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お兄ちゃんとお出掛けしよう

「ソフィ、お兄ちゃんとお出掛けしよう」


 お兄ちゃんと八年ぶりに無事に再会出来たのはついこの間の事。

 再会に喜んだのはお互いだし良いのだけど……頻繁にお兄ちゃんがうちを訪れるようになった。


 お兄ちゃんの事は嫌いではない、寧ろ好きだ。兄として好ましく思っているし、ちょっと過保護で心配性だけども、優しいし私の事を気にかけてくれる良き兄だと思っている。

 ……のだけど、お兄ちゃんは何とかして私をオスカーさんから引き剥がそうと毎週やって来るようになったのでちょっと困る。


「お兄ちゃん、出掛けるのは構わないんだけど約束を取り付けてからにしてね? というか仕事は?」

「今日は休みだからな!」

「まあそうだろうとは思うけど……お兄ちゃん、私に構わなくても自分の事して良いんだよ?」


 お兄ちゃんが私に構ってくれるのは週一だし別に良いのだけど、貴重な休みを毎回私に使うのはどうかと思うの。

 折角お兄ちゃんも休みなのだし、自分の事をして欲しい。……というかお兄ちゃん、私の心配する前に自分の心配して欲しいのだ。


 お兄ちゃんは器用だから自活は出来ると思うというか自活してるだろうけど、そうじゃなくて、例えばお兄ちゃんは好きな人とか居ないのかな、とか思ったりする訳だよ。

 私と八歳も離れているのに、お兄ちゃんは会う度私私で女の影を見せないのだ。色々と心配になってくる。……私が関わらなければ、整った顔立ちの男性なのになあ。


「オレはソフィとお出掛けしたいから来てるんだ」

「もー。……お兄ちゃんお付き合いしてる人は居ないの?」

「居ないな。仕事が忙しいし」

「……お兄ちゃんってなんの仕事してるんだっけ」

「細工師だな。装飾品作るお仕事してる。八年やっててもまだまだだけどな」


 お兄ちゃんは、手先が器用だ。小さい頃は私の髪留めを作ってくれたり、編み物とかもやってたりした。小物を作る職業に就きたいって言ってた。

 ……まあお父さんには色々と言われてたんだけど。お前はうちを継ぐんだからもっと勉強しろそんな遊びにかまけるな、って。


 そんなだからお父さんに反発してお兄ちゃんは出ていったんだよね。遊びじゃないんだ本気なんだって。


 その夢、叶ってたんだ。……良かった。


「八年もずっと頑張ってたんだね。お兄ちゃん、偉い」

「ふふ、ありがとうな。これでも大分進歩した方だからさ、いつかはソフィにアクセサリー作ってやるぞ。髪留めでも、約束した指輪でも」

「ほんと? 指輪作ってくれる約束、覚えてたんだ」


 昔はよくシロツメクサで指輪を作って、お嫁さんごっこをしたものだ。まあ相手は大抵お兄ちゃんかテオだったのだけど。

 お母さんが着けている結婚指輪が羨ましくてよく欲しい欲しいせがんでたのも懐かしい思い出だ。

 流石に無理だから、花の指輪で我慢してた。


 膨れっ面をしてた私にお兄ちゃんが「いつかソフィに似合う指輪を作ってやるからな」と約束したのも懐かしい。まさか実現出来る仕事に就くとは。


「じゃあ、結婚する時は指輪作ってね!」

「……ソフィはお嫁に出さない」

「出ますー。なれなくても師匠の側に居るから結果的に事実婚になるんじゃないかなって!」

「今恐ろしい計画を聞いたんだが」


 それまで黙って話を聞いていたオスカーさんが微妙に頬を引き攣らせている。……冗談だったんだけどなあ、そこまで嫌な顔しなくても。


「大丈夫ですよ、師匠が嫌なら大人しく引き下がりますし、好きな人が出来たなら卒業後此処を出ますよ。好きな人が出来たら流石に邪魔するのは悪いですし」


 ……そんな未来は想像したくないのだけど、オスカーさんがもし好きで結婚したい人が出来たら、ちゃんと身は引くつもりだ。我が儘な子になりたくないし、迷惑はかけたくない。

