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事件解決とフィーナ終了宣告

襲撃事件がようやく終息したので、ティターニアの部屋でいつものメンバーで集合することになった。


「フィーナ嬢、久しぶりだな。元気そうで安心した」


アレクセイが笑顔で迎えてくれる。


「ご心配をおかけしました。もう大丈夫です」

「さあ、座ってくれ。まずは学園襲撃事件の件だが。フィーナ嬢、君のおかげでティアは守られた。心からの感謝を捧げる」


王太子のアレクセイが頭を下げるのでこれにはさすがに慌てた。


「いいえ!そんな!ティア様のお役に立ててよかったです!」

「君はいつもそう言ってくれるな。ただこれはティアを愛する一人の男としての礼だと受け取ってほしい」


その言葉に納得し、素直に受け取ることにする。


「それにしてもお茶会事件のときといい、従者の偽装といい、ティアの身代わりといい、君の洞察力と機転には本当に驚かされる。私の部下にほしいぐらいだ」

「ダメだ、兄上。セラはやらん」


急に厳しい顔つきになったレオナルドにアレクセイは焦る。


「い、いや、わかっている。レオ、そんな怖い顔をするな」

「ふふ。レオ様、アレクセイ殿下の冗談よ。王太子殿下にそこまで言っていただけるのは嬉しいです」

「いや、本心なのだが……」


髪を掻き上げたレオナルドにギロリと見られ、アレクセイは咳払いをした。


「ではまずルードリッヒとペドラ、二人の説明をしよう」



ペドラはやはりアリシアを王妃にと企んでいた。そこでアレクセイに何かとつっかかるルードリッヒに目をつけ共犯に持ち込み、ティターニアを拉致することを計画する。

当初は学園に通い出したティターニアの馬車を襲撃する予定だった。しかし思わぬところで頓挫する。


馬車横転事件があったからだ。


ペドラが事件解決に尽力したのは、はやくティターニアを復学させるためだったらしい。


だが復学したとたん、馬車にはレオナルドが同乗するようになった。これではリスクが高すぎる。

すると我慢のきかないルードリッヒが学園襲撃を思い付く。あまりに大胆すぎる計画にペドラは反対した。

だがルードリッヒはきかない。

馬車を襲撃するために集めた人材を学園襲撃に使って、さっさとサライエに帰ってしまえばティターニアを連れ去ったのは誰かわからない、と。


ペドラは一抹の不安を感じるものの、その計画に乗ることにした。


アリシアがせっせとレオナルドの元に通っているのは気にしていなかったらしい。

少し前までは王太子妃を目指していたのだから、再度アレクセイの妃候補になれば考えも変わるだろうと放っておいた。

逆に王太子妃を諦めたアリシアは、まさか本当に父がやらかすとは思っておらず、ただレオナルドに近づきたいがために“父の帰りが遅い” “知らない男が邸にきた”などの話をでっち上げていたそうだ。



「そしてレオの学園不在を狙って襲撃を実行した。情報はアリシアとジーク・ハワードだそうだ」

「ハワード様が?!」

「ペドラとハワードは遠い縁戚関係になる。ジークはフィーナ嬢を見初めていたらしくてな。それを耳にしたペドラは、フィーナ嬢とジークの後押しするふりをして、ジークから情報を入手していた。だからこそ、襲撃すれば談話室にいるだろうと予測できたそうだ」


セラフィーナは絶句した。

まさかジークまで絡んでいようとは。


「君が見破った緑の髪の従者マルコは、やはりゾーイックなまりを隠していたらしい」


散々な扱いを受けてきたためルードリッヒが捕まったことに感謝しており、事件解決に全面協力しているという。


「ペドラの罪は重い。鞭打ちした後、収監所で足かせをつけて、生涯強制労働の刑に処した。もちろん爵位は没収。その他の血縁者は身分剥奪だが、アリシアの言動は偽証罪に相当する。混乱を招いたとして、身分剥奪の上、国外追放とした」


貴族令嬢が身分剥奪の上、国外追放なんてかなり厳しい状況になる。

セラフィーナは異国語が話せるし商会の知識があるのでなんとかなるかもしれないが、アリシアはそんなタイプではなかった。


「自由気ままな女だったからな。この先大変だろう。ククク」


隣でレオナルドが笑っている。ずいぶん面倒臭がっていたので、解放されて満足なのだろう。

だが笑みが黒すぎて、若干引いた空気になった。


「そ、それからルードリッヒは生涯幽閉となったが。あー、彼はずいぶん大人しくなってしまってね」

「大人しく?」


アレクセイが言いにくそうにしているが。

あの人が大人しく?そんなことあるだろうか。どちらかというと懲りないタイプだ。


「セラ、大丈夫だ。あいつはもう廃人だ」

「? レオ様が何かしたの?」

「お前を拐っておいて、私がそのままにしておくはずがないだろう」

「そっか。ふふふ。ありがとうレオ様」


レオナルドはさらに黒い笑みを浮かべてセラフィーナの頭を撫でている。それを笑顔で受け止めているセラフィーナ。

アレクセイはルードリッヒを思い返した。


今回の件で、食料を輸入に頼っているサライエは即ルードリッヒを切り捨てた。

それならとレオナルドはルードリッヒを文字通りボコボコにした。顔形が変わってしまったルードリッヒだったが、精神的にもネチネチネチネチといびられたせいで心が折れて見る影もない。

