56話 桃!
「木本さんが噛めばいいのね?」
「少なくとも彼奴なら妖怪にも人にも顔が効くだろ?その上もいるとか聞いたけど、俺は覚えてねーぞ?」
「その木本さんって誰?」
「私の直属上司で座敷童子を私に預けた人よ。報告そのものはもう少ししてからと思ってたけど、座敷童子が噛ませろって言うなら話そうかしら?」
「その判断は華澄だけじゃ駄目だろ?三枝先生とか医院長に話してからじゃないと揉めない?」
「既に揉める要素しかないから、一生に一度は言いたいセリフ上位の『私の為に争わないで!』って言ってもいいわよ?」
「私の為に争わないでー!!って、言った所で争いが終るわけないし自己満だろ?そんな事言うくらいなら私は勝ち馬に乗る!って方が分かりやすいよ。」
ゲームの中でもクランクラッシャーやら姫プレーしてる人がたまに叫んでるなぁ〜。関わったら負けな人種なので遠目から見て楽しむくらいがちょうどいい。性格悪いって?他人の人間関係に勝手に首を突っ込んで正論パンチと言う名の自己満足を押し付けるよりはマシだと思うよ?
だってそうしようと思ってそうなったのか、それともそう言う流れになってしまったのかは当事者同士にしか分からないしね。そんなイザコザをなくす為にリアルマネートレード禁止とかの策を講じてるんだしさ。
「なら真利は私の方に付いてくれるのね!」
「いや。そもそも契約があるから、それが終わるまでは病院側だよ。それに、本当に色々と検査とかしてもらわないと分からない事の方が多いのよね。」
華澄の上がったテンションが急転直下したけど、先約があるならそれから履行しないとね。と、言うか病院側と警察側って仲悪いんだろうか?三枝先生達のデータを貰えばそれで済む話だと思うんだけど・・・。まぁ、外からの見た組織と所属して見た組織では内情が違ってるなんて事は多々あるのよねぇ。実際ウチの会社もライバル会社と表面上は仲良さそうに見えても、中では契約取り合戦で目の敵にしてる人もいるし。
「ゲームで出来た事が現実で出来るっとか?にわかには信じられないけど、あんまり強い力を使うと負担がかかるんじゃないの?その辺りは大丈夫なのよね?」
「いや、なんもかもよく分からない状況でして・・・。強いて言うならお腹が減るとか?」
「缶詰とかパックご飯とか買ってくるわね!」
「あ〜、やっぱり腹減り系?」
「座敷童子大先生!なにかご存知なので?」
「飯食うって言うのはその世界の物を受け入れるって言う、昔からある一体化方法なんだよ。仙人が霞食ってるとかって話があるだろ?アレは俗世のしがらみから離れて俺達側に来ようとしたって話だし、逆に目に見えない世界から人のもん食ってこっちに来た奴もいる。それに医食同源?だっけ。何かを食うって言うのはそれだけ実体やら力を作る事に繋がんだよ。」
「なるほど?でも、今はゲームとかでみんなご飯食べたりしてるけど?」
「バカな人間はそれで死ぬだろ?仙人目指してる訳でもないのにデータとか言うので満足して物を食わない。それこそ霞食ってる方がまだ水気はある。」
三枝先生のMP=満腹ポイントってガチだったのか!確かに魔法使ったりするのにはバイオナノマシンが必要見たいな話は聞いたし、そのバイオナノマシンを生成するのには食べ物と言うか栄養がいる。なるほど・・・、確かに理論的には納得出来る。と、言うか今な話だと延々とゲームやってたらノーリスクでどんどん強くなれる?
