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契約印の効果

「そういえば、この契約印って特別なんですね」


 おうちに帰って晩御飯やお風呂を済ませた後、私はソファに座るオスカーの隣に座って聞いてみた。因みに然り気無くオスカーさんの足の間に座ろうとしたら怒られたので、渋々隣に居るのである。


 もう寝る前だし今日は勉強は止めて早めに寝ようと思ったのだけど、気になっていた事を聞かずに一日を終えるのももやもやする。

 お風呂に入って体を洗っても取れないこれは、手首だと結構目立つ。あまり見せない方が良いとテレーゼにも言われたので、何が手袋で覆った方が良いのかもしれない。


「まあ珍しいな。相性が良かったんだろ」

「相性! じゃあ私が師匠の弟子になる事は運命だったのですね!」

「好きに解釈してくれ」

「じゃあ好きに解釈しておきます!」


 オスカーさんから許可をもらったので、私とオスカーさんの出会いは運命だったという結論にしておく。その方が私的に嬉しいので私のメモリーにはそう刻んでおこう。

 まあそれはさておき。


「因みに師弟関係になった時の、この契約印の効果ってなんです?」


 本題は、こっち。

 色々とオスカーさんにも利益があるらしいので、そこの所詳しく聞いておきたいのだ。


「……ああ、話してなかったな。まあこの契約印は師弟で繋がってるんだが、ある程度共有出来るようになるんだ」

「共有、ですか?」

「まあ一番が魔力だな。パスを繋げてるから、魔力供給を行えるようになる。あと互いの状態を何となく分かったりする。体調とか、居場所とかな。曖昧なものだが。それから、そもそもの魔力が増えたりな。双方の資質次第でもあるが、互いに影響を受け合ってなる。此処はまあ、個人差があるかな」


 魔力供給、か。つまり自分の魔力を相手に流したり逆に流してもらう事が出来る、んだよね。

 私はまだ魔力枯渇を体験した事がないから何とも言えないのだけど、魔力の使いすぎで枯渇すると下手したら死ぬ、らしい。文字通り魔力は魔法使いの生命線だし、あるに越した事はない。


「まあもし魔力枯渇があった時に魔力を流す、という手段が取るのが一番かな。俺としてはこれはおまけみたいな効果だ、俺は魔力量は人並外れてるし、お前はお前で感情に従って漏れ出ても余裕な程にある」

「そんな事初めて知りました」

「気付かない間に魔法使ってても精神疲労起こさないなら充分だ」


 ……言われればそうなのかもしれない。無意識に使ってた時に疲れたとかそんなのはなかったし。寧ろ今魔法の勉強してる方が疲れるからね。意味は違うけど。

 まだ魔力を自分の思い通りに使う事は出来ないから、枯渇なんて当分起きる事はないだろう。


「……じゃあ魔力が増えるかも、という特典も師匠にはあんまり必要ないのでは?」

「まああるに越した事はないな、そう必要ではないが」

「……じゃあ、あんまり師匠には得じゃないですね」


 折角オスカーさんの役にも立てると思ったのに、と眉を下げると、オスカーさんは「そうでもない」と返した。


「少なくとも協会に弟子を作れとは言われなくなったな。それだけでも得だろ」

「それは師匠が作りたがらなかったのが原因じゃないですかー」

「まあそうなんだが。後は、お前を保護出来て良かった。放っておくのは、勿体なかったからな」

「……師匠は、私が同じような体質じゃなきゃ、弟子にしてくれませんでした?」


 私は結局あの夜をきっかけに師匠に弟子入りしたけれど、もしあの時に私が師匠と同じような体質でないと知られてなかったら、私は弟子になれなかったのだろうか。

 同類だから、自分の境遇と重ねて哀れんでくれたのだろうか。


「……いーや、たとえそうでなくても、結局俺はお前を弟子にしたよ。お前、しつこかったからな」

「うっ」


 からりと笑ったオスカーさんに、思い出すとかなりべったりくっついてせがんだな、と思い出してちょっと申し訳なさが。後悔はしてないけど、本当に嫌がられていたらやだな。


「ま、弟子にした事は後悔してないぞ。物覚えは良いし、飯はまあ不味くないし」

「そこは美味しいって言ってくれないのですね」

「悔しかったら俺を唸らせるくらいに上手くなってくれ」

「むむ、精進します。必ずや胃袋を掴んでみせます!」


 オスカーさんは中々に認めてくれないので、いつか必ずや、認めさせてみせます。料理の腕も、魔法使いとしても。


 頑張りますからね、と握り拳を作ってからはりきった様子を見せたら、オスカーさんは笑って私の頭を撫でてくれた。……まあ風呂上がりで髪が乾いてなかったので、手を塗らしたオスカーさんが微妙な顔に変わって髪を乾かし始めたのだけど。


 オスカーさんはこういう所何だかんだ面倒見良いよな、と弟子になってからよく分かった事実を胸に秘めて、ちょっと擽ったさに笑うのだった。

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