、と瞼と頬が溶けたような錯覚。


「……油断するな馬鹿」


 危うく寝かけたのでオスカーさんにはたかれて起こされるのだけど、オスカーさんの手付きが悪いんだもん。


「……理解した癖に警戒心はないのかよ」


 ……それは誤解というか。

 私はオスカーさんだから油断するのであって、他の人にはしないもん。触って欲しいと思うのも、オスカーさんだけ。そこは、弁えてるもん。


 ふふ、と笑うと、オスカーさんは疲れたように溜め息をついた。……まあ、その溜め息が心の底からでないのも分かっているので、口許を緩めたままオスカーさんに身を預けた。

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