トラブルオンライン的にはMPは上限こそあれ、またたく間に回復してモーションやらアーツやら魔法使ってモンスターと殴り合えだし、そのモーションやらアーツは何度も使って身体に馴染ませろと言ってくる。そうか・・・、なんか知らない間に修行して育成されてたのか、俺は。
「なら座敷童子もなにか食べるの?」
「和菓子なら食うぞ?洋菓子は脂っこくてイヤ。」
「う〜ん・・・、今手持ちのお菓子はないなぁ〜。あれば練切でも水饅頭でもあげるんだけどね。」
「お前・・・、実はいい奴なのか?」
座敷童子大先生のピュアさが心配になる。誘拐犯とかに『お饅頭あげるよ〜、おいで〜。』とか言われたらホイホイついて行くんじゃ・・・。いや、人形だからついて行っても大丈夫?その代わりに相手が驚く未来があるけどさ。
「甘い物よりはお肉とかが好みだしね。先生達ともタンパク質は多めに取りましょうって話で決着ついたし。」
別に何を食べてもいいのだけど、元がタンパク質のナノマシンだから変換率は肉とかがいいらしい。でも、強制ダイエットからのドカ食いは体に悪いからあんまりなぁ・・・。
「なるほど。華澄、俺をここに置くならお菓子3食な?」
「それくらいなら売店にあるからいいけど・・・、洋菓子でも我慢するのよ?それに、先に木本さんと話すから一旦連れて帰ります。」
「えっ!俺のお菓子パーティーは!?」
「昨日お饅頭2箱食べたでしょう?」
「ガッデム!なんでこんな未来にまで生きてるのに饅頭やらおはぎは空を飛んでないんだ?」
「それは虫が集るからじゃ・・・。桃とか食べる?」
「桃?あるなら食うけど匂いしねーぞ?」
「桃供給!」
大麻をフリフリしてそう叫ぶ。領地防衛戦てはユニットに野菜やら果物を供給しつつ戦うので、コマンドとして供給と言う物がある。カボチャは召喚だけど桃くらいなら大丈夫かな?あのカボチャよりは小さいし。いや、砲弾桃ってそこそこ大きいのかな?種をバルカン砲みたいに撃つ時もあれば、大砲で撃つ時もあるし。
そんな事を考えていると大麻の先に桃が1個実った。フレーバーテキスト的には甘くて栄養たっぷり。その種は鋼鉄おも穿つと書いてあったかな?確かそんな感じだったと思う。毎回100個とかの単位で供給してた気もするけど、あれは部隊として編成してたからだろうか?なんにしても無数の桃に囲まれなくてよかった。
「豊穣!コレどう考えても豊穣の力だろ!」
「本当に桃が成った・・・。」
「今はこれが精一杯。」
万国旗を出す手品は出来ないけど、身を削る魔法は使える。と、言うか緊急換装とか覚えたらゲームのアイテムとか呼び出せるのだろうか?でも、身を削るって事は下手に実体のある物だと体積が足りなくてハリボテとか?とりあえず桃を千切って大先生に渡す。
カボチャのその後は知らないけど、多分毒ではないし妖怪と言うか人ボディのこの人?が毒なんかで死なないと思う。と、言うか心配なのは味とか?
「・・・、おっ!あっま!これあっま!うっめ!うっ!!」
「ど、どうした?」
「こ、この種なんだよ?無茶苦茶かてぇ・・・。」
桃の中から出て来たのは黒い種。普通の桃の種とは違いツルリとして弾丸の様な形をしている。確かにコレをゲーム内では撃ち合うし形としては正解なのかな?
「ほら、座敷童子貸しなさい。それじゃあ行くけどお腹は大丈夫?こう言う事したらお腹が減るんじゃないの?」
「う〜ん・・・、普通の桃くらいの大きさだし大丈夫かな?なんにしても座敷童子大先生が喜んでくれるならそれでいいよ。」
そこで話は途切れて華澄達は帰っていった。結構話し込んてしまってもう昼過ぎか。今夜から領地防衛戦が始まるしもう少し調整しつつフロムさん達からの連絡を待とうかな?他にもウチらに加わってくれる人がいると嬉しいけど、好みが別れるし時間的なものもあるから難しいかもなぁ・・・。
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「座敷童子、その桃と種を寄越しなさい。」
「あん?ほとんど食っちまったぞ?種はあっけどな。」
「少しは残しておきなさいよ・・・。味は?」
「めっちゃ旨い桃・・・、風味でありつつ少しのザクロっぽさがある。」
「ザクロっぽさ?それって・・・。」
「御名答。ザクロってのは鬼子母神の話的には人肉が恋しくなったら食えってお釈迦様から教えられた。それを知ってか知らずか加えたんじゃねぇの?」
「ますます理由のわからない事になってますね・・・。」
病院を出て車に乗り込み職場へ。桃は惜しい事をしたと思うけど、流石に横取りするのは憚られた。なんにしても種があるならそれを育てれば・・・。
「コレは・・・、植物なのか?」
「鉄じゃね?」




