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幼馴染にご相談

 どうしよう。オスカーさんが最近萎れて来てしまっている。

 私がオスカーさんから逃げているというか、距離を置こうとしているのだけど、オスカーさんはその対応に凹んでしまっている、みたい。自分でも駄目だって分かってるのに、どうしても上手くいかない。


 避けたい訳じゃないのに、恥ずかしくて逃げてしまう。その度にオスカーさんが戸惑いに悲痛な色を混ぜた表情をするから、罪悪感だけが胸の奥に降り積もっていくのだ。


 あんな話聞かなければ良かった、と思う反面、聞いたからこそ今までの行動を反省出来るので、悩ましい。オスカーさんは、いつも困っていたのかもしれない。

 オスカーさんはくっつくと、恥ずかしそうな顔をしていた。その理由が今ならちゃんと分かるので、過去の自分を思い返すと色々と頭痛がする。


 ……どうしたら良いのだろうか。昔みたいに戻りたいと思う反面、無知だった自分にさよならしたいとも思う。


「……テオー」


 家が居心地悪くて仕方ないのでテオに会いに行ったら、変化に気付かれて直ぐに事情聴取になった。

 テオは聞き出すのが上手いというか、私が我慢しきれなかったので、あれよあれよという間に事情が漏れてしまったのだ。頑張って、あの夜の事だけは隠し通したけど。テオが怒っちゃうから。


 説明したら、テオは「漸く分かったのか、遅かったな」と呆れた声を出すものだから、ぐぬぬとしか言えない。


 だって、誰も教えてくれなかったもん。逆に何でテオは知ってるの。


「ソフィは極端だよな。いつも無邪気で居る癖に、知ったら急に女の子らしくなるというか」

「……だってぇ」

「はは、ソフィちゃんも女の子だねえ。まあ今までが近すぎたんだと思うよ」


 話を聞いていたイェルクさんは苦笑しながら話に参加してくる。

 そう言われれば、そうだけども。でも、オスカーさんは恥ずかしがったけど心底嫌がりはしなかったから。私だって知らなかったから何の羞恥もなくくっついていた訳だし。


「良い機会じゃないか、この際ちゃんとした距離感を覚えなよ。今までは零距離だったから」

「う……」

「まあ男としては役得だろうけど、オスカーには刺激が強かったかもねえ」


 ……距離が近かったのは、認めるけど。オスカーさん、女の人苦手だから、余計に恥ずかしかっただろう。

 でも、嫌がっては、なかったよね? その、オスカーさんからぎゅってしてくれる時もあったし。……あああ、思い出すと恥ずかしくなってくる……っ。


「だ、だって、テオは抱き付いても何も言わなかったし……気にしないでしょ? そんなものかと思って……」

「テオにも責任あるんじゃないの」

「お言葉ですが師匠、そもそもソフィの家系的にスキンシップ激しいから慣れてるだけです。それに、今更俺がソフィにどうこう思う訳がない。王都に来るまでは一緒に風呂とか入ってますからね」

「それもどうかと思うよ」


 そんな事言われたって、テオは私にとってお兄ちゃんみたいな存在だし、性別なんてそう気にした事がなかった。一緒に寝たり、お風呂入ったりしてたし、テオはある意味で特別な人だったもん。

 ……流石に今は、お風呂はちょっと恥ずかしいけど。


「ソフィ」


 悩む私を、横に腰かけていたテオが抱き締める。けど、それだけで、胸の高鳴りとかはない。安心感があるだけだ。

 今オスカーさんにされたら心臓が飛び出てしまう自信があるのだけど、テオには全くそんな事は思わない。……オスカーさんにだけ、どきどきしてる。


「何とも思わないだろ?」

「うん。全くときめかない。どきどきのどの字もない」

「君らちょっとおかしいけど、まあそこは置いておくとして。ソフィちゃんはオスカーを改めて意識してるんだよね?」

「……そう、ですね。……顔を合わせにくいです」


 テオの腕の中で、そのまま俯く。


 二人には言わないけど、あの夜の事があるから、余計にオスカーさんにどきどきしてしまうのだ。

 直接聞かなきゃ分からないけど、でも、確かにあの時オスカーさんは、男の人の顔をしていて。


 オスカーさんが私をどう思ってるのか、知りたいようで知りたくない。矛盾してもどかしいけど、これも本音だ。

 ……女の子として、あの時触れたのか。オスカーさんは、私だからあんな事をしたのか、それとも偶々居たからああなったのか。


 考えると、頭が靄で満たされて訳が分からなくなる。恥ずかしさと、得体のしれない何かが混ざりあって、胸をかき混ぜるのだ。


「……どうしたら良いんだろう」


 オスカーさんの事は、好きだけど、クラウディアさんに教えて貰った事とかは、想像出来ない。あんなの訳が分かんないもん。……知らない、もん。


 ぐりぐり、とテオの胸に額を押し付けつつ呟くと、テオは私のつむじに溜め息を落としてくる。


「別に、今そんな事気にしなくても良いとは思うが」

「え?」

「そういうのは恋人になってから悩めば良いんじゃないのか。別にあの魔法使いは、恋人でもない限り本当に手出しはしないだろ」

「まあヘタレだからね、オスカー」


 ……散々な評価だねオスカーさん。親友とその弟子から酷評だよ。


「異性として意識するのは良いが、必要以上にはしなくて良いだろ。スキンシップだって、あれはソフィなりのアプローチだったんだろう?」

「う、うん」

「なら節度を持ってすれば良いだけだろ。俺としてはあんまり面白くはないが、ソフィがしたいなら止めないし。……あの男と恋人になりたいとか思うなら、別に今まで通りでも良いと思うが」


 テオの言葉に、私は押し黙る。

 ……テオにはあの時の事を言ってないから、簡単に言ってくれるんだけど……それが中々に、難しいのだ。私だって、いつも通りに接したいんだもん。

 それが出来ないから、困ってる。割り切れないよ、急に。


 ……ちゃんとオスカーさんの気持ちを聞いて、整理をつけるべきだとは思ってるんだけど。一方的に逃げるのは、オスカーさんも傷付けるだろうし。


 小さく吐息を零すと、テオは宥めるように背中をぽんぽんと叩いた。

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