55話 逃げないで!
「その前になんでまた私って怖がられてるの?」
素朴な疑問と言うか医院長も怖いと言っていたし、この座敷童子とか言うのも俺を怖いと言う。確かに狐耳と尻尾があれば狐の妖怪っぽく見えるのだろうけど、顔付き自体は人の顔だしコスプレすればこんな姿の人なんて何人でも量産出来る。そう考えると怖がるべき場所が俺の考えと違うような・・・。
「それは真利が・・・。」
「お前!境界ぶっ壊しまくった上に幽世の食いもん食いまくって、勝手に黄泉との行き来までしてるだろ!それに閻魔帳も誤魔化しまくってるし!もう!お前なんなんだよ!」
「何の話?全く話が見えないんだけど・・・。」
確かに医院長も人が境界を跨いだとか言ってた。けど、ワザワザ霊界に行った覚えもなければ幽世の食い物とか言う怪しげな物は食べた覚えがない。それに黄泉ってあの世だよね?死にかけはしたけど死んでないし、こうして生きてるから現世にいるわけで・・・。
「座敷童子、この娘はそこまで・・・、私の様に詳しくないの。そう叫んでも機嫌損ねてバラされるだけよ?」
「ひいぃぃ・・・。すいません、すいません!」
「そんな凶暴じゃないよ。でも、分かる様に説明して。」
「人と妖怪って言うのはそもそも感性からして違うのよ。例えば・・・、目に見えない世界。それこそ霊界とか妖精郷とか壺中天とか仙界とか、そう言ったモノをひっくるめて自分達だけの国であり人が干渉出来ない場所って位置付けをしてたのね。でも、人は勝手にその目に見えない世界を作って、そこに自分達を・・・、妖怪や幽霊を貼り付けた。」
「それってゲームでVRとかARが発展したって事だよね?」
「そう。そうだけど本質的には脳波の方よ。昔からチャンネルが合うとか言うでしょう?それに、人は思い込みで死ぬ事もあるし・・・。」
華澄が言ってるのはノーシーボ効果だな。人間の身体は思い込みにかなり素直に反応するから思い込みによって死ぬ事もあるし、その逆でビタミン剤をよく効く薬と言われて飲んでれば病気が治ることもある。確かに没入感マシマシのVRとかARを別の世界と認識してそこにいる者として楽しめば妖怪の世界にお邪魔してる事になのかな?
「昔みたいな曖昧な世の中ならいざ知らず、今の世の中ならおめーみたいなヤベー奴は今はあんまりこっちに来ないんだよ。なのになんでお前ここにいんの?と、言うか飼われてるの?」
「飼われてるって言うのは語弊があるけど、元々私って普通の人間だよ?訳あってこんな姿だけどさ。そもそもそのヤベーの基準って何?」
「ヤベーの基準?だってお前色々出来るだろ?それこそ火を飛ばすのも雷を飛ばすのも・・・、最悪は天変地異やら俺達を従わせたりとか?それになんか西洋の風も感じるし・・・。」
「ちょっと座敷童子!それは本当なの!?私は全く聞いてないんだけど!?真利本当なの!?」
華澄がやけにうろたえてるけど、三枝先生達は話してないみたいだな。ゲームのスキルやらが使える事。でも、使うとお腹減るしナノマシンがガリガリ生産されてすぐにエネルギー切れ起こす様なボディなんですけどねぇ。と、言うかゲーム的にはMPは勝手に回復する物って認識だから余計たちが悪い。
いっその事でっぷりと太ったら魔法とかガンガン使えるんだろうか?いや、そもそも太れないか。健康であると言う前提なら標準体重を逸脱する事もないんだろうし。
「う〜ん・・・、黙秘!」
「黙秘を却下!」
「だが断る!」
「断るな!本当にそんな事出来るの?真面目に話してよ。」
「いや・・・、私自身も分からない事の方が多くってね。事故に合ってまだ1々月も経ってないんだよ?その中で妖怪やらこの身体の事やら今後の事を決めたり調べたりするのは流石に無理があるよ。」
「え?お前まだおしめも取れてない様な赤ん坊なの?」
