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偽装第二弾スタート

窓の外から聞こえる鳥の囀りでセラフィーナは目を覚ました。見慣れない天井に一瞬驚いたが、昨日の出来事を思い出す。


まさか王宮に住むことになるとは思わなかった。しかも昨日の話だと、偽装して別人になりすますようだ。


大丈夫なのだろうか。いや、考えても仕方ない。なるようにしかならないのだから。

それにレオナルドはテディとの婚約解消を褒美にくれると言った。セラフィーナが望む何よりのご褒美だ。

そのために、やれることをやるだけだ。


そんなことを考えていると、ノックがした。


「おはようございます、セラフィーナ様。メイドのターニャと申します。まずは朝食をお持ちいたします」


入ってきたのは昨日執務室でゾーラと一緒にいた若い方のメイドだ。


「は、はい。お願いします」


用意してもらった朝食をいただく。昨日の夕食も思ったがさすが王宮料理、とても美味しい。


昨日は初日だからとユーリアスが一緒に夕食をしてくれた。セラフィーナは知らなかったが、ユーリアスは今やレオナルドの第一側近として王宮に部屋もあり、アレクセイやロイズとも一緒に執務をこなしているらしい。


「セラフィには王家のごたごたなんて関係ないからあえて言ってなかったんだよ」


その優しさが嬉しい。それにユーリアスがいるならセラフィーナも心強い。


「大変だけど引き受けたからには頑張るんだよ」

ユーリアスはセラフィーナの頭を優しく撫でて帰っていった。




朝食が済むとターニャと一緒にゾーラもやってきた。


「昨日は大変失礼いたしました。申し遅れましたがメイド長のゾーラと申します」

「いいえ、こちらこそなんだか申し訳ありません。ゾーラさん、どうしてわかったのですか?」

「どうぞゾーラとお呼びください。なんといいますか…しぐさにぎこちなさを感じたのでございます。ですがこれほどのスタイルをお持ちとは思いもしておりませんでした。それにしてもなんて艶やかな御髪でしょう。隠してしまうのが勿体ないですね」

「あ、やっぱりかつらを?」

「さようにございます。ではお着替えを」


そうしてセラフィーナは久しぶりに体にフィットしたドレスをまとった。





準備の整ったセラフィーナがゾーラに案内されたのは隣のティターニアの部屋だった。そこには昨日と同じ顔ぶれが揃っている。


「ほう、また化けたな。今日はタオルを仕込んでいないのか」

「してません!」


ニヤリと笑ったレオナルドに顔を赤くして否定した。


今のセラフィーナは濃い茶色のかつらをかぶり、縁の太いメガネをかけている。

眉を整え、アイラインを目尻に向けて太く長めに引き、鼻筋にもハイライトを入れ、ベージュ色のチークをのせた。さらに赤い口紅を塗り顔立ちをキリッとした印象にさせている。今日はタオルも何も巻いていないので、セラフィーナのボリュームのある胸はそのままだ。


この、少しきつめの頭の良さそうなキリッとした令嬢姿が、セラフィーナの第二弾の偽装だった。


「レオ、からかってやるな。まずは掛けてくれ。今後の話をしよう」


中央にある大きなテーブルを囲む形で席に着く。


「さっそくだがセラフィーナ嬢。君にはコクーンから来た留学生になってもらう。今後王宮ではフィーナ・ガレントと名乗ってくれ。ガレントはコクーンに実在する侯爵家で、娘達はティアの従姉妹だ。その次女がちょうど16歳になる。本来の名前は違うが遠く離れたクレイズで知る者はいないし、とっさに返事ができないと困るのでな。セラフィーナから取らせてもらった」


“フィーナ・ガレント”


セラフィーナは心の中で呟いた。

濃茶のかつらをかぶった時点でコクーン国民になるだろうと思ってはいたが、侯爵令嬢でティターニアの従姉妹とは。なかなかの立場だ。

平静を装いつつも内心緊張でドキドキした。


「表向きは両国間友好のために留学に訪れた客人として扱う。従姉妹でもあるので話し相手も兼ねているな。王妃教育も一緒に受けてもらうがこれは内密だ。他国の侯爵令嬢に施すものではないからな」


それを聞いてセラフィーナは目を輝かせた。


「なんだ?嬉しそうだな」

「はい!学べる機会があるのは嬉しいです!」

「それは心強い。機密以外は同席してくれ。ティアはほぼクレイズ語を理解しているが、専門用語は難しいだろう。そこを助けてやってほしい」


勉強好きのセラフィーナは王妃教育にも同席できると聞き一気にやる気が出る。


「それから部屋を移動してもらう。客人として扱うには手狭だからな。のちほど案内させよう。それからティアには専属侍女のリンカと、メイド長のゾーラ、ターニャがいるが、当面は人を増やす予定はない。悪いがターニャが補佐する形となるがよいだろうか」

「はい。問題ありません」


異国を回っていたセラフィーナに侍女は必要ない。

それに本来ならセラフィーナが侍女になる予定だったはず。誰かさんの思いつきで新たに令嬢が追加されることになり、現場はきっと大混乱だろう。

ちなみに言い出した張本人は腕と足を組んでしれっとしている。


「そして今後の予定だが、ロイズ」

「はい。まずは三日後にこの度の婚約を国内外に向けて公布します。それまではティターニア殿下とフィーナ嬢の行動範囲は制限させていただきます」

「ああ、ごめんよティア!窮屈な思いをさせてしまって!三日後には一緒に庭園を散歩しよう!この宮にはバラ園があってとても綺麗なんだ!ぜひ君に見てほしい!」

「はい、ありがとうございます」

「……そしてかなりタイトなスケジュールですが、二ヶ月後に婚約披露パーティーを行います」

「私としてはもっとじっくり時間をかけたかったのだが、早い方がよいという意見が多かったんだ。時間はないがティアをお披露目する大切な機会だから素晴らしいものにしてみせると誓う。ドレスもすぐに用意させるから安心してほしい。ティアは何を着ても似合うから大丈」

「兄上はここから追い出されたいのか?」


レオナルドが冷たく言い放ったことでようやく静かになった。


「本日はこちらでごゆっくりお過ごしください。明日は一日ドレス作りになります。明後日から本格的に王妃教育が始まります。フィーナ嬢は本日の午後、陛下に謁見していただきます」


陛下に謁見!

王宮に滞在するのならと予想はしていたが、心の準備がまだできていない。


「私とユーリが付き添うから大丈夫だ。ターニャ、あれを用意しておけ」

「かしこまりました」


レオナルドを信用していいものなのか。

ニヤリ顔で大丈夫と言われても。あれを用意って何?

ユーリアスを見ると曖昧に微笑んでいる。これは何かあると思った方がいい。


「では我々は執務に戻る。ティア、昼食をともにしたかったのだがロイズに反対されたんだ」

「当たり前です。まずは女性同士、親睦を深める時間が必要です。それからフィーナ嬢、フィリアから手紙を預かっていますのでどうぞ。殿下、行きますよ」


昨夜、当分寮に戻れないことをフィリアに伝えたいと言うと、ロイズが無表情ながら買って出てくれた。

手紙を受け取ったセラフィーナはあとでじっくり読もうと懐にしまう。


「私達も執務に戻る。午後の謁見前に迎えに来るからな」

「それでは私どもも失礼させていただきます。ご用がございましたら呼び鈴を鳴らしてくださいませ」


順に退出していき、部屋に残ったのはセラフィーナとティターニア、リンカの三人だけになった。


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