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師匠とお出掛け(準備編)

 ご飯を食べた後は鍛練したり知識の吸収に努めるのがいつもの事だったけど、オスカーさんが久し振りに二人で歩きたいという事でお外に行く事になった。

 まさかオスカーさんが提案してくれるなんて思ってもみなくて、堪らず真意を疑ったのだけど「嫌なら行かんが」と撤回されそうになったので慌てて二つ返事をする。


 ……オスカーさんと、お出掛け。

 オスカーさんと、二人でお出掛け。一年半ぶりだ。


 想像すると、頬が緩む。まだ提案の段階だというのに、うきうきしてきた。これもオスカーさん成分が不足してたのが悪いのだ。


「じゃあ用意してきますね!」


 こうなったらちょっと気合いを入れても良いと思う。オスカーさんに私が女の子なんだって見直して貰うチャンスだろうし。

 よし、と意気込んでオスカーさんの返事も待たないまま居間を飛び出した。


 あまりお洒落自体はしないのだけど(というか濃く化粧をしたら多分オスカーさんが引く)、今日は可愛らしく纏める事にしてみた。


 いつもなら無地のワンピースとかでうろうろしてるのだけど、今日は裾に花の刺繍とレースがあしらわれた、ふんわりと柔らかい水色のワンピースに。

 胸下で切り換えがあるので裾の広がり方が柔らかいし、ちょっと動きやすい。難点は、丈が膝より上だから捲れやすいといったくらいかな。

 ……脚を晒すなと怒られそうなので、タイツを穿くけど。


 髪も丹念にとかしてちょっと編み込んで、リボンで飾ってみたり。

 鏡で見た限り、変という訳ではない。あとはオスカーさんの好み次第だ。


「師匠師匠、準備できました!」

「何でそんな気合い入ってるんだよ……」


 斜めがけのバッグをかけてオスカーさんの元に急ぐと、オスカーさんは私を見て目を剥いたものの、呆れた声。


 やっぱり気合いが入っているのがばれた。

 そりゃあオスカーさんは私がだぼっとしたシャツ一枚で歩いたりする事も知ってるから、違うって直ぐに分かるだろうけど。(因みに普通に怒られて腰にローブを巻かれる。あくまで子供の頃の話だけど)


「似合いませんか?」

「丈が短い」

「師匠はおかあさんですか」


 いや違う。私のお母さんは気にしない人だ、寧ろお父さんが怒ってくるのだ。あとお兄ちゃんも。テオは気にしないけど悪戯っ子が捲ろうとしたらその度に拳骨落としてた。

 ……そういえばお兄ちゃん、中々見付からないけど……元気かなあ。


「別に、似合わないなら良いですけどー」

「似合わないとは言ってない。ただ、そういう服で出かけるな」

「何の為の服なんですか、もう」

「……最近は変質者が出てる、と聞いた。そういう、ひらひらした服だと狙われたりするだろう」


 ……あれ、もしかして私の事心配してくれたのかな。


「だ、大丈夫ですよ、そうそう現れませんって」


 実はオスカーさんが帰ってくる数週間前に遭ったとか言えない。勿論撃退して憲兵に突き出したけど。憲兵さんも被害に遭った私に同情してくれた。

 ……出来れば同情する前に見回り強化して欲しい、他のか弱い女の子の為にも。


「そう言ってたら現れるんだぞ」

「大丈夫です、今日は師匠居ますもん!」


 変質者が居るという事でお出掛けの約束が水の泡になるのは御免なのでそう訴えると、オスカーさんは目を丸くした。

 それから「目を離さなければ良いか」と呟いたので、私はあちこちにいってしまう子供のように思われてるのかな。


「俺から離れるなよ」

「はい!」


 まあ結果的にお出掛けは決行となったので良しとしよう。

 オスカーさんの側に居る口実が出来たし、くっついても怒られないんだから。離れるなって言ってるもん。


 笑顔で頷いてオスカーさんの腕にくっつく。


 今日のオスカーさんはいつものローブではなく、くすんだ暗緑色の外套を羽織っている。ローブが裂けてたりするから、もうあれは着られないらしい。

 オスカーさん的にお気に入りだったらしく、ちょっと嘆いてた。テオもやりすぎなんだよね、ほんと。


 私としては今日オスカーさんにローブをプレゼントするつもりだ。今度は私からしてあげるんだ。お金もちゃんと稼いだものがあるし! 結構溜め込んでるのだ。


 お出掛けの計画を脳内で立ててにんまりする私に、オスカーさんはぎこちない。


「……馬鹿弟子、くっつきすぎだ」

「離れるなって」

「腕にべったりする必要はないだろう、せめて手を握るにしてくれ。外でくっつくのは駄目だ」

「おうちでくっつくのはありなんですね」

「言ってもくっつくからな」


 流石オスカーさん、私の事をよく分かっている。


 といっても、そこまで過度にくっつくとオスカーさんが絶対に視線を合わさないか微妙に挙動不審になるので、控え目にしてるつもりなんだけどな。凭れたり、手に触れたり、くらい。

 体に抱き着くのはあんまりしてないもん。


 じゃあ手を繋ぐにしておきます、と体を離して掌を重ねると、オスカーさんから握ってくれた。少しだけ、恥ずかしそうに。


「行くか」

「はい」


 なんだかデートみたいだな、と勝手に胸をドキドキさせる私に、家を出てからオスカーさんは少しだけ前を歩く。


「馬鹿弟子」

「はい?」

「――その格好、似合ってる。可愛いと、思う、ぞ」


 それから、そう、褒めてくれて。

 まさかあのオスカーさんが褒めてくれるとは思ってなくて目を丸くした私。オスカーさんは、顔を見られないように先を歩いている。


 ……繋いだ手がじんわりと熱くなってるのは、分かった。


「ありがとうございます」


 でも、私の掌も熱くなってるから、御互い様だろう。

これで50話目となりました。これからも応援よろしくお願い致します。

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