「少なくとも30年は生きたけど?座敷童子的な感覚でその30年がひよっこレベルと言われたらそれまでだけどね。」
「逆だよ逆、妖怪ってものはある程度姿や形が決まって、それによって出来る事が決まって来んの。例えばゴリゴリマッチョな鬼は怪力で金棒振り回して粗暴で人をバリバリ食うとかな。まぁ、人を食うって話は飢饉なんかで食いもんなかったから食っただけで、それをしなきゃ身体も維持出来なかったから仕方ない。」
「それはまぁ、聞いたかな。筋肉肥大とかで代謝も凄いだろうから食わないと死んじゃうだろうし。」
「そう。仕方ない所は仕方ないでいいんだけどさ、狐の化物ってのは世界中に話があって、境界の存在として人と自然、現実と幻想の境界を行き来する奴とか世界中で描かれてるし、神格として祀られたりそれの使いだったりと話が多い。そして、妖怪にされた俺達からすれば、そう思い込まれれば思い込まれるほど、自分でもそうなのかもしれないって思い出して力を付ける。だからおめーはヤベー奴なんだよ!」
「華澄、話つながってなくない?」
「そう?座敷童子的にはゲームでやれた事が現実でも出来るからヤベー奴って話をしてるんでしょ?私だってゲームの魔法やらが使えたらヤバいとは思うし。さて、座敷童子的には真利をどうしたらいいと思う?」
「どうしたら?さっさと稲荷神社にでも連れてって祀って貰えよ。テウメーッソスの狐とかの要素とか入ってたら絶対に捕まらねーぞ?ご機嫌とって飯食わせて宴会でも開いて静かにしててくださいって言うのが一番だろ。」
「え〜、本当に稲荷神社で巫女やるの?流石にそれはちょっとと言うか、バイトするくらいならいいかもしれないけど、ずっと神職やるのはちょっと疲れそう。」
「逆だ逆。お前が巫女さんから貢ぎ物貰って祀られて適当に神通力とかで豊作祈願とかやるの!」
「いや、そんな力ないし。」
「巫女なら私がやって貢ぐからいいわよ?」
「あっ、なら俺は他の家へ・・・。」
「逃がしたら落ちぶれそうだから取り敢えず確保?」
「預かり中だから逃さないわよ?と、言うか先輩妖怪として10尾の狐妖怪に大きな顔ができると思ったら、座敷童子的にも泊が付くんじゃないかしら?」
「いやいやいや・・・!どう考えても俺が抑えられる相手じゃねーです!後輩でもねぇ、ご機嫌取りしなきゃいけない様な奴はいるんだよ!それの筆頭がコレ!」
「ほら、座敷童子怖くない、怖くないよ〜。先輩として色々教えてほしいなぁ〜。」
「そう言う猫撫で声の狐が一番ヤバいって知ってっから!玉藻もそうだったし!」
「華澄的にはどうしたい?座敷童子はかなり私を拒否してるけど。」
「でも、この子が一番人との付き合い歴は長いから適任ではあるのよね。真利も妖怪の事や自分の置かれてる状況は知りたいでしょ?」
「置かれてる状況って言われてもピンと来ないよ。えっ?知らない間に何かに巻き込まれてるの?」
「概ね2つには巻き込まれるわよ?1つは三枝先生達による医学的研究。コレはもう私ではどうにも出来ないわね。次は妖怪側からの接触かしら?既に医院長には会ったと思うけど、今は観察中でコレからと言った感じかしら?」
「それの解決策が座敷童子大先生に教えを請う事?」
「解決策と言うよりは何が良くて何が悪いか知る事かしら。結局真利が出来ないと思っても何かの形で暴発でもすれば危ないし、座敷童子の見立てだと天変地異とか起こせるんでしょ?全部鵜呑みにする事はないけど、無視出来ない言葉でもあるのよ。」
「う〜ん・・・。なら座敷童子大先生、なにか条件付けて教えてもらうのは?」
「条件?狐は賢いからなぁ・・・。条件付けても抜け道作るし、俺は童子って付く分そこまで頭も良くない。せめて華澄かその上の木本が噛めよ。じゃないとなんも言えねぇ。」




