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ユルゲンさんの贈り物

ちょこっとふざけました。番外編寄りのノリです。

 先日試験を受けて無事に合格した私。その時丁度良かったのでユルゲンさんに、誕生日に貰ったものが何だったのかを聞いてみた。

 何か薬みたいなのだけど、何故私に薬を寄越したのだろうか。


「ああそれ? オスカーが好きなものにソフィちゃんが近づけるようにって思って」

「師匠の好きなもの?」

「まあ飲んだら分かると思うよ。勿論、二人きりの時に飲んでね」


 ……よく分からないアドバイスをされたのだけど、取り敢えず二人きりの時に飲めば良いらしい。


 そんな訳で翌日、ふと思い出して、起きた時薬を一錠口に放り込んだのだけど……。


「……待って、これは予想外だった」


 飲んで直ぐは、何ともなかったのだ。

 ただ着替えたりしている間に、何か頭とお尻がムズムズしだしてきて。おかしいな、なんて思って頭に触れると、髪の毛の隙間から突き出たようにふわふわした何かが触れたのだ。それは神経が通っていて、三角形の形をしていて、温もりがあって。


 待て、これはおかしいと慌てて鏡を見て、もう何か予想外すぎて笑うしかなかった。


 誰が、猫耳が生えると思うか。

 因みにワンピースの裾を持ち上げるように尻尾までご丁寧に生えていた。


 ……これ、ユルゲンさんの薬のせいだ。絶対。

 確か、オスカーさんは猫が凄い好きなそうだ(ディルクさん情報)。可愛がりたくても、くしゃみが止まらないから近寄れないし飼えないし恥ずかしいしで猫好きは隠してるそうだけど。


『オスカーが好きなものにソフィちゃんが近づけるようにって思って』


 確かに近付いたけど、文字通り近付くとか聞いてない。

 手で触れると、やっぱり頭から生えているらしくてちゃんと触覚はある。血も通ってるから温い。……のは良いけど、これどうやって生えて、そしてどうやって戻るのか。


 ……取り敢えず、オスカーさんに聞いてみよう。多分オスカーさん、これは鼻で笑うと思う。だって、今の私、凄く間抜けな感じだもん。

 私は耳と尻尾が生えてるだけで、体は人間なのだ。オスカーさんが好きなのは『猫』であって『猫耳と尻尾』ではないと思う。


 猫耳を撫でつつ、オスカーさんの部屋に。

 相変わらずノックしても返事はなかったので、やっぱり寝ているみたいだ。どちらにせよ起こすつもりだったからいいのだけど。


「師匠、大変なんです起きて下さい」

「……ぁんだよ……」


 相変わらず寝起きは悪いオスカーさん。毛布にくるまったままもぞもぞしてるので「起きて下さい」と毛布をひっぺがした。ごめんなさいオスカーさん、割と緊急事態なので。

 起き上がったものの、まだ半分寝ているらしく寝惚けたまま。ぺちぺちと頬を叩いて起こすのだけど、顔が死んでるよオスカーさん。


「……何なんだよ朝っぱらから……」

「師匠、猫耳生えました」

「……は?」

「あと尻尾も。これどうしたらいいでしょうか」


 オスカーさんに近付いてもくしゃみが出る様子はなさそうなので一安心しつつ、まだ覚醒しきってないオスカーさんの手を取り、耳にそっと当てる。

 途端にオスカーさんは目を瞠り、それから何とも形容しがたい顔をするのだ。なんというか、驚きと焦りと微妙な歓喜が混ざった顔というか。


「……朝っぱらから何珍事起こしてるんだよ」

「ユルゲンさんに貰ったお薬飲んだら生えてきました。私のせいじゃないですー」

「不用意にあれから貰うものを飲み食いするな。確実に余計な事するから」


 オスカーさんはどれだけユルゲンさんを信用してないんだろうか。いやまあ今回のは確かに事前説明がなかったからこんな事になってしまったのだけど。

 全く、と溜め息をつかれてぽこんと軽く小突かれたので「ふにゃんっ」と声が漏れる。


 ……違う、違うのオスカーさん、わざとじゃないんだよ、こんな声出るとか思ってなかった。こんな甘えた声を出すつもりじゃあ、なかった。


「……それ、本当に生えてるのか?」


 オスカーさんの問い掛けは、やや、声がそわそわしている気がする。

 ……もしかして、猫耳でもオーケーなのだろうか。完全な猫じゃなくても、良さげ?


