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変質者?

 そんな訳で私も多少の怪我は負いつつも依頼は達成した私達は、転移で家に戻っていた。

 一方通行とはいえ家に瞬時に帰れるのは便利で良いなあ、と思いつつもまだまだ私には扱えないのでオスカーさんに連れ帰って貰うしかないのだ。


 村長さんには私が寝ている間に先に報告したらしく、後は協会の方に報告をするだけらしい。……といっても、オスカーさんは私をベッドに運んで、安静にしろと言い付けて自分だけで行ってしまったのだけど。

 水竜の件も報告してくる、と真顔で行ってしまった。


 ……本来は受けた私が行くべきなんだろうけど、私も万全の体調ではなかったしオスカーさんの厚意を受け取っておいた。




「……師匠、外掃除するだけですからー」


 まあそんな訳で無事に帰ってきたのは良いのだけど、その後からやっぱりオスカーさんはやけに過保護だ。不審者が居る噂は消えていないらしくて、それを警戒しての物なのだと思う。

 ……オスカーさん、すっごく気遣ってくれるのは良いんだけど……たかが家の前の掃除だよ? 出掛けるとかじゃなくて、軽く掃いたりするだけだよ?


 だから心配する事ないのに、と零してもオスカーさんは中々頷いてくれない。どれだけ心配性なんだろう。

 こんな白昼堂々住宅地で人通りのある所で、それもお掃除の短時間の内に誘拐とかないでしょ。声を上げればオスカーさん気付くだろうし。


 心配性なんですから、と笑って、私はオスカーさんの心配そうな視線を振り切り、箒を持って外に出る。大丈夫ですから、と何度も何度も念押ししたので、ついてくる事はまあないと思う


 外に出て鼻歌を歌いながら、落ちているゴミや木の葉を集める。

 ポイ捨てする不届きものめー、とか考えながらも口……鼻? 喉? ではふんふーんと歌う。


「――見付けた」


 だから、その視界外から投げられた言葉に反応するのが、遅れた。


 え、と声に出した瞬間、私は背後から思い切り抱き付かれていた。手が、がっちりと腰に回される。


「ひゃ!?」


 いきなり腰に回った掌の感触と肩口に埋められた顔から伝わる生暖かい吐息に、全身がぞわぞわっと総毛立つ。

 え、何、何なの、白昼堂々変質者……!?


「ああ、こんなにも成長して……っ」


 すりすり、と頬を擦り寄せておまけに然り気無く胸までお触りしてくる。遠慮なしに全身べたべた掌で触っては体を密着させてくるので、もう色々と頭が真っ白になって、私は反射的に大きく息を吸い込んだ。


「師匠、変質者がぁぁぁぁ!」


 叫んだ瞬間玄関が蹴破られた。

 物凄い勢いで飛んできたオスカーさんは、玄関前で(不本意ながら)絡み合ってる私達の姿を捉えて、カッと目を見開く。

 師匠の目には、知らない男にまさぐられてもがく私の姿が写っている事だろう。


 オスカーさんの纏う空気が一変した。


 師匠ぉ、と救援を呼びながら肘鉄を思い切り、力一杯打ち込みつつ全体重を踵で男の小指に乗せる私。地味に呻き声を上げる男に私が思い切り蹴り脛を蹴り、拘束が緩んだ所で暴れて抜け出す。


 直ぐにオスカーさんの元に飛び込むとオスカーさんはしっかりと受け止めてくれた。直ぐに私を庇うように後ろに回して――。


「よくもうちの弟子に手を出したな」


 それから、オスカーさんの本気の怒りを見た。




 手加減は一応情けでしていたみたいだけど、変質者は地面に転がる羽目となっていた。ローブもずたぼろで、なんというか本当にぼろっぼろにされている。


 何故か私よりお怒りなオスカーさん、俯せで倒れている、フードを被っていた男性を軽く蹴って仰向けにして……顔を見た瞬間、思わず「あ」と声を漏らす。


「弟子よ、こいつ憲兵に突き出してくるからお前は家で待ってろ」

「あー……その、大変申しにくいんですが、その必要はないかなー……と」

「見逃すのか?」

「い、いえ、そうじゃなくて……その」


 気絶しているその男性の顔を見て、私は頬を強張らせた。

 土埃にまみれた、白銀の髪が、風に吹かれている。幼い頃見た覚えのある顔とは、少し変わっていたけれど……その人は、私のよく知る人だった。


「この人、私の兄です」


 まさか八年ぶりの再会がこんな事になるとか思ってなかった。

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