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※閑話※爽やかな貴公子

その日、アレクセイはバラ園でお茶会をしていた。


自身の隣には愛してやまない美しい少女、ティターニアが柔らかい微笑みを浮かべている。

その向かいには弟レオナルドと、つい先日婚約者に決まったセラフィーナ。


アレクセイ達がいるというのに、レオナルドはお構いなしにセラフィーナの指に自分の指を絡ませ、親指でセラフィーナの手の甲を撫でている。その手つきがなんだかいやらしい。

さらには時折、反対側の手で髪を一房とってはキスを落としている。それを恥ずかしそうにしながらも嬉しさを隠しきれていないセラフィーナ。そもそもベンチシートかというくらい椅子をピッタリくっつけている。


二人のいちゃいちゃにアレクセイは目のやり場に困りながらも、会話を楽しんでいた。


「そういえばレオ様はなぜ爽やかな貴公子をしているの?」

「それは私も興味あるわ」


セラフィーナの質問にティターニアも食いついた。


「特に深い意味はないぞ。王族としても外交官としても爽やかな貴公子の方が受けがいいからな。幼いころエメレーンに言われたのがきっかけだったな」


その言葉でアレクセイは思い出した。







当時アレクセイは六歳で、将来クレイズ王国の頂点に立つべく日々研鑽を積んでいた。


同時に、王弟レザールに次いで将来の外交官トップに誰を据えるかという問題があった。


クレイズは特に強みといえるものがなく、他国との摩擦を避けるためにも外交官は非常に重要視されるポストだ。そのため高度なコミュニケーション能力が必要とされている。

代々王弟が務めることが多く、筆頭候補は第二王子のレオナルドだ。


だがレオナルドは、まだ四歳だというのに何かを企んでいそうな顔を常にしている。実際にこっそりいたずらをしては陰でニヤニヤ笑っているのを、アレクセイもよく目にしていた。

まだ六歳のアレクセイは、自身の弟にうすら寒さを覚えたものだ。


摩擦を生みそうなレオナルドに大人達が不安を感じるのも当然だ。


では他の候補はというと、レーベン公爵家の二人になるのだが、これはこれで問題がある。言葉少なく無表情で何を考えているのかよくわからない兄ロイズと、じっとしていることが苦手で授業中に屈伸をしだす弟グィード。


ガイル達は頭を抱えていた。




ある日、ガイルの執務室に皆が集められた。


「レオ、ロイズ、グィード。お前達三人の中から、将来外交官のトップに立つ者を選びたい」


外交官の素晴らしさを必死に伝えた。


ガイル達の中では、笑顔さえみせればロイズが、落ち着きさえすればグィードがよいのではと考え、外交官に興味を持ってもらおうと思ったのだ。



「お前達の希望も含めて検討したいのだが、三人ともどうだ?」


「………」

無言でメガネをくいっとあげただけのロイズ。


「俺には無理っす」

腕立てをしだすグィード。


父である宰相は嘆いた。



そんな中、レオナルドだけが興味を示した。


「異国を渡り歩くのはいいな。ようは相手をうまく丸め込めばいいんだろ?ククク。おもしろそうだ」


よからぬことでも企んでいそうな顔でレオナルドがニヤニヤ笑う。



ガイル達は思った。

だからそれが駄目なんだって!



「……で、ではレオを筆頭候補としよう。一ヶ月後にもう一度話し合いの場を設けようか」


三人は出て行った。

横で聞いていたアレクセイは思った。自分が一番向いているのではないか、と。






数日後、当時のアレクセイの婚約者、エメレーンがクレイズにやってきた。

レオナルドと三人で遊んでいたとき外交官の話になる。するとエメレーンが言い出した。


「レオには無理だ」


レオナルドがムッとする。


「おい、エメレーン。勝手に決めつけるな」

「だっていつも悪巧みしていそうな顔しているだろう。そんな外交官見たことない。やるならもっと爽やかそうにしないと」

「爽やかそう?」

「ああ。うちの外交官は爽やかで他国にも受けがいいぞ」

「そいつみたいになればいいのか?」

「それなら問題ないと思うぞ。興味があるなら見に行ってみるか?」

「行く」


三人でサイプレスの外交官がいる詰所に向かった。


「ほら、あいつだ」


エメレーンが指差した方向に、爽やかな笑顔を浮かべて談笑している男性がいた。周囲には他国の外交官も集まり人気があるようだ。

レオナルドは気に入らなかったようで口をへの字にする。


「なんだあれ。意味もなくへらへらしているぞ」

「だがああいうのが大事なんだ」

「なぜだ?」

「私は無害ですよっていうのがいいんだ。能ある鷹は爪を隠すってやつだな」

「…ふーん。能ある鷹、ね」


しばらく見ていたが、飽きたエメレーンがレオナルドを引っ張った。


「もう行くぞ」

「まだいる。兄上達は先に戻れ」


動かないレオナルドにエメレーンは肩をすくめた。どうせレオナルドは言うことを聞かない、そんな共通認識があるアレクセイ達は先に戻った。






一ヶ月後、再び執務室に皆で集まった。


「あれから一ヶ月経ったが、三人の気持ちを改めて聞こうか」


ガイルの言葉にレオナルドがスッと一歩踏み出す。


「父上。よろしければ私がお引き受けいたします。クレイズ王国のため立派に責務を全うしましょう」


サイプレスの外交官を完コピしたレオナルドが、胸に手をあて眩しい笑顔を振り撒いた。

あまりの急変ぶりに全員がその場から一歩下がる。


「誰、あれ。こわい」


幼いグィードの素直な言葉に、大人達も無言で頷いた。



結局その後も完璧な王子様ぶりは堂に入っていき、こうしてレオナルドは爽やかな貴公子として外交官の道を歩むのだった。

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