弟子は結構努力家です
控えめに言って、勉強って死にそうな程に疲れるんだね。
オスカーさんから本を渡されて二週間。
お部屋で机にかじりつくように勉強する毎日。本を読んで頭に叩き込む生活が始まって二週間とも言える。
基本的に掃除と、ご飯お風呂排泄しか部屋の外に出る事はなく、オスカーさんにご飯を作る事が一種の娯楽と化していた。
オスカーさんは普段料理と化しなかったらしく、いつも外で食べるか買って食べるか、というか食べない事の方が多かったらしい。師匠、と睨んだらちゃんと食べるようになったので一安心だ。
あまり凝ったものは作れないけど、ささっと作れて手軽に栄養を取れる料理を出す。オスカーさんは「悪くない」の評価をくれたので、多分そこそこの味なんだろう。
料理を作ったら食器を片付けて、私はお風呂が空くまでお勉強。オスカーさんが入浴し終わったら入って、またお勉強に戻る。日付が変わる手前まで読書と書き取りをして、それから睡眠に。
また勉強漬けと言っても過言ではない生活をしている。
オスカーさんは私が勉強している間は研究室で何かしていたり、外出したり。多分お仕事してるんだろう。
よく考えれば私王都に来てから一回も外出してないな、なんて紙にペンを滑らせながら思い出して、でも遊びに来た訳じゃないから良いや、と納得しておいた。
「……もう一冊覚えたのか?」
丁度一冊分覚えたので報告すると、オスカーさんは驚いたような顔をした。
覚えた、といっても比較的薄かった『魔法属性学の基礎』という本から覚えたので、他の本には手を出していないし。取り敢えず一冊だけは覚えた、という報告をしたかった。
「なんならテストして貰っても大丈夫ですよ。私も確認したいですし」
「お、言ったな?」
オスカーさんがからかうように笑って口頭で質問をするので、私も頭に詰め込んだ事を思い出しながら慎重に答える。魔法の属性、その特性。属性攻撃が有利な魔物の種類、特定鉱物による疑似属性攻撃やその増幅等々。
オスカーさんも完璧に本にあった事だけを聞いてくるから、私も何とか答えられた。
暫くやり取りをしていると、オスカーさんは「本当に覚えたのか」と今度こそ瞠目していて、私は笑顔で「頑張りました」と返す。
特段賢い訳でもないので量をこなして繰り返し刻み付けるしかないから、私はもっと、頑張らなきゃならないのだけど。
「疲れてないのか」
「疲れてはいますけど……頑張らない理由にはならないので」
「……お前、熱意は本当に凄いよな」
「寧ろあれだけせがんでおいて頑張らない方が有り得ないでしょう?」
毎日押し掛けてお願いしてたんですから、叶った途端に投げ出すなんてありません。有り得ません。
オスカーさんは「そりゃそうだ」と笑って、私の頭に手を伸ばす。
大きな掌がくしゃくしゃと髪を雑に撫で付ける。それが心地好くて、私は力を抜いてへにゃりと顔を緩めた。
オスカーさんに撫でられるのは、好き。認められてる気がする。オスカーさんに触れる事が好きだから、尚更嬉しい。
「ししょー」
「その脱力するような呼び方は止めろ」
「ちょっとだけ、くっついても良いですか?」
頭を撫でられながら小さくお願いをすると、一瞬だけ撫でる手が止まる。駄目かな、と見上げるように窺うと、逡巡してるのか視線がさまようオスカーさん。
少し唇を動かしては止めの繰り返しをした後に「少しだけだぞ」と許可を出してくれたので、私は遠慮なく抱き付いておいた。流石に正面からは狼狽えが可哀想なので背中に、だけど。
オスカーさんの背中に顔を埋めて頬擦り。
どうしてこんなにも、オスカーさんに触れると落ち着くのだろうか。こう、癒しの波動が出ているのかもしれない。私限定なら、嬉しい。
「そろそろ離れろ」
「まだ三分も経ってません」
「少しだけって言っただろ」
む、それもそうだ。
オスカーさんが嫌がる事はしたくないので渋々ながら離れて、でも満足はしたので表情は緩んだまま。オスカーさんは、そんな私に複雑そうな顔をしていた。
「じゃあ勉強に戻りますね! ご飯の時間になったら顔を出しますので、」
「おい、勉強するのは構わんが、明日はするな」
「……明日は?」
ピンポイントに指定されて、首を傾げる。
明日、というのは何故だろう。
オスカーさんは自分の着ていたローブの胸元をなぞる。微かに、何かが入っているように不自然な盛り上がりがあった。
当初の疑問に答えるように、オスカーさんはゆっくりと口を開く。
「明日、お前を魔法使い協会に連れていく。魔法使いにも弟子を育成する義務があるが、それの報告関連でお前を連れていかなきゃならない」
「なるほど……! 私、師匠の弟子ですもんね!」
「……嬉しそうだなお前。別に行って楽しい事はないぞ」
「だって、正式に師匠の弟子だって認められるんですよね? 嬉しいです!」
私が弟子になった事なんて、家族とイェルクさんとテオ一家しか知らない。別に広めたい訳ではないのだけど、オスカーさんの同業の方に弟子だって知られるのは、嬉しい。ちゃんと認めて貰えた気になる。
ただ、オスカーさんは何故か乗り気ではなさそう。
嫌なのかな、と眉を下げたら慌てたオスカーさん。ぶっきらぼうに「会いたくない奴が居る」と零した。
……どうやらオスカーさんは魔法使い協会に苦手な人が居るみたいだ。
ならば私が頑張って庇わなきゃ! と意気込んだら意気込んだで「変な事考えてないよな」と疑われてしまった。
変な事じゃないので笑顔で「大丈夫です!」と答えたら、何故か溜め息をつかれてしまった。何でそんな『余計に行きたくなくなった』という顔をするんだろうか。
いつの間にか日刊にいました、皆様ありがとうございます。評価ブクマ等励みになっております。
二章も勢いのままに突っ切るつもりなので、応援していただければ幸いです。




