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寝床確保

 起きたら窓から夕日が差し込んでいて、思わず頬を引き攣らせた。

 待って、私夜明け前に起きて二度寝して、それから今までずっと寝てた……!?


 何で起こしてくれなかったのー! と内心悲鳴を上げて、ローブだけ借りて軽く肩にかけつつ部屋を出る。居間には、誰も居ない。


 もしかして置いていかれた? という嫌な想像が頭をよぎって視界が真っ暗になりそうだったものの、物置の方から「馬鹿お前ぶつけるな!」「あっごめん」「これはこっちで良いですか?」とか言い争うような声が聞こえてきた。

 ……オスカーさん達だ、と思うとその場にへたり込みそうになった。


 良かった、居た。……でも、埃だらけの物置で何を。


「あの、何して……?」


 物置に顔を覗かせると、視界にレースのカーテンを持ったオスカーさんが飛び込んでくる。どうしよう、シュールだ。


 私の起床に気付いたオスカーさんは「おはよう馬鹿弟子」と挨拶。朝じゃないけど。

 因みにテオやイェルクさんまで、何やら可愛らしい刺繍入りのテーブルクロスやらぬいぐるみやらを持っている。

 待って、何の集まりなのこれ。


 ……というか、あれ? 埃まみれだった部屋が、綺麗に。……ううん、物置が、部屋になってる。

 あれだけあった何か分からないものが綺麗さっぱり消えてて、ベッドや机、クローゼットとかに置き換わっていた。


「……あ、あの、これ」

「流石に幼い子供に重い物を動かせる訳がないだろ。……まあ男で三人なら何とか片付けられると思って」

「俺もまだ未成年なんですが」

「お前は鍛えてるから良いんだ」

「というか聞いてよ、オスカー、ソフィちゃんの為に色々買い漁ったんだよ。真面目な顔でぬいぐるみ選んでる所は吹いた」

「イェルクくたばれ」


 横腹を殴るオスカーさんだけど、イェルクさんは効いた様子もない。寧ろけらけら笑ってる。

 ……私の為に、買ってくれた。


 部屋は、綺麗になっていた。一人じゃ掃除は無理だと思っていたけど、三人がかりでやったらしく、天井までピカピカ。

 家具は私の好みに合わせたものらしく、白と薄い青を基調とした品のあるもの。……誰から好みを聞いたんだと思ったけど、多分テオからだろう。オスカーさんは私の部屋を見てたし、それでも分かったのだと思う。


 ……家具を新調するってお金がかかるだろうに、オスカーさんは何でもなさそうに買い与えて。


「オスカーってば初めて弟子を持つから張り切っ、あだだ、オスカー爪を立ててつねるのはなし!」

「お前は帰れ」

「ひどい! 僕かなり手伝ったじゃん!」

「師匠」

「なん、」


 言い争いをするオスカーさんに、背中から抱き付く。

 生憎とローブは私が借りてるので普通のシャツに頬をくっつける形となった。


 すん、と鼻を動かせば、オスカーさんの匂いと、ちょっとだけ汗の香り。あんなに汚れてた物置を部屋に生まれ変わらせるのは重労働で、凄く頑張ってくれたんだと思うとついついにやけてしまう。


「ありがとうございます、師匠。テオとイェルクさんも」


 硬直したオスカーさんはいつもの事なので、そのままに二人にもお礼を。

 多分師匠より二人の方が疲れてると思う、二人とも前衛職だからオスカーさんに肉体労働に駆り出されただろうし。


 オスカーさんの腰にへばりつきながら顔を横から出すと、イェルクさんは「気にしなくて良いよ」と笑い、テオは「面倒は見るつもりだったからな」と真顔。流石自称保護者。

 思えばテオには昔からよく構ってもらったから、ちゃんと今度お礼しなきゃ。


「此処まで皆がしてくれたのだから、私もその期待に応えられるように頑張りますね!」

「……精々頑張ってくれ」

「とか素っ気なく言ってるけど、オスカーは女の子と同居にオロオロして扱いとか本気で悩んで、いえ何でもないので本当に火花飛び散らせるのは止めてね」

「馬鹿弟子、裁縫は出来るな?」

「え? は、はい。家事はそれなりに……」

「糸と針を今から買ってこい。ちょっと縫いたい肉があってだな」

「使用用途察しちゃったよ」


 何をされるか想像したらしく体を震わせるイェルクさん。因みに横から覗いたオスカーさんの目は据わっている。……これは割と本気だ。


 流石に血はあまり見たいものではないので、駄目ですよ、とオスカーさんの腰をきゅっと絞めるように抱き付く。……細いのがちょっと羨ましい、ご飯しっかり食べてるのか心配だ。


「師匠、痛いのは可哀想です。せめて接着剤でくっつけるとか……」

「……ふむ」

「ソフィちゃん、然り気無く酷いよ」

「師匠をからかうのはあんまり良くないですよ? あっでも師匠のその様子は是非知りたいので後で教えて下さい」

「馬鹿弟子!」


 頭頂部を軽く小突かれたので、頭を擦りつつじいっとオスカーさんを見上げると、暫く唇をもごもごと動かした後に叩いた所を擦ってくれた。

 どうやら、私にはあんまり乱暴はしないらしい。預かりもの、という認識みたい。


「僕だけ乱暴なの反対」

「イェルク様が魔法使い殿に丁寧に扱われたら、それはそれで鳥肌を立てると思いますが」

「それもそうか」

「お前ら……」


 怒る気力もなくなってきたのか、体は震わせても疲れたように溜め息を落とすだけのオスカーさん。

 イェルクさんとは正反対な性格なのによくこうして親しくしてるなあ、と思いつつ、色々お疲れなオスカーさんに背伸びをして頭を撫でた。

 まあ、当然子供じゃねえと叱られたけど。

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