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閉じ込めるのはルール違反です

 親子喧嘩をした翌日、私はオスカーさんの元に向かおうとして、出来なかった。

 何故ならば、部屋に閉じ込められたからである。


「卑怯だー!」


 オスカーさんが見てたなら確実にはしたないと怒られるけど鍵を外側から掛けられたドアを蹴っている私。因みにドアは非力な私ではびくともしない。


 お父さん、許してくれるとは思ってなかったけどまさかこんな手段で妨害してくるとか。

 私が飛び出す前に閉じ込めておこう、そうしたら仕事が終わったオスカーさんも帰るだろうから、という事らしい。我が親ながら卑怯だ。


 どうやらご飯とお手洗い、お風呂の時しか開けてくれないらしく、その時ですらお父さんの見張りがつく。……お手洗いとお風呂は全力で怒ったからお母さんが居るのだけど。


 お母さんは「ごめんなさいね」と申し訳なさそうで、お父さんと違ってお母さんはやっぱりこういう軟禁は気が進まないみたい。……お母さんのせいじゃないよ。お父さんが頑固なのが悪い。




 三日程おうちに軟禁されてると、色々と心配になってくる。

 オスカーさん、まだ帰ってないかな。私が来ないから、駄目だと思ってさっさと王都に戻ったりしてないかな。


 ……オスカーさんの出した条件を守れてないから、多分、オスカーさんは私が飛び出しても許可はくれないだろう。だから、この時点でもう駄目なのかもしれない。

 けど、諦めきれない。せめて、顔だけでも見れたら。


「ソフィ、お客さんよ」


 ぐず、と鼻を啜りながら枕に顔を埋めてると、扉の外からお母さんの声。

 お客さんって誰だろう、と瞼を擦りながら返事をすると、扉が開く。

 入ってきたのは、テオだった。


「酷い顔してる」

「テオぉ」

「こうなると思ってたよ。エルマーさんは頑固だからな」


 私達家族をよく知ったテオの苦笑に、私は情けない声を上げてテオにしがみつく。

 私より一歳歳上なだけのテオは、久し振りに抱き付くと成長を実感させられる。昔は、こんなに大きくなかったのにな。……テオだけ、先に大人になってしまったような、錯覚がある。


「……オスカーさんは、まだこの街に居る?」

「居る。そろそろ帰るとは言ってたけど」

「……やっぱり?」


 オスカーさんも、次の仕事がある。イェルクさんと一緒にテオもついていくから、会うのは下手したらこれが最後になるかもしれない。

 オスカーさんにあんな事言ったまま、会う事すら出来ずにお別れだなんて、嫌だ。


 やだなあ、とテオに凭れて涙を堪えてると、テオは少し体を離して私の涙に濡れた顔を見詰める。


「諦めるのか?」

「……え、」

「あれだけ通っていたのに、閉じ込められただけで、反対されただけで諦めるのか?」


 その一言に、私は固まった。


「諦めが悪いのがソフィの取り柄だろう。諦めるのか?」


 確かめるような問い掛けに、私はゆるゆると首を振る。


 ……諦めたくない。


 私が初めて見付けた、なりたいもの、だもん。お父さんお母さんに言われるままにお勉強したりお仕事のお手伝いしてきただけの私が、初めて見付けた、本当にしたい事。

 魔法使いになりたい。……オスカーさんの、側に居たい。


 うー、と涙を零しながらも諦めるのは嫌だ、と訴えると、テオは何処か安心したように瞳を和ませて、それから背中を叩いた。


「じゃあ、頑張ろうか。……魔法使い殿には、説明しとくから」

「テオ、」

「俺も、ソフィから目を離すと危なっかしくて堪らないからな。連れていった方が良いと思ってる」

「……ありがとう、テオ」


 情けなく鼻を啜りながらもお礼を言うと、また無愛想な顔で「世話の焼ける幼馴染だからな」と返す。

 それが何ともテオらしくて、私は喉を鳴らして笑った。


 ……諦めないよ、私。


 オスカーさんに、もう一度会わなきゃ。……顔が見たい、声が聞きたい。知り合ってそう時間が経った訳じゃないのに、オスカーさんの側にずっと居たいと思うのは、どうしてだろう。

 オスカーさんの背中に、くっつきたい。

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