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泣き落としは効きません

「……」

「言いたい事があるならはっきり言え」


 今日は二人きり、というかイェルクさんがテオに稽古をつけてあげる事になったので、私はオスカーさんにべったりとしていた。

 今日はまだ、弟子にして下さい、とは言ってない。

 ただ、ベッドに座ってるオスカーさんに後ろからくっついていた。


 最初は猛烈な抵抗があったものの、私がただ後ろからオスカーさんの肩甲骨にぐりぐりと額を押し付けるだけなので、諦めてくれたみたい。ただ「はしたない」とは叱られてしまったけど。


 オスカーさんは、私が部屋に居る事は何も言わなくなった。ただ、少しだけ気遣わしげな態度を取るだけ。……私が泣かないように、気を配ってるのだろう。


「……どうしたら、弟子にしてくれますか」

「どうしたらって」

「だって、弟子にしてくれないですもん。……本気なのに」


 泣いてはいない。けど、やっぱり悲しい。

 私は子供だと認めたくないけれど、まだ子供で、親の庇護下に居る。オスカーさんは、大人で、自活している。きっと優秀な魔法使いだから、お仕事も沢山あるんだろう。

 本当は、引き留めちゃ駄目だって分かってるし、我が儘を言うべきじゃないって分かってるのに。


 大人だったら、弟子にしてくれたのだろうか。


「お前は、まだ子供だろう。親の庇護下に居るべきだ。親に愛されてるなら尚更だ」

「オスカーさんは何歳ですか」

「十八だが」

「……いつから、魔法使いになったんですか」

「五つの時だな」

「じゃあ!」

「俺は例外だ。俺は身寄りがなかったから師匠に拾われたし。だからこそ、お前はちゃんと愛情を受けて大人になってくれ。間違っても、俺みたいな人間にはなってくれるな」


 振り返らないまま私に諭そうとするオスカーさんの声は、やや渋さを帯びたものだった。

 ……オスカーさんには家族が居ない、んだ。思い出させたくない事を思い出させてしまったかもしれない。……私は、オスカーさんが望んでも手に入れられないものを持ってるからこそ、手放すな、そう言いたいんだろう。


 ……そう、だけど。

 でも、私、オスカーさんについていきたいのに。あなたの、弟子になりたいのに。


「……愛情を受けて育てば良いのですね?」

「ん?」

「じゃあオスカーさんが愛情を注いでくれれば良いと思います!」

「お前その話の飛躍凄いな!?」


 ぐり、と勢いよく振り返ったオスカーさんににっこりと笑顔を返すと、距離が近かったせいか僅かに頬が赤らむ。

 子供だ子供だ言う割に、そういう所は女の子として扱ってくれるオスカーさんが可愛いとか本人には言えない。


「え? だって子供は愛情を受けて育つべきだってオスカーさんが」

「言ったけどな!? おかしいだろ!」

「おかしくないですよ。オスカーさんが私を弟子として可愛がってくれたら、それで条件クリアじゃないですか! ……あれ、オスカーさん?」

「……や、なんでもない」


 何で頭抱えてるんだろう。


 そういう意味か、とか小さく呟いたオスカーさん。それから暫く無言の後、嘆息。


「一つ聞くが、お前、何でそんなに俺の弟子に拘るんだよ」

「オスカーさんの人柄が好きです」

「ぶっ」

「最初は、魔法使いなら誰でもって思ってたけど……今はオスカーさんじゃなきゃ、嫌です。駄目な所もあるけど、強くて、優しいオスカーさんに惹かれたから、オスカーさんの弟子になりたいんです。言わば一目惚れですね!」

「分かったからもう黙ってくれ」

「オスカーさんから聞いてきたのに!」


 私だって恥ずかしい堪えてお話ししたのに、本人が耳を塞ぐって。勇気を出してお話したのに酷い。

 むー、と背中を叩くと、漸く調子を戻したらしいオスカーさんが振り返って代わりに頭をぽかり。けど、痛くはないから、きっと冗談のものなんだよね。


「オスカーさん、弟子にして下さい」


 今日始めてお願いをすると、オスカーさんは困ったように首を振った。……ああ、やっぱり駄目なのかな。

 泣き笑いを浮かべると、オスカーさんは眉間に皺を刻んでしまう。困らせたい訳じゃないのになあ。


「お前が成人してたら、あるいは考えたんだけどな」


 あと、三年。大人にとっては、たった三年。でも、子供の私にとっては、大きな三年。

 ……そんなに待てないよ。その間に、オスカーさんは私の事を忘れてしまうんだろう。だって、オスカーさんは、忙しくて、凄い魔法使いだもん。


「じゃあ、弟子じゃなくても良いから、側に置いて下さい」

「そっちの方が無理だと思わないか?」

「……ですよねえ」


 笑って、私はオスカーさんの背中に額をくっつけた。

 ……どうにかして、オスカーさんに認めてもらえないかなあ。無理、なのかなあ。

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