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押し掛け弟子志願二人

 翌日から押し掛けが二人になった。


「オスカーさん、弟子にして下さい!」

「俺を弟子にして下さい」


 それぞれオスカーさんとイェルクさんに頭を下げる私達に、二人は明らかに困惑した表情。多分、テオが参加したから余計に困ってるのだろう。まあ困ってても退く事は出来ないけど。


 テオはきっちりと腰を折ってお願いしている。

 お願いされる方のイェルクさんは分かりやすく困った表情で「えー」と微妙に嫌そうな声。


「良いじゃないですかイェルクさん。子供好きなんじゃ?」

「可愛い女の子に限るよ」

「うわぁ」

「そのガチ目なトーン突き刺さるよ……」


 女の子限定の優しさか。や、まあ気持ちは分からなくもないけど……テオだっておふざけで弟子入りをお願いしてる訳じゃないし。

 テオは相変わらずの無愛想さだったけど、瞳は真摯にイェルクさんを見つめている。


 私もテオを見習わなきゃ、と至って真面目な顔でオスカーさんに向き直る。


「オスカーさん、ちゃんと辛い事とか苦しい事も理解してます。それでも私はオスカーさんの弟子になりたいんです」


 ただの憧れだけじゃない。……私はこの人みたいになりたい、そう強く思ったから、弟子入りを願うのだ。他の誰でもない、オスカーさんに。


 それでも、オスカーさんは首を縦に振らない。


「駄目だ。……そもそも、俺達はずっと此処に居る訳じゃない。魔物を退治し終わったら、俺達が此処に残る義務はないんだ。俺は王都に帰るつもりだ」

「……帰っちゃう、のですか」

「当たり前だろう、仕事で来たんだから」


 だから俺なんかに弟子入りをしようとするな、と幾分優しく諭してくるオスカーさん。

 ……二人は、この街の人間じゃない。お仕事で、魔物を倒しに来ただけ。お仕事が終わったら、帰ってしまう。もう、会えない。


 ……そんなの、嫌だ。


「……私もついてきます」

「馬鹿。お前、まだ子供だろう。それに、憧れなんて一過性のものかもしれないだろう。一生をふいにするような真似は止めろ」

「一過性なんかじゃないです! 私は、オスカーさんの弟子になりたいんです!」

「たとえ一過性じゃなくても、お前は魔法使いを俺以外知らないだろう。お前にはまだ選択肢があるんだ、俺以外にもっと良いやつなんて居るから」

「オスカーさんが良いの!」


 たとえ今目の前に他の魔法使いを連れてこられても、私はオスカーさんが良いと絶対に言う。どうしてか分からないけれど、私はオスカーさんが良い。

 知り合ったばかりだけど、私はオスカーさんをとても好ましく思ってる。日頃はぐうたらでだらしないし頭はぼさっとしてるし口も悪いけど、何だかんだで優しくて、女の人に弱くて可愛くて、とっても強い魔法使いで。

 ……オスカーさんじゃなきゃ、やだ。我が儘だって、分かってるけど。


 じわ、と目頭が潤んだ気がして、手の甲で擦ったら大粒の雫が付いていた。

 これにいち早く気付いたのが目の前に居たオスカーさんで、私の表情を見るなりぎょっと目を剥く。それからおろおろわたわたと視線をさまよわせてイェルクさんに助けを求めていた。……イェルクさんは、首を振って「あーあ」の一言。


「オスカーさんが良いの……」

「な、泣くな」

「じゃあ弟子にして下さいぃ」

「そこは揺るぎないなお前」


 ぐずぐず鼻を啜りながら訴えると、若干呆れた声が返ってきた。

 でもそこから諦めてくれ、とは言わずに非常に困ったような顔で私を撫でてくる。

 子供の宥め方だけど、不思議とオスカーさんに撫でられるのは落ち着いた。


 そのままオスカーさんの胸に額をぐりぐりと押し付けるように凭れると、オスカーさんは尚の事狼狽え始めた。


「おい、ばか離れろ」

「オスカー甲斐性なし」

「何で此処でお前に言われなきゃならないんだよ!」

「魔法使い殿、うちのソフィを泣かせないで下さい」

「俺が泣かせたのかこれ!? ああくそ、ほらよしよし」


 本当に子供をあやすように背中を叩かれ頭を撫でられて、やっぱり私は子供なんだな、と思い知らされる。

 ……子供でなければ、私はオスカーさんに弟子入りさせてくれたのだろうか。


「オスカーさん、そこはぎゅっと抱き締めてください」

「注文が多いな! 後泣き止んでるだろお前!」

「泣いてます、慰めて下さい」


 こんな機会滅多にないのでお願いすると、この野郎、と小声で言われた。けど泣いてる私を突き飛ばす程非情でもなかったオスカーさんは渋々私の背に手を回して、やっぱり頭を撫でる。

 これで限界だったらしく顔が真っ赤になっていたのをちらりと見上げてから、オスカーさんの胸に顔を埋めた。


 ……優しいオスカーさんは、多分、私の事を考えて拒んでくれているのだと思う。本気で嫌ならさっさと黙って帰っちゃう筈だし。

 オスカーさんを納得させられたら、弟子にしてくれるかな。


「……オスカーさん、私、本気なんです。それだけは、言わせて下さいね」


 小さく呟くと、オスカーさんはただ、ぽん、と頭を軽く叩いた。

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