師匠限定です
オスカーさんに私の存在を確かめられるように抱き締められていたのだけど、暫くして落ち着いたのか抱擁は緩くなる。ただ、労るように髪を撫でて甘やかしてはくれる。それがなにより心地好い。
けどこのままだと調子に乗っていつまでも甘えてしまいそうで。……多分今なら際限なく甘やかしてくれそうだけども、流石に自重した方が良いだろう。
「あの、それで聞きたい事があるのですが」
「何だ」
抱き締められた体勢のまま、オスカーさんを窺う。
「この服は? あと、何か寝ている時師匠が素肌で抱き締めてくれた気がしますけど……」
これは誰が着替えさせてくれたんだろう。あと、オスカーさんはなんであの時抱き締めていてくれたんだろうか。意識が一瞬だけ戻った時に、オスカーさんは私にくっついてくれてたんだけど。
服を摘まんで首を傾げると、オスカーさんは漸く私の服装について意識したらしい。軽く目を剥いて、それからばっと離れた。あー、と名残惜しげな声を上げるとちょっと呻くけど、それでももう一度抱き締めてくれる事はなさそうだ。
オスカーさんはそのまま自分が着ていたローブを慌てた様子で脱ぎ、私を包み込むように羽織らせる。視線が急にうろうろしだしていた。……さっきまでぎゅっとしてくれてたのにー。
「違う、疚しい気持ちはないからな。それに着替えさせたのは医者。俺はその……」
「別に怒ったりしませんから。何で師匠は裸で私の事抱き締めててくれたのです?」
「裸じゃねえよ脱いだのは上だけだよ人聞き悪いな!」
あ、やっぱり。上は脱いでたんだ。
「……出血による低体温で震えていたから温めたんだよ。安静にさせた方が良いとは分かってたが、お前があまりにも魘されてたから。それと、魔力が不安定だったから、落ち着かせる為に契約印と肌を触れ合わせた」
「なるほど!」
あの時、凄く寒くて、怖くて、震えていたから……あの時オスカーさんに抱き締めて貰って、安心出来た。
体を直接暖めてくれていたんだったら納得だし、不安定な私を落ち着かせる為なら仕方ないだろう。契約印の繋がりがこんな風に役に立つなんて初めてだな、くらいしか思わない。
そういう理由だったんだ、と思わず感心してしまった私にオスカーさんは脱力している。
「その説明で納得してしまうお前に不安が残る」
「え? 嘘じゃないんですよね?」
「誰がこんな嘘をつくか」
「なら良いでしょう? 私、疑ったりしませんよ」
オスカーさんが嘘をつくなんて、よっぽどの事だ。それに、オスカーさんは私を騙すような事はしない人だ。優しくて、心配性で、おまけに最近ちょっと過保護っぽい人だもん。
わざわざ嘘なんてついたりしないだろう、と笑ったら笑ったでオスカーさんは何故か頭を抱えだす。
「お前は色々心配になってきたよ」
「む。誤解しちゃ駄目ですよ? 私、師匠かテオしか許さないですもん」
「……喜んで良いのか悪いのか。テオもいっしょくただし」
「テオは一緒にお風呂も入ったしよく隣で寝てたので」
私とテオは長年一緒に居るし、昔はよくお泊まりしてたし、お風呂だって一緒に入ってた。まあタオルは装着してたけど。
まあそれくらい一緒に居るし仲良いから気にしない、の意味であって、オスカーさんに対する許すという意味は全然違う。オスカーさんは、どちらかといえば許すじゃなくて、進んで触れたいし。
そういう意味で言ったのだけど、オスカーさんは吹き出した。
「どうかしました?」
「……それは子供の頃の話だよな?」
「流石に大人になってからはないですよー、師匠と初めて会った頃に止めました」
「結構最近だろ馬鹿かよ!? お前に恥じらいはないのか!?」
「ありますよ失礼な」
私を何だと思ってるんだろうか、オスカーさんは。
「……お前まさか俺と風呂に入れるとか言わないよな」
「師匠とですか? 入れと言うならその、入りますけど……流石に恥ずかしいですよ?」
下着姿もそこそこに恥ずかしくはあるのだから、全裸は恥ずかしい。イェルクさんには「その体の武器を活用したら?」とか言われてるけどそもそも体に武器なんて仕込んでないから。
さておき、タオルを巻いたらまあ、入ってもちょっと恥ずかしいかなあくらいで済むけど……。
入りたいんですか? と問い掛けたら全力で首を振られておまけに「お前は馬鹿か」という罵倒も頂いた。今日は馬鹿馬鹿言われすぎたと思う。
「そこの恥じらいはあるようで安心し……良くない、お前俺に気を許しすぎだからな」
「駄目なのです?」
「もっと警戒心とかその他諸々を持て」
「その諸々が気になるのですが……はぁい」
オスカーさんは私に何を求めてるんだろうか。警戒心、といっても、他人にはちゃんと持ち合わせてるのに。
……オスカーさんは誤解してるんだよねえ、私がこんなに油断したり気を許すのは、オスカーさんだけなのにな。




