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諦めは悪いのがデフォルトです

「弟子にして下さい!」

「断る!」

「そこを何とか! あっ今日はマドレーヌ持ってきました!」


 今日も日課の弟子入り志願。一日三志願ぐらいが私の日常だ。

 あれから一週間は経ったけど、毎日頭を下げに行ってもオスカーさんは頑として頷いてはくれない。あと初日より確実に扱いが雑になっている。着実に親しくなっている気はするので、このまま押せ押せで頑張ってみよう。


「ソフィちゃんも飽きないねえ。あ、このマドレーヌ美味しい」

「手作りしてきました! 胃袋から掴もうと思って!」

「それを聞いて素直に食べようと思うか……?」


 朝から頑張って作ってきたのだけど、オスカーさんはお気に召さなかったようだ。イェルクさんはひょいひょい摘まんでいってるけど、本人は一口も食べてくれないし……。


「オスカーさん、甘いもの嫌いですか……?」


 折角頑張ったのに、と眉を下げると、オスカーさんはちょっとだけ頬を奇妙に歪めた。視線が合えば相変わらずふいっと逸らされてしまうけど。


「オスカー、そろそろ観念したら? ソフィちゃんもこうしてお願いしてるんだし」

「お前は無条件に幼子の味方をするよな……」

「子供は可愛いもん。ほら、そろそろ君も弟子を持とうよ」

「イェルクさんもっと言ってやって下さい!」

「お前ら仲良くなったな……」


 げんなりとしているオスカーさん。そのくたびれ具合も素敵だけど、私をさっさと弟子にしたら解消されると思う。

 こうして訪問を拒まないという事は脈ありだと思っていいのかな。


 二人が拠点にしている宿屋のベッドに身を投げ出したオスカーさんに、私はお願いします、と近寄って懇願。

 失礼とは分かっていたけどベッドに片膝ついてゆさゆさとオスカーさんの体を揺らすと、凄く鬱陶しそうな眼差しを向けられた。……めげないもん。


「弟子にしない。俺は疲れてるんだ、帰れ」

「そこを何とか! 何でもしますー!」

「帰れ」

「弟子にしてくれたら帰りますよ?」

「却下」


 また断られてしまった。

 そりゃあオスカーさんには私を弟子にする必要はないのかもしれませんけど……!


「オスカーさぁん」

「猫なで声出しても駄目だ」

「けちー!」

「はは、オスカーは頑固だからねえ。今日の所は諦めてくれないかな? 今日はちょっと魔物退治行ってきたから疲れてるんだよ、きっと」

「俺があれごときで疲れる訳……いや疲れてるから早く帰ってくれ」


 しっしっ、と雑に手で払う仕草をされたので、私は渋々ベッドから降りて、でも名残惜しげにオスカーさんを見る。

 オスカーさんの顔に疲労は見えないけど、兎に角今日は帰れと言われたから帰るしかない。イェルクさんが帰ってくれ、という意思を見せてるから、流石に無理に居座るのも気が引ける。


 今日も駄目だった、と胸の奥で蟠る小さな絶望を呼気に乗せて吐き出すと、オスカーさんはベッドに寝転んだまま私を見上げた。


「……明日は来るな。出掛けるから来ても意味ないからな」

「ごめんね、明日は外に行くから。これから準備もあるから、ね?」


 イェルクさんは申し訳なさそうに言うけど、二人が私を帰したい理由も分かった。つまり、準備の邪魔をしていたのだろう。

 ……いつまで滞在するのか分からないから滞在期間の間に何としても弟子にしてもらわなきゃと思ってたけど、今日ばかりは大人しく帰るしかない。


「……はーい。じゃあ明後日きます」

「ほぼ毎日来る気なのは変わらないんだな……執念深いというかしつこいというか」

「諦めが悪いのが私ですよオスカーさん」

「身に染みて知ってる」

「じゃあまた明後日!」


 ぺこり、と腰を折って部屋を後にする私。

 ……翌日の準備が今から必要な程、お出掛けは大変なものなのだろうか。外に行くって事は、もしかして、大掛かりな魔物退治に行くのかな。

 オスカーさんの魔法使う所、見てみたいんだけどなあ。……こっそりついていったら、ばれないだろうか。

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