54話 本物? 挿絵あり
流石に呪いの人形を病室に持ってくるとは思わないけど、妖怪とか言うよく分からない存在もいるしなぁ〜。そもそも妖怪と言われても何が妖怪かはよく分からない。なんとなくビビッと来るとか、アホ毛が直立するとかすればいいのかな?妖怪アンテナ的に。
そうは言ってもアホ毛もなければ髪の毛が逆立つ事もない。と、言うかそもそも妖怪って医学的な奇形だけじゃないらしい。人前に出るものはおおよそ説明出来るらしいけど、高位になればなるほど説明は出来なくなって来るし、実体があってもヤベー奴はヤバいらしい。
まぁ、そんなモノに積極的に関わるつもりもなければ、今の目標は外を出歩いても受け入れてもらえる状態を作る事。頑張って動画上げれば認知度も少しづつ上がるだろうしね。ハロウィンの時に登録してくれた人は減る事もなく横這いから微増と言った感じだな。
「気になる?」
「寧ろこれみよがしに持ってくれば、気にしてくれって言ってる様なもんじゃん。触れない方がいいならスルーするけど、流石に華澄が人形持ち歩いてたら目立つよ?」
高身長でキリッとした巨乳美人。多少キツイ印象を受ける人もいるけど、中身は結構自堕落な所もある。でも、流石に市松人形持ち歩いてるのは奇行としか言えない。
「真利は妖怪って言うモノの説明は聞いたのよね?」
「えっと・・・、なんで華澄がそれを?一応大半の妖怪は治って一般人になる人もいるし、本当に治療不可能で妖怪ってカテゴリーのままの人もいるって聞いたけど・・・。三枝先生から?」
本当に夫婦かは別としてよりを戻して彼女となったから話した?いや、それは余りにも軽率だよな?その程度の秘密ならもっと一般人が知っていてもいいと思う。と、言うか今は妊娠時検査とかで奇形も治せるから早々妖怪は産まれないだろうし、産まれたら産まれたで治療されるから新しい妖怪が誕生する確率は低い。う〜ん・・・、やっぱ妖怪って定義が詳しく聞かないと分からないな。あの時は驚き過ぎて納得したけどさ。
「いや、私はそう言う者と関わる様な所で仕事をしてるのよ。付き合ってた時は秘匿事項だから話さなかったけどね。」
「えー、今更そんなカミングアウトされても困るよ。もしかして危険人物だからより戻したとか?」
「いや、そこは更に好みになって取られたくなかったから唾つけたけど?」
「さいですか。で、話は戻すけど結局この人形何?」
手を伸ばして頬を突っついてみる。思いの外柔らかく少し温い。華澄が抱いていたからだろうか?ただの市松人形だと思ってたけど思いの外精巧に作られてるんだな。
「座敷童子よ?」
「へ〜、ただの市松人形だと思ったら座敷童子って名前なのか。最近流行ってるの?妖怪っぽい名前つけるの。なんにしても一人だからって喋り相手に対話型AI人形買うのは辞めた方がいいよ?犬飼うみたいに結婚遅れるって言うし。」
「結婚は真利とするからいいのよ。それはいいとして、何か感じない?」
「華澄の将来に不安を感じる以外?先に言うけど今の私ってばまともな仕事に就けるかも微妙よ?形式上はこの病院に出向社員って形で前の会社に籍もあるけど、どう考えても前の会社には戻れないだろうしね。」
何時まで被験体として扱われるかも分からなければ、色々と解明されれば被験体としての価値もなくなっていく。そうなると最終的には自立しないといけない。でも、その自立ってのが中々難しくて、この姿で出来る仕事の幅は限りなく狭い。
流石に今の報酬やら貯金やら事故の保険金やらですぐさま路頭に迷う事はないだろうけど、収入源がなければ使っただけ減っていく。なんにしても配信やって認知度上げないと身動き取れなくなるし、フリーのプログラマーやらやる様なスキルはない。
「そこは家事してくれればいいからいいのよ。部屋に帰ってエプロン姿でお帰りなさい・・・、おっとよだれが。」
「脳内で明るい家族計画立てるのはいいとして、結局この人形なに?」
ひっくり返して中を見る。球体関節が見えるから可動式なのか。無理に曲げると壊しそうだから曲げないけど、やっぱりなんか震えている様な・・・。バイブレーション機能とか人形にいるのかな?サイレントモードで目覚ましにするならいるけど、如何せんバイブレーション自体は起きるほど激しくなさそう。
「座敷童子よ。なにか感じない?」
「話がループしてるけど、この人形になにかして欲しいの?流石に壊れたから修理してくれって言われてもなぁ。前なら出来る知り合いもいたけどさ。」