 ちら、と窺うと耳を凝視しているオスカーさんが居て、私は案外オスカーさん守備範囲は広いのか、とか謎の感想を抱きつつ、頭を差し出す。

 結果は想定外だったとはいえオスカーさんの為に飲んでみたんだから、オスカーさんに触れられるのは、喜ばしい事だ。


 オスカーさんの脚の間にぺたんと座ってどうぞと言わんばかりに頭を垂れると、オスカーさんは体勢すら気にせずにそっと耳に触れた。普段なら確実にこの体勢は恥ずかしがるというのに、恐るべし猫耳。


 実にオスカーさんはそわそわしていて、猫耳に興味津々だ。優しく触れてくれるけど、なんというか、手付きが擽ったくて仕方ない。

 けどさすられると気持ちよくて「ふにゃあ」と声が零れる。


「……本物かこれ。神経通ってるんだよな?」

「通ってますけど、……にゃっ!?」

「尻尾も骨が通ってるのか……どうなってんだこれ」


 いきなり尻尾に触れられて、堪らず声が漏れた。非常に擽ったいというか、むずむずするというか……背筋が、ぞわっと震える。

 するん、と手を筒状にして尻尾を通すように撫でるオスカーさん。その度に何とも言えないむず痒さが発生するから、色々と耐えなければならないので困る。


 もどかしくてオスカーさんに凭れて、私は私なりにオスカーさんを堪能する事にした。

 今日のオスカーさんは確実に寝起きと猫耳の相乗効果で、物事あんまり考えてない。兎に角ぺたぺた触っては、楽しそうにしている。調べる一貫に見せかけて確実にもふもふを楽しんでいらっしゃるぞ。


 オスカーさんが喜ぶならそれはそれで良いのだけど、何か、触り方が……恥ずかしい。心地好くは、あるのだけど。


 胸に凭れてもぞもぞする私に、オスカーさんはどうやら尻尾に夢中なようでもふもふ撫でて……それから、付け根の所まで触った所で、慌てて手を離した。


「っ悪い!」

「……止めちゃうのですか?」


 別に、オスカーさんに可愛がられるのは嫌じゃないんだけどな。顔が勝手にとろんとしてくるし、オスカーさんに触れて貰う事自体好きだもの。


 凭れながら見上げたら一瞬にして顔を真っ赤にしたオスカーさんが、肩を掴んで引き剥がす。それからぐいっとワンピースの裾を引っ張って、尻尾ごと隠れるように直すのだ。

 こてん、と首を傾げると「お前はお前で怒れよ」と何故か怒られてしまった。怒れと言うのに何故オスカーさんが怒っているのか。


「……と、兎に角、ユルゲンのあほに今から聞いてくるから!」

「え、ご飯は」

「帰ってきてからにする!」


 そう言うや否や、オスカーさんは私にシーツを被せて包んだ。なんなんだとシーツから顔を出そうとすれば「出るな」と強く言われたので、大人しくくるまるしかないのだけど。


 シーツの中で待つ私に届くのは、衣擦れの音。……外に出るから着替える、という事なのだろう。

 別に私、オスカーさんの下着姿見ても気にしないのに。そもそも私がお洗濯してるし。


「俺は問い詰めてくるから、お前は外に出ずに大人しくしておけよ」


 待っていたら、そんな台詞を残してオスカーさんは飛び出していった。……大人しくしとけ、と言われたのだけど、どうすれば良いだろうか。


 取り敢えずオスカーさんの言葉を実行すべく、私はこの場で大人しくしようと決めて、シーツにくるまったまま丸まって二度寝する事にした。

 オスカーさんが帰ってきたら起こしてくれる筈。


 ころんと遠慮なく転がって、私はオスカーさんの香りに包まれながら瞳を閉じた。

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