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戻ってきた日常と弟子の成長

 オスカーさんと漸く仲直りしたので、私は普通の生活に戻っていた。


 朝起きたら着替えて朝市に行って買い出ししてご飯を作り、まだ寝ているオスカーさんを起こしに行く。……まあ最近は完全に起きてる事が多いというか、私に起こされまいとしている気がしなくもないのだけど。


 エプロンのまま起こしに行った事が原因なのだろうか。それとも勝手にお部屋に入ったのが原因だろうか。

 そもそもオスカーさんがご飯になったら起こしてくれと昔頼んだから起こしに行ってるんだけどなあ。


「ししょー、朝ですよ?」


 今日は珍しく起きてこなかったので起こしに行くと、オスカーさんは起き上がっていたものの、半分寝惚け眼というか頭が寝ている状態だった。可愛い。


「師匠、起きて下さいね。ほら、ご飯ですよー」

「……今日のご飯は」

「今日は、朝市に行ってきたので焼き立てのパンとトマトスープとサラダでしょ、あと今日は腸詰めが安かったので腸詰めをこんがりと焼いたものと目玉焼きです」

「……んー」


 漸く起き出したのか緩やかな動きで着替え出すオスカーさん。私は流石に見ない方が良いのかな、と踵を返すのだけど、ドアをくぐった所でオスカーさんが呻いた。

 振り返ると、シャツを半分脱いだ状態で額を押さえている。


「……弟子よ」

「はい?」

「……俺は日に日に駄目男になってる気がするぞ……」

「師匠が生活能力のない人だとは最初から知ってますよ?」


 何を今更、と首を傾げたら地味にうちひしがれてしまった。

 ……へ、凹んじゃった、言っちゃいけなかったかな。でも家事は全く出来てないし、オスカーさん一人で今の快適な生活するのは結構厳しいと思うの。


「え、ええと、師匠魔法教えてくれるし、魔法すごいから大丈夫ですよ! 補って余りあります!」

「……フォローどうも」

「それに、師匠が出来ない事は私がしますから! 家事ならなんでもござれですよ!」


 オスカーさんは出来る事出来ない事が両極端だから仕方ないのだ。代わりに私が補えば良いと思うし、そう凹む事はないと思う。

 それに、オスカーさんが頼ってくれるのはこういう所だけだから、頼って貰えて嬉しいもん。


 だから大丈夫ですよ! と励ましたのにこれまた微妙な顔をするオスカーさん。私が励ましてもどうにもならなそうである。


「兎に角ささっと着替えて下さいね、ご飯冷めちゃうので!」


 着替えも途中だし、下手に励ますと抉りそうな気がするのでそそくさと退散した。




 数分後にはオスカーさんが食卓に現れたので、私は温め直したスープをよそってオスカーさんの定位置の前に置く。他はもう用意が出来ているので、オスカーさんが席に着くのを待つだけだ。


 腸詰めはこんがりと焼いているので、なんとも香ばしい匂いが漂ってくる。オスカーさんも鼻をスンと動かして、それから軽くお腹を擦った。

 もう機嫌は直ってそうでよかった。


「うまそう」

「冷めない内にどうぞ」


 やはり腸詰めは焼きたてが一番だろう、パリッとした皮に中から溢れる熱々の肉汁。口の中が火傷しないように気を付けなければいけないけど、はふはふしながら食べるのもまた一興……ってね。


 オスカーさんが席に座ったのを見てから、私もオスカーさんもフォークを手に取る。狙いが腸詰めな辺り熱々を食べたいのは同じようだ。


 フォークに突き刺すだけで滲み出てくる肉汁、勿体ないと思いながらかぶり付けば、ぶわっと零れるように口の中に入ってくるエキス。やっぱり焼きたては熱くて、素で「あひゅっ」と声が漏れた。

 ……オスカーさんも熱がってるから、似た者同士である。


「うまい」

「今日は良いもの入ってるってお店のおじさんに言われたんですけど、ほんとに美味しいですね。おじさん、おまけいつもしてくれるし優しいです」

「そんな親切なやつがいるのかよ」

「常連には親切ですよ? 他のお店も私おまけしてくれる事多いですし」


 大体おんなじ店で買うから、通ってると自然に会話するようになるし、そうすると仲良くなってあれやこれやと持たせてくれたりする。最近では時間がある時は売り子とかでお手伝いしたりするし。

 基本一人で居たから、他人との関係性に飢えていたってのもあるんだけどね。


「あと、お気に入りのケーキ屋さんのパティシエさんと仲良くなったから偶に新作ケーキとか味見させてもらえるんです!」


 一時期不貞腐れてケーキをしょっちゅう食べに行ってたら、拗ねてた私を気にしてくれたらしく、デザートをおまけしてくれたのだ。

 そこからお話が始まり、段々に話すようになって今では味見役にしてくれてるのだ。多分、私が幸せ一杯の顔で食べてたからだろう。


 へへー、と笑ってパンを一口分口に放り込むと、オスカーさんは何だか複雑そうな顔。どうしたんだろ、スープ不味かったかな。


「師匠?」

「……いや。随分と王都に馴染んだな、と」

「もう三年は居ますから」


 そういえば何だかんだで三年は居るんだよね。その内約半分は一人で過ごしたし、その辺の付き合い方も学んだもん。

 変な人に付きまとわれた時の対処方法とかも学んだ。


 男の人に路地に引きずり込まれたら、遠慮なく股間蹴ったり魔法使って良いって事も学んだもん。正当防衛だから大丈夫だって。憲兵さんも怒らなかったし。

 ちゃんと対処出来るから問題ないよね。


 私成長した、と頷いていると、オスカーさんは渋い顔。


「なんですか?」

「いーや。……変わったなって」

「変わった?」

「俺が知らない間に、どんどん巣立たれてる感じがする」

「だって師匠居なかったから自分でどうにかするしかないじゃないですか」

「……ごめん」

「あっ、責めるつもりはなかったんです。ただ、私は私なりに生活を上手く立ち行かせる為に必死だったんですよ」


 一人じゃ寂しいから外で交流を求めるのも仕方ないでしょ?


 首を傾げた私に、オスカーさんは静かに瞳を伏せて、腸詰めを咀嚼している。私もまた、腸詰めを一かじり。


 ……乾いた味がしたのは、なんでだろう。

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