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ちょっぴり駄目男?

 取り敢えずオスカーさんの宿はうちになり、一週間程滞在する事となった。オスカーさんは申し訳なさそうだけど、私とお母さんは大歓迎だ。

 ……お父さんとお兄ちゃん? 知らないもん。いつまでも口出ししようとするなら放置するしかない。それに、……オスカーさんにはちょっと悪いのだけど、ある意味二人が結託してくれるから。

 まあそれが私とオスカーさんの仲を阻もう同盟とかだから二人は困った人なのだけど。

 勿論お説教がお母さんから飛んでいた。お母さんは娘の自主性を重んじてくれるので本当に有り難い。


 そんな訳でお泊まりが始まったのだけど、私が朝起こしに行くのは変わらない。寧ろうちは朝が早いから、ご飯の時間にオスカーさんは放っていたら起きてこないのだ。


「ししょー、朝ですよー。ご飯です」


 ちゃんとノックをしてから入ると、やっぱりオスカーさんは寝ていた。どんな場所でもちゃんと寝れるのは良い事で良いと思うのだけど、朝ご飯を食べて貰いたい身としては起きて欲しい。


 お父さん今日は取引先の所に行くから早めのご飯だし、これを逃すとお母さんはお母さんで用事があるらしくてお出掛けしちゃうので食べられなくなる。……まあそうなったら私が作るんだけども。


「……師匠、起きてー。起きなきゃのし掛かっちゃいますよー」


 起きなければ実力行使も辞さない。といっても乗っかってゆさゆさするか頬をぺちぺち叩くくらいなんだけど。

 オスカーさんは疲れてるのか、中々起きてくれない。……他人の家だからってのもあるだろうし、何か昨日お父さんとお話ししたみたいだから寝るのが遅かったようだ。

 お父さんにぐちぐち言われたなら後でお父さん叱ろう。


 兎に角起きないオスカーさん、どうしたものか。

 個人的には寝かせてあげたいんだけどなあ。疲れてるなら、起こすのも悪いし。


 ……まあ、ご飯は後で用意すれば良いか。今は寝かせてあげよう。


「ゆっくり寝てて良いですよ、師匠」


 柔らかい夜空色の髪を撫でてふふっと笑い、頬をぷにぷにつついてから部屋を後にする。……オスカーさんの寝顔が可愛かったので、ちょっと朝からほっこりした。

 今日は家に人が居なくなっちゃうけど、オスカーさんが居るなら良いや。久し振りのおうち、ゆっくり楽しもう。




 オスカーさんが起きてきたのはお昼を過ぎてからだった。

 もうお父さんも仕事に出掛けちゃったし、お兄ちゃんは出奔の際ご近所さんにご迷惑をかけたのでお父さんの命令によりお詫び行脚と顔見せ。お母さんは元々あった用事で夕方まで帰ってこないので、今この家には二人きりだ。


 階段を降りてきたオスカーさんは着替えていたものの寝癖だらけ。

 そりゃああれだけ寝てれば寝返りも結構打つよね、と納得しつつ、タオルを渡して「顔を洗ってきて下さいねー」とそのまま洗面所に押しやっておいた。


 その間に櫛を用意しておく。どうせオスカーさんは髪とか直そうとしないんだから。


「……今何時だ」

「お昼過ぎです。皆出掛けちゃってますから、私がご飯作るので待ってて下さいね。あと寝癖直すからそこに座って下さい」

「おう」


 顔を洗って目が覚めたらしいオスカーさんが素直にソファに座ってくれたので、そのまま前から温風を魔法で出しつつ髪を梳く。

 さらさらな癖に結構オスカーさんの寝癖は頑固なので、髪を傷めないように気を付けつつしっかり直さなければ。


 ……と思って悪戦苦闘してたら、オスカーさんは何故か両掌で顔を覆ってしまった。


「師匠?」

「……俺ほんとお前に何でもやってもらってる気がする」

「ふふ、それが当たり前になってきちゃいましたね」

「……駄目男一直線……」

「そんな事ないですよ。師匠は一芸に特化してますから。……はい、綺麗に整いましたよ」


 あちこちに跳ねていた髪を綺麗に纏めて笑うと、オスカーさんは「……ありがとう」と小さく呟く。

 その一言だけで、私は充分に幸せだし、報われてると思うから、良いのだ。


 複雑そうなオスカーさんに笑って、ソファにかけていたエプロンを身に付けつつ「ご飯用意しますねー」と声をかけておく。朝ご飯逃してお腹空いてるだろうし、しっかり食べさせなきゃ。保冷庫に何があったかなあ。


 手を洗ってふんふーん、と鼻歌を歌いつつ丁度あったジャガイモでも茹でようかなと皮をナイフで剥き始めると、オスカーさんは形容しがたい顔で私を見ていた。


「……俺、幼妻持った気分だわ……」


 ……オスカーさん、幼いは余計。


 でも、妻っぽいと言われてちょっと嬉しかったので、突っ込まないでおいた。若奥様気分だ、私も。えへへ。




 今日は二人分で良いので、そんな凝ったものも作らない。

 茹でたジャガイモは潰して軽く塩胡椒で味付けて、余ってたベーコンで包んでカリッとするまで焼いた。中にチーズを入れてるから割るととろーりととろけたチーズが出てくるのだ。

 それと、サラダと朝の残りのトマトスープ、それとパンにバジルバターを塗って焼いたもの。まあ、これでお腹一杯にはなるだろう。起きがけにはちょっと重いかもしれないけど。


「お前、街に出なくて良いのか?」


 ご飯を食べつつの会話。ちゃんと美味しいって言ってくれたのでついついにこにこしてしまって、オスカーさんに「にやにやすんな」と拗ねられてしまったけど。


「そうですねえ、今日はゆっくりして、明日出ようかなーって。まだ疲れも取れきってませんし」

「……そうか」

「師匠さえ良ければ、明日一緒にお出掛けしませんか? 私も久し振りに街を見たいですし」

「構わんが」

「ふふ、じゃあ約束ですよ!」


 思えば、小さい頃はオスカーさんとこの街を歩いた事は殆どない。魔物退治にくっついていっただけだし。

 だから、ちゃんと一緒にお出掛け出来るって良いなあ。王都では結構一緒にお買い物はするようになったんだけどね。


 もう撤回はなしですからね、と笑うと、少しだけ眩しそうに私を見るオスカーさん。

 いつもより、心なしか、優しげに見える。


「どうかしましたか?」

「いーや。……お前は、変わらないなって」

「む。こう見えて成長したつもりなんですけど」


 オスカーさんは何処を見ているのだろうか、ばっちり成長してるだろうに。オスカーさんだって私の成長に戸惑った、って言ったもん。

 もぉ、と唇を尖らせるものの、オスカーさんの眼差しは変わらなかったので、ちょっぴりむかついたのでプチトマトをオスカーさんの口に突っ込んでおいた。

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