テディ襲来 ですけど?!
長い試験もようやく無事終わった。
今回セラフィーナは手応えを感じていた。レオナルドにもみてもらったのだから問題ないはず。
試験期間中、セラフィーナはレオナルドに会えていなかった。
同じ学園にいても、王宮にあがる前は遠目で数回見かける程度だったので当たり前なのだが、セラフィーナは少し寂しく感じていた。
だが試験も無事終わったのでフィーナとしてまた王宮に戻ることになっている。
なんとなく浮き足立つ心を抑えて、いつもの四人で食堂に向かった。
食事をしながら談笑していると、久しぶりに聞く怒鳴り声が食堂に響いた。
「おい!セラフィーナ!探したぞ!」
テディだ………
先ほどまでの楽しかった気持ちが嘘のように、一気に気分が沈み込む。いつも学園では身構えていたのに、王宮の生活に慣れてしまって気が緩んでいた。
人の気持ちをこれほどまでに落ち込ませるなんて、ある意味才能ではないだろうか。
セラフィーナは憂鬱な気持ちを振り払い、冷静にと自分に言い聞かせ、無表情を作り、静かに立ち上がった。
久しぶりに対面したテディは相変わらずマリエラを連れているようで少し安心する。
「お久しぶりです、テディ様。このような場所で大きな声を上げ、いったい何のご用でしょうか」
「お前を探していたんだ!」
「はい。ですからご用件をどうぞ」
テディは胸を張り、含みのある嫌な顔で笑った。
「セラフィーナ・ダウナー!お前との婚約を破棄する!」
「はい?今なんと?」
「だから!お前との婚約を破棄すると言ったんだ!」
いきなりの宣言についていけず、セラフィーナは固まった。
………これは夢なのだろうか。
そうするとこのランチも夢なのか。とてもリアリティのある美味しい夢だ。
ぼうっとしながらそんなことを考えていたら背中をバシッと叩かれた。
「セラフィ!何を放心しておりますの!?今まさに絶好の機会がやってきたのですわ!」
「あ、あれ?フィリア?これって夢じゃ……」
「しっかりなさいませ!夢ではありません!現実に、今!目の前で!テディ・モルガンに婚約破棄を言い渡されましたわ!」
小声で叱咤するフィリアにようやく現実味が帯びてきた。テディに向き合い、恐る恐る確認する。
「あ、あの。本当に婚約破棄するとおっしゃいましたか?」
「そうだ!何度言えばいいんだ!お前とは婚約破棄だ!」
夢じゃない!!
セラフィーナは一気にテンションが上がり歓喜した!
人生で一番解放感を味わった瞬間だ!残念令嬢含め今まで努力した甲斐があった!何もかもが報われた!
なぜいきなり婚約破棄宣言をしてきたのかわからないが、これこそまさにセラフィーナが望んでいたものだ。高笑いしそうになるのをぐっと堪え、冷静に、落ち着いてと心の中で復唱する。
「婚約破棄、お受けいたします。本日中に書面にて婚約解消の手続きをしますので、私はこれで失礼します」
早くダウナー家に帰って父に伝えなければ。テディの気が変わらないうちに早く書面を整えたい。
だがテディに手首を強く掴まれた。
「どこに行く!勝手なことをするな!」
「っつ!手をお放しください!」
「お前が逃げようとするからだ!」
逃げるも何も婚約解消の手続きが早くしたいだけだ。これ以上何があるというのか。
手首が痛いが冷静さを保つことに意識を向けた。
「他に何の用件があるというのです」
「マリエラのことだ!お前はマリエラをいじめていただろう!僕はわかっているんだぞ!」
「は?何を言っているのですか?なぜ私がマリエラ様をいじめるのですか?」
「それはマリエラがかわいいからだ!お前は色も変だし、陰気臭くて体型もみっともない。だからかわいいマリエラに嫉妬したんだ!」
意味がわからず、放心した。
マリエラがかわいいからといってなぜいじめる必要があるのか。言ってることがさっぱりわからない。
遠巻きにしている生徒達も、今のテディの持論に首をかしげた。
「テディ様、確かにマリエラ様はとてもかわいらしいと思います。ですがほとんどの皆様が私よりかわいいでしょう。なぜ今さらマリエラ様だけをいじめる必要があるのですか」
「それは婚約者である僕がマリエラを気に入っているからだ!お前はずっと嫉妬していたんだ!」
そう言ってテディはセラフィーナの手首をさらに強く握り込んだ。
もう訳がわからない。手首が痛い。
痛みを我慢しきれず勝手に顔が歪んでしまう。
「私はテディ様とマリエラ様の仲をなんとも思っていません。むしろ最初から応援しています。嫉妬するなんてありえません。もうこれ以上は意味がありません。手を放してください」
「嘘をつけ!お前はずっとマリエラに嫉妬していて我慢できず、机や教科書に傷をつけた!そして制服を汚した!後ろから押したことだってあるだろう!マリエラに謝罪するんだ!」
「私はやっていません。マリエラ様に嫉妬もしていません」
「うるさい!お前に決まっている!早く謝れ!そうしたら許してやってもいいんだぞ!」
テディがさらに強く握り込んだため、セラフィーナはあまりの痛さに悲鳴を上げそうになった。
「っ!私ではありません!手を放してください!」
「いい加減にしろ!謝れば許してやるとこの僕が言っているんだ!」
「そもそもそれはいつのお話ですか!?この二ヶ月、私は学園に通っていません!」
「そんな見え透いた嘘をつくな!なぜ学園を休む必要があるんだ!大体お前は」
「本当ですよ」
レオナルドの声が聞こえた。




