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師匠とご飯

「向こうでの生活はどうだった?」

「楽しいよ、皆仲良くしてくれるし、お友達もちゃんと出来たもん」


 オスカーさんがうちにお泊まりでちょっと高揚している私。


 お父さんお母さんも向こうであった事を気にしてるらしく、色々な事を聞いてくる。

 向こうでは不自由なかったか、楽しいか、修行は辛くないか、次はいつ帰ってくるんだ、帰ってこないのか、いつになったら弟子を卒業するんだとか。


 後半はお父さんの台詞である。兎に角早く帰って来て欲しいらしい。どれだけ早く帰って来て欲しいんだろうか。


 流石にそんなに早く弟子を卒業出来ないだろうし、卒業しても帰りたくない。オスカーさんの側に、居たいもん。オスカーさんが許してくれたら、だけど。

 お父さんに急かされても帰る気はない。それに、女の子はいつか旅立つものだもん。


「まだまだ帰らないよ、未熟だし、私師匠の側に居たいもん」

「ソフィ、花の十代を無駄にする事もないと思うんだ。早く帰って来てくれ」

「……お父さんって絶対に私が結婚するとかになったら発狂するよね」

「結婚!? 私は認めんぞ!」


 お父さんが勢いよく立ち上がったのを私とお母さんはスルーしてご飯を食べる。お兄ちゃんは「ソフィ……」と今から悲しそうな顔をしてるけど、そもそもオスカーさんが振り向いてくれない事には無理だから。

 オスカーさんが居た堪れなさそうな顔をしているけれど、それはお父さんが睨んでいるからである。お父さん、早とちりしすぎ。


 一人で怒り出してしまったお父さんは流しつつお母さんと「私も一度王都に行きたいわ」「いつかおいでよ」と和やかな会話をする。

 お父さんは暫く放置すると意気消沈して悄気ながら座るのが今までの経験で分かってるので、私もお母さんも対応は慣れたものだ。オスカーさんが「良いのかよあれ……」と困惑してるけど、良いの。


 やっぱり悄気たお父さんが着席したのを確認してから、私はオスカーさんに視線を送る。


「師匠、私はまだまだ師匠の側に居ますからね! 家事なら任せて下さい!」

「お、おう……何か俺はお前が居なければ生活出来ないように改造されてる気がする」

「それだけ師匠にとっての重要度が上がったなら嬉しいです!」


 別に狙った訳じゃないけど、オスカーさんにとって私は生活面において居なくてはならない存在になっているのだ。だってオスカーさん家事出来ないもん。

 胃袋掴もう大作戦も三年間で紆余曲折を経て成功の兆しを見せているし、私は中々にオスカーさんの中で存在感を増していると思う。……胃袋は狙ったけど、他は流石に狙ってなかったからね?


「あらあら。すっかり向こうの家に馴染んじゃって」

「向こうでの生活も楽しいよ。皆良くしてくれるもん。毎日楽しいよ」

「そう、それなら良かったわ。オスカーさんも、娘の面倒を見て下さってありがとうございます」

「い、いえ……此方こそ、娘さんにはお世話になってます」


 へこへこするオスカーさんは、お母さんにはかなり気を遣っているようだ。

 ……本能的に我が家での本当の序列を感じ取ったのかもしれない。我が家亭主関白なようで実は母さんが頂点だ。

 普段はお父さんが強いけど、お父さんは割とお母さんには逆らえない。お母さんにベタ惚れしてるというのもあるんだけど。


「……俺は、弟子が居ないと駄目な奴なので」

「私も師匠が居なきゃ駄目です。一緒ですね」

「まあ。二人が互いを補っているならそれが良いわ。良き道標になっているみたいだし」


 お母さんは元々私の一人立ちを肯定してるので、オスカーさんを全面的に信頼している。私がこんなにもなついている、というのが大きいんだろうけど。


「良いお師匠様を見付けて良かったわね」

「うん!」


 お母さんはオスカーさん認めてくれて嬉しい。お父さんがぐぬぬって顔してるけど、お父さんもそこまで悪い風には思ってないだろう。

 お兄ちゃんはお兄ちゃんで、悪しからず思っているようだ。ただ「ソフィを取るながるるるるる」と威嚇するくらいで。何で我が家の男性陣はこんなにも過保護なんだろうか。


 まあお父さんお兄ちゃんにも邪魔はさせないけど、と心に誓っているので気にしないんだけどね。私の人生だもん、他人に決めたりなんてさせないし。


「師匠、これからも宜しくお願いしますね!」


 まだまだオスカーさんから離れる気はない、という意味も込めてのお願いに、オスカーさんは苦笑気味に頷いた。

名前があまり出てこないので覚えにくいかもしれないので、以下ソフィ家の家族の名前。

父……エルマー

母……レナーテ

兄……ライナルト

です。少しずつ登場人物が増えてきたので人物紹介の項目を作った方が良いでしょうか?

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