 だから、それまでにちゃんと意識させて振り向かせるつもりだ。年の差なんてあってないようなものだもん。それに差も一年くらいは縮んでるし。


「……そんな予定はないし、お前が居ないと俺は自活出来ないから居ないと困る」

「師匠……っ!」

「そこ! お兄ちゃんの目が青い内は許しません!」


 オスカーさんに抱き付こうとしたらお兄ちゃんに止められた。……むー、と唇を尖らせるとお兄ちゃんはわなわなと体を震わせて私を抱き締めてくる。

 お兄ちゃんはオスカーさんの何処が気に入らないんだろう。そりゃあ、家事は出来ないしちょっとへたれな所はあるけど、優しくて格好よくて強い、素敵な人なのに。


「兎に角! お兄ちゃん、許さないからな! 何でテオじゃないんだ……」

「なんでテオなの。テオは大切なお友達兼お兄ちゃんだもん。テオも確実にそう思ってるよ」

「……まあテオは『どう足掻いてもソフィは恋愛対象としては見られない』と言ってたからな」

「私もテオはそういう対象ではないなー」


 お互いに兄妹のように育ってきたからこそ、何も思わない。テオは私のすっぽんぽん見ても何も思わなかったみたいだし。十二歳まで一緒にお風呂入ってたし。


 お兄ちゃんは私とテオの関係に愕然としている。……逆に何でそこまでテオを推すのだろうか。


「あのねお兄ちゃん、私の事大切にしてくれるなら私の意思を尊重して欲しいの。分かる?」

「……それは分かってるが」

「大体、テオの意思だって無視してるじゃない。そういうの、良くないよ。お兄ちゃん、お父さん嫌いならお父さんみたいな頑固な人になってどうするの」


 お兄ちゃん、私が指摘すると凹みだした。お兄ちゃんはお父さんとの確執が完全に消えた訳ではないし、お兄ちゃん自身ああいうタイプの人は苦手なので、一緒にされたくはないそうだ。

 私としてもお父さんは好きなのだけど人の話を聞かない所は困ってるので、そういう所は苦手でもある。


「ほーらお兄ちゃん凹まないの。一緒にお出掛けするから」

「ほんとか!?」


 そしてお兄ちゃんは単純だ。取り敢えず嬉しい事があれば嫌な事を忘れてしまうので、何かあれば褒めたり遊んだりすれば良いのだ。

 ……扱い方を心得てるのってどうなんだろう、と思うものの、お兄ちゃんが嬉しそうに瞳を輝かせたのでまあ良しとしよう。


「師匠、お出掛けして来ますけど良いですか?」

「好きにしろ」


 オスカーさんとしてはお兄ちゃんが一々睨んでくるので早くおうちを出て欲しいのだろう。お兄ちゃんは何故かオスカーさんに対抗意識というか敵愾心抱いてるから、勝手に敵扱いされる事に辟易してるみたいだ。


 まあオスカーさんとは毎日一緒だし、偶にはオスカーさんを 一人にさせても良いのかもしれない。まあオスカーさん一人になりたいなら部屋にこもる人だけど、偶にはオスカーさんも静かにゆっくりしたいだろう。


「じゃあ行ってきますけど……お昼ご飯大丈夫ですか? えっと、朝作った冷製スープは冷やしてます。パンはキッチンの戸棚にある紙袋の中にあるのでそれ食べて下さいね。えーとおかず……」

「大丈夫だから行ってこい。腹減ったら外で何か買ってくるから」


 オスカーさんに火を使わせたら危険なので作り置いてるのを食べさせるしかない。一人残していくのが心配になるのだ。

 そんな私にオスカーさんは呆れながらも手をヒラヒラ振って送り出してくれた。……大丈夫かなあ、ほんと。


「あいつは全部ソフィにしてもらってるのか」

「家事は出来ないからねえ」

「……ヒモ」

「お金は師匠が出してるし、魔法は教えてもらってるからギブアンドテイクだよ」


 まあちょっと残念な所はあると思うけど、それでも素敵で大好きな人には変わりないのだ。

 ……と言ってもお兄ちゃんには理解されなかった。何でだろう。

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