漸く自己紹介
「改めまして……ミアよ。先程はごめんなさい」
工房の奥にある生活スペース、その居間で改めてミアさんと向かい合う。ミアさんは「醜態を晒してしまった」と恥じているようだったけど、可愛らしい人だなと思ってるので大丈夫だ。
それにしても、ミアさんは美人だ。
さらさらとした濃い色の髪といい、凛とした表情といい、ちょっとうっかりした時に恥じらう仕草といい、お兄ちゃんには結構好み真正面な感じだと思ったり。お兄ちゃん、こういう綺麗な感じでちょっとギャップがある感じの人が好みだもん。
「本当に早とちりも良いところだ。どう見ても似てるだろ」
その割に、お兄ちゃんはあんまり反応していないみたいだ。好意的には見てるけど、異性としての好きって感じではなさそうだ。
ミアさんは、お兄ちゃんの言葉に唸っている。
「そ、それはその、仕方ないじゃない。慌ててたし。まさか、部屋でべたべたしてるとか思わないでしょう」
「ソフィは可愛いからな」
「はいはいありがとうねー、そろそろ妹から離れてくれると嬉しいな」
お兄ちゃんは私がどんな格好をしてても可愛いという兄馬鹿なので、本気に取るつもりはない。
膝に乗せようとするお兄ちゃんの手をはたき落としながら笑顔を浮かべて、ミアさんを見やる。
「いつも兄がお世話になってます。聞けば兄の面倒を見てくれているみたいで……本当に頭が上がりません。兄はご迷惑をかけてないでしょうか」
お兄ちゃんは私さえ関わらなければ真面目だし優しい人ではある。
ちょっと乙女心を分かってないのが残念だけども、理解しきってたらしきってたで怖いのでこのままでも良いのかもしれない。
まあなんにせよミアさんにお世話になってるのは間違いないので、私としては有り難いしそのままお兄ちゃん貰って下さいとしか言えない。いや言わないけど。
「オレはそこまで迷惑かけた覚えは」
「散々手間は掛けさせただろう。ミアにもアタシにも。ほんと、アタシが居なければ今頃どうなってたか」
「兄が何か?」
「ああ、アタシとライナルトは王都に来る前に知り合ったというか、別の町で絡まれてる所をアタシが助けに、というか仲裁に入ってねえ。色々あって、その縁で弟子にしたんだよ」
見ての通り中性的な顔立ちだからね、と笑うディアナさん。
……一人で飛び出して、お兄ちゃんみたいな童顔の男の人が一人旅してたんだから、確かにそういう危険もあったかもしれない。まああんまりお兄ちゃんに心配は要らないのだけど。
「言っとくけど、オレはぼこぼこにしようとしたんだからな!」
「うん、お兄ちゃんならすると思ったよ……」
お兄ちゃんはひ弱そうに見えて、案外腕っぷしは強いのだ。これでも小さい頃のテオに手解きしてたのがお兄ちゃんだし。
まあテオの方が強くなりはしたのだけど、お兄ちゃん自身はそう弱い訳じゃない。オスカーさんに一方的にやられてたのはそもそもオスカーさんが本気だしたからだし、剣持ってなかったから。
「可愛い女の子が絡まれたかと思えば、いきなり男を沈めていくからねえ。まあ、背後を狙われた所をアタシが助けたんだ」
「親方、可愛い女の子は止めてください。大体オレは歴とした男だし、今なら何処をどう見ても男でしょう」
お兄ちゃんは女扱いされるのが大嫌いなので、ちょっと不機嫌そうだ。……流石に今のお兄ちゃんは、中性的だけど男だとは分かる。身長はまあ、オスカーさんよりちょっと低いから、あんまり男らしいとは言えないのだけど。
「ほんと、女の子が良かったよ。絡まれていたのがソフィなら喜んで助けたし弟子にしたのに」
「そ、それは困ります親方」
「ん? ああ、ミアはソフィが弟子になったらライナルトと出会えないもんね」
「親方!」
かあっと頬を染めたミアさんは、可愛らしい。自分は可愛くないと卑下していたけど、全然可愛いのに。寧ろギャップが良いというか。
余計な事言わないでください、と睨んでいるけれど、睨まれたディアナさんはただ面白そうに笑っている。恋路を微笑ましく見守っている、といった感じだろうか。……見守るというかからかってるけど。
あわあわしているミアさんに、お兄ちゃんはただ不思議そうだ。
「別に会うと思うけどな。ソフィが居るなら、オレもソフィの所に行くだろうし。そうしてまたお前と知り合うんじゃないのか、また巡り会うだろ」
うわー……お兄ちゃん、さらっとこういう台詞吐くから……。ほら、またミアさん顔赤くして絶句してるし。
また巡り会うって響きは凄く良いんだけどな。ただその理由が私というのがちょっと複雑だ。……まあ、ミアさんが嬉しそうだから良いのだけど。何でこれでお兄ちゃん気付かないのかなあ。
「ソフィ、取り敢えずこれで満足したか?」
「お兄ちゃんはだめだめだと分かったかな」
「何でだ!?」
「や、うん。……取り敢えずお兄ちゃん、早くお嫁さん迎えてね!」
もうすぐ二十五歳になるんだから、そろそろ家庭を築いて欲しい。私は私なりに頑張るから。
私の勢いに「いきなり何なんだ、俺には可愛い妹が居るから当分良い」とか言い出したお兄ちゃんは、本当にだめだめだと思ったよ。ミアさん、ミアさんも頑張ってね。
ちょっと私事と作業が立て込んでるので少しの間更新遅くなります、すみません。