今も牢の隅で膝を抱えてひっそりしているだろう。


ティターニアの祖国コクーンからも抗議を受け、サライエは二国に多額の賠償金を支払い、事件は手打ちになった。


「ジークは情報源にされていたが事件には何の関わりもない。罪に問うつもりはなかったが、本人が憔悴して自ら後継から退いたそうだ。フィーナ嬢に手紙を預かっているがどうする?」


ロイズがセラフィーナの前にスッと手紙を差し出したが、セラフィーナは困惑した。


「もらってもあまり意味がないのですが」

「そうだろう。セラ、送り返せばいいんじゃないか?」

「そうね、そうするわ」

「それならユーリにやってもらおう。頼んだぞ、ユーリ」

「かしこまりました」


手紙はロイズからユーリアスの手に渡り、ユーリアスの懐にしまわれた。


ああ、手紙すら渡らなかったか。最後まで不憫だったな。

アレクセイは思った。


「色々重なったが、今回の事件はフィーナ嬢がマルコの偽装に気付いたことが解決の糸口になった。礼を言う」

「私も偽装していたので気付いただけですから」

「その偽装だが、これですべての問題が解決したと思ってよい。だからフィーナ・ガレントは卒業してもらう」

「え…?」

「君はもうセラフィーナ・ダウナーに戻っていいんだ。今まで本当によくやってくれた」

「あ、はい」


するとティターニアがぱっと立ち上がり、ほっそりした綺麗な指でセラフィーナの手をしっかり握った。


「フィーナ、フィーナのおかげで本当に楽しい日々を送れたわ。クレイズに来たときは不安もあったの。でもいつも一緒に頑張ろうって笑顔で言ってくれて、ずっと励まされてきたわ。それに学園襲撃事件では、私を助けるために大変な思いまでしてくれた。……本当に、本当にありがとう」

「ティア様……」

「フィーナ嬢、お疲れ様でした」

「フィーナ様、ありがとうございます!」


皆がセラフィーナを労ってくれる。それはとても嬉しい。

だが急に終了と言われ戸惑いも大きかった。


「あの、それでは、私は学園に戻ればいいのでしょうか?」

「いや、学園は閉鎖されている。今期はもう開園することはない」

「え?じゃあダウナー邸に帰るってことですね」

「え?それは」


セラフィーナは王宮での生活に慣れてしまった。だからもう必要ないと言われて正直ショックを受けていた。しかもこんな突然。

だが元々期間限定の約束だったはず。事件が解決したのならもうフィーナは必要ない。レオナルドや皆と一緒にいたいと願うのは、セラフィーナの我儘だ。


「それでは皆様、短い間でしたがお世話になりました」

「あ、ああ。こちらこそ、世話になった」


憔悴したセラフィーナは、逆に皆が戸惑ってレオナルドを見ていることに気付かなかった。





それからセラフィーナはダウナー邸に帰る準備をし始めた。といっても持ち物はすべて王宮のものなので、心の準備という意味だ。

それにもうお役目が済んだのならいつ帰ってもよいはずなのに、一週間後と決められている。何故だ。

だが少しでも長くレオナルドの近くにいたいので言うとおりにした。


せっかく時間があるのだからと、セラフィーナはお世話になった教師達に挨拶をしに行くことにした。短い間だったけどそれなりに関係ができている。

だが挨拶に訪れたセラフィーナに、教師誰もが曖昧な表情を浮かべた。もっとこう「今までお世話になりました!」「こちらこそ!元気で頑張りなさい!」みたいなものを思い描いていたセラフィーナにとってはあまりにそっけない別れだった。


フィリアには「学園に戻ったらまた同室でいいかな?」と聞くと「え?ええ」と戸惑われ、ティターニアに「なかなか会えなくなりますけど、お元気で」と別れを告げると困ったように眉を下げられた。


レオナルドからは今後のためにと騎士達を紹介された。なぜ今さら?とも思ったが、彼らはレオナルドの素を知っている小隊らしく、その中にはなんとロイズの弟もいた。「よろしくっす!」とニカッと笑う姿がロイズと似ていなさすぎてびっくりするが、グィードと名乗った彼とレオナルドが楽しそうに話す姿を見て、ほっこりもしたし物悲しくもなった。



セラフィーナは寂しかった。

フィーナが終わってしまうことも、王宮から出ることも、何よりレオナルドと離れてしまうことも。

だが仕方ない。

彼は王子で自分は伯爵令嬢。今までの関係が特別だったのだ。

きっともう、なかなか会えなくなってしまう。

でもそれも覚悟しなくてはいけないのだ。



そんなふうに過ごしていたら一週間はあっと言う間で、とうとう最後の夜がやってきてしまった。


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