表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/149

二回目の師匠のお祝い(中編)

 昼御飯を適当に済ませた所で、来客を知らせる呼び鈴がなった。

 誰だかは薄々気付いていたのでオスカーさんと一緒に玄関に向かうと、案の定イェルクさんと、テオが居た。何だか大荷物で。


「誕生日おめでとう、ソフィちゃん」

「おめでとうソフィ」

「ありがとうございます、イェルクさん、それにテオも。……えーと、その荷物は?」


 ケーキを持っているのは分かってるんだけど、それにしては荷物が多すぎやしないだろうか。明らかに、ケーキじゃないものまで持ってきている気がする。

 両手一杯に紙袋を提げてその上で箱も抱えている。ご丁重にリボンでラッピングされているものまであって、流石にこれは戸惑うしかない。


「オスカー、先にケーキ受け取って。崩しそうだし」


 ケーキの入っているらしい箱を手渡すイェルクさん。オスカーさんはそれを受け取って、保冷庫に仕舞ってくるらしく一旦奥に入ってしまった。


「ああ、それでこれなんだけど、皆からの贈り物だよ」

「皆から……?」

「そう。ディルクやその弟子さん達とか、ユルゲンさんとか、あとソフィちゃんのお兄ちゃんからテオが預かったみたい」

「ライナルトさんと久し振りに会ったついでにな。……今日は二人で楽しみたいだろう、と師匠が予想したから、用事のある俺達が代わりに持っていく事になった」


 ……皆、誕生日気にしててくれたんだ。今年は、お兄ちゃんまで。


「えーと、僕が香水、テオが……」

「よく切れる包丁。鍛冶師に特注した」

「だそうだよ。色気ないというか女の子に渡すものじゃないと思うよほんと」

「実用性優先ですよソフィは」


 何というかテオは私の事をよく分かっているので、本当に使いそうなものを贈ってくれる。丁度今使ってるのが研ぎながら大切に使ってて、どうしても小さくなってきたし、有り難い。


 ありがとう、と笑顔で受け取るとイェルクさんに「ソフィちゃんは年頃の女の子からちょっと外れてる時あるよね」と突っ込まれた。

 いやその、可愛いものとかも好きだけど、実用性あるものはそれはそれで嬉しいというかね? イェルクさんの香水だって、嬉しいし。初めて使うんだけども。


「で、ユルゲンさんからは……えーと、怪しげな薬を預かってきたよ」

「怪しげな薬!?」

「体に害はないそうだから。でも飲む時は自宅で、との事。猫がどうたらとか」

「は、はあ……まあ害がないなら良いですけど。こちらは?」

「これはディルクから。『女の欲しがるものはよく分からん!』との事で焼き菓子の詰め合わせらしいよ」


 何というか、ディルクさんらしいチョイスだ。私の好きなお店……今日タルトを引き取りに行って貰った所と同じお店だけど、そこの焼き菓子を買ってきてくれたようだ。

 ふふ、と笑うとイェルクさんも肩を竦めて笑っている。……イェルクさんもディルクさんと面識があるらしく、彼らしいとの事。


「ま、なんにせよ、祝ってもらえて良かったな、ソフィ」

「うん。本当に嬉しい。今度お礼良いにいかなきゃ……二人も、ありがとう」


 抱えきれない程のプレゼントを手にして一杯一杯になりながらも笑うと、二人も嬉しそうに微笑んだ。

 私は幸せ者だな、と笑っていると、奥からオスカーさんが顔を覗かせる。


「玄関で荷物抱えたままで疲れないのか馬鹿弟子」

「あ、そうですね。二人共、上がっていってください」

「いや、今日は仕方ないから遠慮しとく」

「仕方ないから?」

「ん? ああ、オスカーがね、今年は二年間分一緒に過ごしてやるから来るなって」

「余計な事言うなあほ! 帰れちくしょう!」


 あ、オスカーさん照れて中に引っ込んじゃった。


 イェルクさんを見ると「照れ屋さんだねえ」と同じ感想を抱いたので、二人して笑った。テオはちょっぴり複雑そうだったものの「ソフィが楽しいのなら良いけど、何かあったら言えよ」と呟く。


 テオは、一年半の塞ぎ込みっぷりを一番近くで見てきたから、そこが心配なのだろう。……もう大丈夫だよ、今私、すっごく幸せだもん。


 応える代わりに微笑むと、テオは少しだけ安堵したように頬を緩め、くしゃりと頭を撫でてくれた。




「しっしょぉー」

「間抜けな声で呼ぶな」


 沢山のプレゼントを抱えて(二往復した)居間に戻ると、オスカーさんはソファに座ってそっぽを向いていた。


 プレゼントは一先ず全部テーブルに置いて、そのまま拗ね気味なオスカーさんにくっつく。「今日は一緒に居てくれるんですよね?」という台詞と共に引っ付けば、オスカーさんは拒まない。

 ちょっとずるいかなあ、なんて思ったけど、女の子はちょっとくらいずる賢い方が良いらしい。イェルクさんが言ってた。


「師匠師匠、今日は一緒に居てくれるんですもんね!」

「ソウデスネー」

「むむ。嫌なら離れますよ?」

「嫌とは言ってないだろ」

「じゃあ一日中側に居て下さいね!」


 嫌じゃないなら良かった、誕生日プレゼントが『側に居てくれる権』だもの、権利を有効活用しなければ。

 ……と、言っても、隣に居てお話しするくらいなんだけどね。それだけで、充分だし。


 ふふー、と腕に頬擦りすると「お前の距離感が怖い」と言われた。オスカーさんだけだから大丈夫だもん。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