おもちゃのお医者さんじゃないけど、何かの拍子に壊れたおもちゃの話を川端部長にしたら修理してくれた事がある。お代は要らない半分は趣味みたいなものと言ってたけど、やっぱり色々と作ってる人は手先が器用なんだろうし、壊れたままほっとくのも嫌なんだろう。
「壊れてないわよ?感じられないならいいわ、座敷童子何か話しなさい。」
「そんな事言っても対話型AI人形には伝わらないよ。座敷童子、お歌を歌ってとかじゃないと。」
「こ、こぎつねコンコン山の中〜♪」
「音声面に問題ある感じ?口まで開くタイプって結構高価だったと思うけど・・・、何が悪いか分からないし服脱がす?」
「ほら座敷童子、何か行動を起こさないとストリップになるわよ?」
「そ、それは勘弁願えないでしょうか?御狐様。わ、私は服を着ておきたいですますはい。」
「ん?脱がしたら駄目なの?糊付けされてて服が破ける・・・。いや、着せ替えも出来そうだしそんな事はないか。流石にどもり機能とかあるわけないし、マイクの接触不良?この人形落っことしたりした?」
「落としたりしてないし、普段はもっと横柄よ?」
「横柄な人形とか誰得?初期化した方がいいと思うよ?と、言うか普通に対話してるし横柄ではないと思うけど・・・。」
ひっくり返したり服の裾を開けさせたり・・・、そもそも機械部分は内蔵式か?この手の対話型人形は流石に取り扱った事はないなぁ。一応、老人ホームなんかにこう言った物を売り込む部署はあるけど専門外だし、あると便利とは聞くけどそこまで会話に飢えてもない。AR機能で動いてる映像を投影したりも出来るらしいけど、見た感じ目は普通の・・・。
「コレここに置いていかないよね?スマートレンズはめてるけど。」
「そのレンズは回収するけど・・・、それは本当に座敷童子よ?」
「はいはい座敷ワロス座敷ワロス。」
「座敷ワロスじゃねーです!座敷童子です!不幸呼ぶぞ狐娘!」
「おぉ!コレが横柄機能。どんなプログラムか知らないけど感情豊かな感じだなぁ〜。と、言うかどもり治ったけどやっぱり接触の問題?どれ・・・。」
口を開けて中を覗き込む。スピーカーは見当たらなくて普通に口が作ってある。湿り気もあるし歯やら舌もあるしオーダーメイドするにしても結構なお値段なんじゃない?
「真利、それ本当に妖怪の座敷童子なのよ?」
「妖怪の座敷童子?あの子供妖怪の?まっさかぁ〜。それだったら私は九尾の狐を超えた者だよ?ほら、尻尾も10本あるし。」
次いでに言うと魔法・・・、妖怪なら神通力?も使えるけど、それは流石に荒唐無稽過ぎるから隠しておく。尻尾をワザワザしていると座敷童子(仮)はプルプル震えてるけど、芸が細かいと言うか何と言うか。あぁ、でもAI搭載してるならこの姿って未知の何かに見えるのかな?
「ち、ちょっと華澄逃がしてくれ!このままじゃ怖くて仕方ない!」
「ほーら座敷童子怖くない怖くないよ〜。別に取って食ったりしないよぉ〜。と、言うかそんな冗談言う為にコレ持ってきたの?」
「いや、冗談ではなくてね?」
「医院長とか三枝先生から聞いたけど妖怪って医学的に説明出来るんでしょう?なら、コレが妖怪だとすると小人症とか?」
「ルーツとしては小人症や畸形嚢腫、神話的にはヒルコ的な要素が多いかな?知ってる?ヒルコって。」
「ムムム・・・、ちょっとそこの大麻取って。」
「この棒?」
「そうそう。ヒルコ・・・、エビス様?」
神道的な話をするとイザナギとイザナミの最初の子供がヒルコだけど、3歳になっても歩かずにいたら両親から葦の船に乗せられて海に流された。その後兵庫に流れ着いて海から来て富をもたらすからエビス様と同一視されたらしい。今の世の中だと障害を持ちながらも蘇り、福の神となったことからリハビリテーションの祖やらノーマライゼーションの象徴としても語られてるとか。
なんか医療ポッドに入ったら大量に情報もらったけど、ほとんどは頭じゃなくて大麻に流れたっぽいんだよなぁ〜。こうして持ってると該当する事柄があればなんとなく思い出せるし。スマートレンズで検索かけてもいいけど、割とディープな話はこっちの方が分かりやすい。
「家に富をもたらし幸運を呼び、いなくなったら落ちぶれる。まぁ、今はウチで預かってる妖怪なんだけどね。」
「にわかには信じられないけどカッパには会ったしなぁ・・・。てか、コレ生きてるの?」
「厳密には生物と定義し辛いわね。ほら、座敷童子もそんなに怖がらない。」
「狐は嫌なんだよ!怖いんだよ!下手したら燃やされたりバリバリ砕かれたりして虐めて来るんだよ!」
「真利は姿こそ狐だけど神通力やら妖力なんて持ってないわよ?証拠に貴方に気付かなかったでしょう?」




