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手を引くのは二人

 私が正式にオスカーさんの弟子になって、三ヶ月が経った。

 相変わらず渡された本を読んではひたすらに暗記していく日々。基本的には家にこもって机にかじりつく日々である。

 因みに漸く渡された本の半分を丸暗記した所だ。やけに分厚くてぎっしり書かれているし本でそれぞれ中身が違うからごちゃ混ぜになったりで覚えるのが大変だったりする。


 偶にテオやイェルクさんが家を訪れてはお話をしたり魔物討伐の成果を聞かせて貰ったり。

 テオは相当に筋が良かったみたいで、イェルクさんに鍛えられてめきめきと上達しているそうだ。あと物理的に体の何処かがめきめきと言ってる、とテオが小声で教えてくれた。……イェルクさん、何だかんだ笑顔でスパルタらしい。


「ソフィは調子どう?」

「順調、なのかな。取り敢えず師匠から最初に言い渡されたノルマは半分くらい終わったよ。楽しいし、おうちにこもってるから結構捗るの」


 最初は勉強って疲れたけど、慣れると楽しくなってきたりしてる。あんまり過度に取り組みすぎると頭が痛くなるから休憩を挟んだりしながらだけど、コツコツと勉強すると覚えやすいし。


 オスカーさんは何もかも教えてくれる訳じゃないから、極力自分で理解しようとして、分からない所だけを聞く。それに、オスカーさんは自分の用事があるだろうから。

 オスカーさんとお話しするのはご飯の時と風呂後の少しの間だけ。お父さんは男の人と生活するのに抵抗があったみたいだけど、実はあんまり側に居る訳じゃないんだよね。


 笑顔でテオに言葉を返したというのに、テオは渋い顔をした。聞いていたイェルクさんまで、眉を寄せている。

 何か返事に問題があったのだろうか。


「ずっとうちに居るのか」

「うん? 基本的には」

「お出掛けしようとかは?」

「ないよ? 精々消耗品を買いに行くくらいで。あと近辺を少し散歩したり」


 そりゃあ弟子として此処に住まわせて貰ってるんだから、遊ぶとかより勉強の方が優先しなきゃいけないし。


 別に不自由はしてないよ、と付け足したというのに、テオとイェルクさんは更に渋い顔になって……矛先がオスカーさんに向いた。


「女の子を閉じ込める魔法使い……」

「待て、人聞きの悪い事を言うな。閉じ込めてる訳じゃない、自ら部屋にこもってるんだ」

「せめて遊びに連れ出すとかしないんですか。ソフィは熱中したら外部から止めないと止まらないんですよ、しかも止まりにくいし」


 小さい頃から側に居るテオは私の特性をよく知っているので、それを説明しながら視線でオスカーさんを責めている。

 待って、別に私が部屋に居たくて居るんだからオスカーさんが責められる事はないと思うの。


「大丈夫だよ、私楽しいもん。オスカーさんも偶にお話付き合ってくれるから、それで充分満足してるよ」

「……本当に?」

「うん。心配してくれてありがとう、テオ」


 本心なのに、テオは不服そうな顔だ。

 それから何か思い立ったように立ち上がって、テオは私の手を取って、引っ張る。釣られるように立ち上がった私に、テオは相変わらずの不機嫌そうな顔。


「テオ?」

「師匠も付き合って下さい」

「うんうん、テオは思い切りは良いよね。そういう所は好きだよ」

「それはどうもありがとうございます。さ、行くぞ」


 あ、いつの間にか師匠呼びになってる……とか思ったら、向かいのソファに座っていたイェルクさんまで立ち上がって私の手を取る。両手を取られて、当然私が抵抗する余地もない。

 あれ? と首をかしげる暇もなく、私は二人に引っ張られるようにして出入り口に向かっていた。


「オスカー、ソフィちゃん借りてくよ。家にこもりきりは良くないから」

「……好きにしてくれ」

「えっ、し、師匠?」

「はい決まり。さ、行こー」


 オスカーさんは興味なさそう、というか此方を見ずに素っ気なく返して、何だかそれが寂しい。けど、オスカーさんも忙しいだろうし、私が何処に行こうと関与する必要もないのだろう。


 どうせならオスカーさんも一緒に来てくれればもっと楽しいのにな、とかちょっと思いながら、私は二人に連れられて外に出た。

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