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二回目の師匠のお祝い(前編)

「誕生日おめでとう」


 誕生日当日、起きて居間に行くと、オスカーさんが待っていた。珍しく、私より早起きをしていたらしい。

 びっくりして固まった私に「そんなに俺が早く起きてるのはおかしいか」と不服そうな表情をされたので、えへへと誤魔化すように笑っておいた。

 ……だって、オスカーさん毎日起きるの遅いんだもん。最近は私が毎日起こしてるし。寝惚けるオスカーさんを覚醒に導くのは楽しいからいいんだけども。


「ありがとうございます、師匠。一番に言ってくれて、嬉しいです」

「おう」


 素直にお礼を言うと照れ臭そうに受け取ってくれたのでふふっと笑みを零し、それから今日くらい許してくれるかなとぱたぱた駆け寄ってオスカーさんに正面から抱き付いた。


 ぎゅむ、とくっつくと、丁度オスカーさんの胸板の所に顔がくっつく。

 そのまま見上げて笑うと、オスカーさんはちょっと体勢を崩して転びかけてしまった。かなり引け腰なので、そんなにこの距離は駄目なんだろうか。 


「ば、ばか、離れろ」

「駄目です?」

「……駄目じゃないけど駄目だ」

「難しい事言いますね」


 駄目じゃないけど駄目ってどういう事なんだろう。嫌がってはないけど。


「兎に角離れろ、朝ご飯用意するから」

「え、師匠が用意するのです?」

「ああ。卵を焼くくらい俺にも出来」

「ませんから私が用意しますね。師匠は座っててください」


 誕生日だから気遣ってくれたらしい。

 今日は家事に追われずゆったり 過ごして欲しいって事なんだろうけど……家事はする。師匠に任せるくらいなら私がする。前頑張って真っ黒焦げでキッチン中黒煙が占拠した事を私は忘れていない。

 同じ轍を踏ませる訳にはいかないのだ。後片付けに追われた私の為にも。


 即座に却下したので、オスカーさんはとても不満そうだ。……ごめんなさいオスカーさん、気持ちは本当に嬉しいんだけど、後々怖いのでご遠慮したい。


「そんなに俺が信用ならないのか」

「危うく隣人に火事だと思われかけたあの日を思い出してください。キッチンから煙が漏れて布製品に臭いが染み付いて取るの大変だった事も」

「……すみません」

「ごめんなさい。お心遣いは、本当に嬉しいのですが……」


 説得にオスカーさんは応じてくれた。良かった、誕生日に大騒ぎするのはちょっと嬉しくなかったから。

 まあ事件が起こっても、私の為にしてくれたからまあ良……くはないけど、怒れない。


 未遂で済んで良かった、とほっとしてると、オスカーさんはバツが悪そうに此方を窺ってくる。


「……俺、お前に頼りっぱなしで良いのかよ」

「気にしなくても良いというか……頼って欲しいです。私、家事ぐらいしか出来ませんし。……私、師匠に色んな物もらってるのに、これくらいしか返せません」

「あほ。……俺がお前から色んなものを貰ってるのに」


 私は、オスカーさんに何かをあげられているのだろうか。貰ってばっかりなのにな。


 自分では何かあげてるとかそんな感覚はないので首を傾げるしかないのだけど、オスカーさんは穏やかに笑って、ぽんと頭を押さえる。


「……いつも、ありがとな」


 オスカーさんの囁きに、私は小さく笑顔だけ返した。




 ご飯(私作)を食べた後ゆったりと居間で寛ぐのだけど、そういえば今日はどう過ごそうかと今更ながらに思い至るのだ。

 出来れば、お出掛けとかよりも二人で居る事を選びたいのだけど……。


 そう希望を口にすると「お前って金がかからないよな」と微妙な声。でもオスカーさんの時間を貰う訳だし、時はお金で買えないので贅沢だと思うんだけどな。


「でもケーキは買いにいかなきゃなんですよね」

「ああ、その辺心配しなくて良いぞ。頼んであるから」

「……頼む?」

「こないだ俺を引きずり回してくれた奴にな。事前に予約はしてあるから取りに行ってくれと頼んだら、喜んでお使いを引き受けてくれたぞ」


 ……つまりイェルクさんに頼んだ訳だ。イェルクさんも今回ばかりは断れなかったらしい。……私の為にお使いをさせたのはすごい申し訳ないんだけどな……。


「まあ気にするな。ついでにお前の祝いに来るらしいから構わないだろ」

「わあ、本当ですか? お祝いしてくれるの、嬉しいです!」


 二人でゆっくり過ごすつもりではあったのだけど、お祝いに来てくれるならそれはそれで凄く嬉しい。オスカーさんが居ない間はイェルクさんとテオ、ディルクさん達が賑やかしにきてくれてたし。


 誕生日って楽しいな、と笑うと、何故か微笑ましそうな眼差しで頭を撫でられた。……子供扱いされてる気がするけど、なでなでは嬉しいのでそのまま甘えておいた。

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