弟子の異変
……クラウディアさんから色々と教えて貰ってから、オスカーさんと顔を合わせるのが気まずい、というか。
オスカーさんが悪い訳じゃないというのは分かっているのだけど、心構えが中々に出来ない。突然触られでもしたら「うひゃん!?」と奇声を上げて飛び退いてしまう、というかしまった。
前はこんな事なかったのに、触られるだけで、心臓が跳ねてしまう。
オスカーさんの事が好きなのは変わらないし寧ろ昔より好きなのだけど、触られると過剰反応してしまうのだ。心地好いけど、何だか恥ずかしくて、体が勝手に反応しちゃうというか。
だから距離を取ってしまって、その度にオスカーさんに何とも言えなそうな顔をさせてしまうから、申し訳ない。
突き放したい訳じゃなくて、その、羞恥が無意識にそうさせるというか。
「……師匠」
唯一、オスカーさんが寝ている時は、慌てずに直視出来る。
朝起こしに来たらオスカーさんはベッドで熟睡していた。
この分だと当分起きそうにないので、少しだけ、ほっとしてしまう。……無視するというか、逃げてしまうと、オスカーさんは傷付いた顔をしてしまうから。
そんな顔をさせたい訳じゃないのに、どうしても、恥ずかしくて逃げてしまうから。私も、オスカーさんの側に居たいのに、もどかしい。
暑かったのか、ベッドでシャツが捲れてお腹丸出しで寝ているオスカーさん。普段なら可愛いな、とか微笑ましく思うのに……今は、何か見辛い。
シャツから覗いてる肌。白くて細いけど、体つきは男の人のもので。昔は見てても何とも思わなかったのに、どきどきしてしまう。
ぺと、と腹部に掌で触れると、思ったよりも、硬い。オスカーさん、引きこもりがちなのに、触った感覚はちゃんと引き締まってる。
……この体に抱き締められたとか考えると、無性に恥ずかしくて、目の毒だとシャツを直そうとして……紫の瞳が此方を見ている事に、気付いた。
「……おはよう?」
「ぇ、あぅ」
「何朝からセクハラかましてるんだお前」
今日は、珍しく寝惚けていなかったみたいで……慌てて離そうとして、半身を起こしたオスカーさんに手首を掴まれる。
「お前、最近変だぞ。俺が何か、」
「離してくださいっ」
思わず強く振りほどくと、オスカーさんは弾かれるようにベッドに転がる。
痛くはないだろうけど、呆然としている。……やってしまった、こんな拒み方するつもりじゃなかったのに。
私の馬鹿、と唸りつつ、でも寝起きのオスカーさんの纏う、何とも言えない雰囲気に、上手く言葉が出ない。捻り出そうにも、か細く息が零れるだけ。
どうして、こんなに私は動揺してるんだろう。いつもなら、笑って「おはようございます」って、挨拶出来たのに。……こんなの、私じゃない。
オスカーさんを傷付けてる自覚はある。私だって、こんな態度取りたい訳じゃないのに。
「ご、ごめんなさい。……その、おはようございます。朝御飯の用意してきます」
そう言って逃げ出した私は卑怯なのだろう。
顔が真っ赤になったのを隠しながらオスカーさんの部屋を飛び出すように去った私の背に「馬鹿弟子……」と呟く声が聞こえて、心の中でひたすらに謝るしかなかった。




