だって新婚ですから!
新婚バカップルのお話です。
馬車に揺られながら、セラフィーナは隣に座るレオナルドを見上げる。
輝くような金髪を赤色に染め、メガネをしているレオナルドはとても新鮮だ。それにめちゃくちゃかっこいい。
見惚れていると、視線に気づいたレオナルドがフッと笑った。
「偽装した私も悪くないだろう?」
「うん。レオ様、すごく似合ってる。かっこいいわ」
「セラの淡い茶色の髪も似合っているぞ」
お前はいつでもかわいいけどな。
レオナルドに耳元で囁かれて、セラフィーナはポッと顔を赤らめた。
今日は二人で舞台を見にいく予定なのだ。
ロイヤルボックスではなく、できれば舞台の近くで臨場感を味わいたいと言ったセラフィーナに、「ならお忍びにしよう」とレオナルドが提案してくれた。
だから今、二人はちょっと裕福な庶民にみえるように変装をしている。
特に二人は目立つ髪色、レオナルドは王家特有の金髪を、セラフィーナはあまり見かけない深い青色をしているので、かつらは必須だ。
なんといってもレオナルドとのお忍びデート。必然的にテンションも上がる。
しかもレオナルドはメガネのせいか、爽やかな貴公子とは違ってクールな雰囲気なので妙にドキドキしてしまう。
チラチラと盗み見していると、レオナルドが言った。
「セラ、今日は私のことをレオと呼ぶんだ」
「え?呼び捨て?!レオ様を?!」
「それはそうだろう。庶民だからな。私も自分のことを“俺”と言うべきだな」
「お、俺?」
「そうだ。お互い慣れる必要がある。セラ、練習するぞ。俺のことはレオと呼べ」
レオナルドは楽しそうにセラフィーナの腰に手を回し、ぐいっと引き寄せてニヤリと笑った。
「セラ、俺のことはレオと」
いつもと同じレオナルドのはずなのに、赤髪とメガネ効果がものすごく大きい。しかも俺。
セラフィーナは急に緊張してきた。
「ちょ、ちょっと待ってレオ様!」
「ああ、様付けになってしまったな。残念だがペナルティだ」
そう言ってレオナルドはセラフィーナの顎を持ち上げチュッとキスをする。
急にされてびっくりするセラフィーナに、レオナルドは楽しそうにクククと笑った。
「さあ、セラ。もう一度だ。俺のことはレオと呼べ」
「ちょっと待ってレオ様!ペナルティってキスなの?!」
「そうだ。お前がいつも以上に恥ずかしがっているからな。これはペナルティだ。しかも今、また様付けしたからもう一度だ」
そう言ってレオナルドはまたもチュッとキスをする。
レオナルドの変装にドキドキしているのがバレていたらしい。あいかわらず目ざとい。そしてそれを楽しんでいるのがまるわかり。
「待ってレオ様!馬車の中だし!」
「だからペナルティなんだろう?しかもまた間違えたな。ペナルティを加算しよう」
止める間もなく、レオナルドは先ほどよりも長いキスをしてきた。
「もう!」と睨むとレオナルドは楽しそうにニヤリと笑う。
「セラ、早くしないと着いてしまうぞ。頑張ってレオと呼ぶんだ」
「そうだけど!いきなりレオ様を呼び捨てなんて」
「ああ、残念だ。ペナルティ追加だな」
「待っ……ん、んん……」
今度はさらに長いキス。セラフィーナは思わず翻弄されかけた。
唇が離れて目が合うと、レオナルドは口角を上げて自分の唇をペロリと舌で舐める。それがまた色っぽくて、セラフィーナの顔が赤くなった。
「ん?どうした、セラ?顔が赤いぞ」
「だって、レ……あなたが!」
「ほう?あなた呼びか?さすがセラ、抜け道を選んだか。だがそれでは駄目だな。今日は庶民になりきる必要がある」
「わ、わかってるけど!」
「ならレオと呼べ」
楽しそうにニヤニヤしているレオナルド。これではまたいつもの彼のペースだ。
だからセラフィーナは恥ずかしいけど頑張って、本当に小さな声で呟いた。
「レ、レオ……」
するとレオナルドは目を丸くした後、嬉しそうにハハッと笑った。
そしてセラフィーナをひょいと抱き上げて、自分の膝の上に乗せる。
「キャッ!レオさ……じゃなくてレオ!」
「やっぱりいいな」
セラフィーナをぎゅっと抱きしめたレオナルドがにこにこ笑っている。すごく楽しそうだ。
「なんでそんなに笑ってるの?」
「お前が恥ずかしがりながら俺の名前を呼ぶのがいい。もう一度呼んでくれ」
「……レオ」
「よし。なら今度はご褒美のキスだ」
「ちょっと待って!結局キスするの?!」
「もちろんだ。嫌か?」
「……嫌じゃないわ」
結局セラフィーナはレオナルドにされるがまま。いつもどおり抗えなかった。
でもそれでいいのだ。だって新婚なんだから。
馬車が止まっても、二人のあまーいキスは続いた。
なかなか馬車から出てこない二人に、周りにいた護衛達は思った。
どうせまた時間を忘れてイチャついてるよね、と。
お読みいただきありがとうございました!




