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里帰り早々に喧嘩

「ソフィ!? それに……ライナルト!?」


 事前に連絡をしていなかったせいで、帰ったら驚かれてしまった。

 連絡してもよかったんだけど、今回の里帰りはほぼ強行軍なので連絡が届く前に私達が到着しそうだったので敢えて連絡しなかったのだ。


 お父さんは私達が帰って来た事に大層驚いていたけど、笑顔で「ただいま」と言えば途端に相好を崩した。……まあオスカーさんが居た事にはちょっと微妙そうな顔をしていたけれど。


 お兄ちゃんはお父さんの出迎えに渋い顔をしていて、目は合わせない。

 背中を叩くと情けない顔をしたので「お兄ちゃん」と促すと、とっても渋々「……母さんに顔を見せに来た」とだけ。素直じゃないというか何というか。


「……ライナルト」

「うるさい。オレは親父と話す事なんてないからな」


 ぷい、とそっぽを向いて家に入ろうとしたお兄ちゃん。お父さんは顔を巌のようにして、お兄ちゃんの肩を掴む。

 分かりやすく渋面を浮かべたお兄ちゃんに、お父さんは鋭い視線を向けたまま。


「親に向かってそういう口の利き方はないだろう。大体お前は人の制止も無視して飛び出して、帰って来たと思ったらその態度」

「そうやって父親風吹かせて、子供を抑圧するのはほんと変わらないな。オレはソフィに頼まれて帰省しただけだ。そっちこそ自分が全部正しいんだと思い込んで人の話を聞かない所は進歩ないな」


 ……どうしよう、険悪な雰囲気になってきた。正直、どっちもどっちだし、頑固なのは親譲りなのだから似た者同士でぶつかり合ってるだけだと思うの。

 けどそれを言ったら「誰がこんなやつと!」と同時に言われる自信がある。


 オスカーさんをちらりと見ると「どうすんだあれ」という顔をしていた。付き添いなのに家族喧嘩に巻き込んで申し訳ないというか。


「師匠、先におうち入っておきます?」

「や、俺部外者だし、宿取って取り敢えず数日は親子水入らずにするつもりだったんだが……」

「私をこの空気の中置き去りにしないで下さい」

「母親が居るだろ」

「お母さんはあらあらで流すので」


 お母さんは親子喧嘩には滅多に口を挟まないし、そもそもいつもの事だと流すだろう。いつもお兄ちゃんはお父さんと喧嘩していたのを、覚えている。

 ああいう時は放っておくしかないわ、というのがお母さんだ。……まあその結果家を飛び出しちゃったお兄ちゃん。けど止めていたにしろいずれは飛び出したんだろうな、と思う。


「どうせ親父の事だからソフィにまで自分の意思を押し付けようとしたんだろ!」

「娘の心配をして何が悪い! お前と違ってソフィは可愛げがあるし良い子だったからな!」

「良い子じゃなくて悪かったな、親の背中を見て育つからそうなったんだろうな!」

「なんだと!?」


 ……家族皆揃って仲良くしたいと思って帰って来たのに。

 何で喧嘩するんだろう、八年ぶりに帰ってきたんだよ、お兄ちゃん。お父さんは反省したんじゃなかったの? やる事全部に口出したからお兄ちゃん爆発したって、分かってた筈なのに。

 お兄ちゃんだってわざと反抗したからこうなった事だって、分かってたでしょうに。


 折角、数年ぶりに帰って来たのになあ。


「……二人とも、いい加減にして」


 そろそろ我慢の限界で、私は二人の間に大きな氷を落とした。ぐさ、と土に刺さる良い音がして、二人の声が止んだ。

 良かったなあ、魔法使えるようになって。いつでもひんやりな氷も出せるし。


「お父さん、私魔法ちょっと使えるようになったんだよ。凄いでしょ?」

「……あ、ああ」

「二人共、取り敢えずそれにくっついて頭でも冷やしたら良いんじゃないかな?」


 せっかく人二人が抱き付けそうな程に大きなものを出したんだから、有効活用してくれたら嬉しいな。


 にっこり笑って、私はオスカーさんの手を取る。オスカーさんは、表情を強張らせている。私は気にせずに彼の手を引いて、玄関をくぐる。


「取り敢えず二人共反省するまで入ってこなくて良いよ。私、お母さんと話してくるから。先に家入ってるね」


 返事はなかったけど、まあ暫くすれば頭も冷えるだろう。

 お母さんに会うのも久し振りだな、今日のお夕飯も楽しみだ。お母さんのご飯は美味しいもの。もっと私も上達しなきゃな。


「……おい、弟子よ」

「何ですか?」

「……いいや、何でもない」

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