親子喧嘩勃発
「駄目だ」
帰って大真面目にお父さんとお母さんにお願いしたら、即却下されてしまった。
「何で!」
「当然だろう、まだソフィは子供だろう。家を出るのはまだ早い」
至極真っ当な言葉を返されてぐぬぬと唇を噛み締めたものの、まだ反論がなくなった訳ではない。
「お父さんだってお母さん誘拐してきた癖にー!」
「待ってくれ、私は誘拐した訳じゃないぞ!? お互いに同意した上でだからな!?」
「兎に角、私はオスカーさんについてくもん! 駄目なら私オスカーさんと駆け落ちする!」
「いかん、いかんぞ! ソフィが歳上の男と二人きりで生活なんて許さないからな!」
「テオとイェルクさんも居るもん!」
「全員男じゃないか! 余計に駄目だろう!」
ぎゃあぎゃあ言い合いをする私とお父さん。お母さんは、あらまあと微笑ましそう。……お母さんは、反対してない、みたい。というかお母さんも成人する手前くらいで親元から離れて(というか逃げて)お父さんと暮らし始めたみたいだし。
だから、私の事を他人事だと思えないのかも、しれない。
「大体、魔法使いなんてなれる訳がないだろう!」
「そうやってお父さんが頭ごなしに否定してばっかだから、お兄ちゃんがキレて家を出て行くんだからね!」
「ソフィはどちらにせよ出て行くつもりだろう!」
「だったら笑顔で見送ってよ!」
別に私は家族が嫌いな訳じゃないけど、昔からお父さんは私に執着している。というか、お兄ちゃんがお父さんに抑圧された結果反抗して出ていってしまったので、その分の愛情が私に注がれている、らしい。
……若干お父さんの自業自得な気がしなくもないけど、私はお兄ちゃんが出ていったのが悲しかったし、お父さんも後悔してたから、なるべく側に居るようにはしていた。
けど! 今回ばかりは譲れない!
お兄ちゃんが出ていったのも気持ちは分かる。だって、全部駄目だって言うもん。私達を心配してっていうのは分かるけど、私の自由意思も認めて欲しい。……ずっと会えない訳でも、ないのに。
「お父さん、私本気なの。オスカーさんの弟子になりたいの。……遊びとかじゃ、ないんだよ?」
「……駄目だ」
「何で!」
「今街に居るオスカーという魔法使いは、あれだろう。災厄の子とか言われる奴だろう」
「……災厄の子?」
「人並外れた魔法使い。歩く災害とも言われる、有名な男だ。そいつが一度怒れば、破壊を撒き散らすと言われている。幾ら魔物を退治しに来たからといって、善人だとは限らない」
……何で、そんな事言うの。オスカーさんの事、何も知らない癖に。知らないで、悪い人だと決めつけて。
ちょっとだらしないけど、優しくて、強くて、照れ屋さんなのに。いい人なのに。……人の噂だけで決め付けるなんて。
唇を噛み締めると、パキ、という音がした。触った覚えのない木製のテーブルにヒビが入ったのは、私の怒りを表しているみたいに見える。
「そんなやつの弟子になるなんて、」
「勝手に、オスカーさんの事決めつけて。お父さんはオスカーさんの事知らないもん、だからそんな事言えるんだ。……お父さんなんて、大っ嫌い」
これだけは言いたくなかったのに、お父さんがオスカーさんに酷い事言うから。
大嫌い、を力一杯強調して言うと、お父さんは凍り付いた。
お母さんの「まあ」というのほほんとした声が、静まり返った居間に響く。
ぎゅ、と唇を噛み締めた私は、顔面蒼白になったお父さんを睨む。お父さんも髪は白銀だから、血の気の失せた顔と合わせると本当に真っ白に見える。
……謝らないもん。
「私はオスカーさんについてくもん。お父さんの馬鹿! もう知らないからね!」
それだけ吐き捨てて自分の部屋に走ると後ろから「ソフィィィィィィ」と私を呼ぶ声が響いた。知らないもん。




