47話 腕立て 挿絵あり
「それで、この件は正式に国へ報告されてますよね?」
「医院長はご存知でしょう?柊刑事。そちらにも話はしていますし、国のデータとしてもマリちゃんは認められています。そもそもドタバタや混乱にかこつけてよりを戻すのは如何なものかと思いますが?」
「そこはプライベートです。退院すれば同棲と話し合って来ましたからね。その辺りも刑事で安心出来ると考えたから面会を許可したのでしょう?」
「気の早い方ですね。当人同士がそれでいいなら構いませんが、退院はまだ先ですよ?」
「健康と聞きましたが・・・、そう言えば退院出来ない事情とは?確かにあの容姿なら出来ない理由としては分かりますが、それ以外にもなにか?」
ここでどこまで話す?宮内庁の刑事と言う事は、厳密には一般的な警察官ではなく皇居警察官と言う分類になる。主に皇室警護をメインとした任務に付き、その中でも妖怪への対応も任される。科学全盛期の世の中で超常現象を取り締まる部署など不要と断じられるのだろうが、存在していて害もあるなら対策も取らなければならない。
その辺りの事件発生で動くのが彼女達と聞いている。実際にその動きを見た事はないが、関わりも多くないので私としても判断は付かない。
「その辺りはまだお伝え出来ません。守秘義務と言うものもありますし、なにより私達もまだ解明出来ていない部分も多い。」
「・・・、そのデータをいただく事は?」
「正式に宮内庁から要請があれば医院長が回答するでしょう。私は主治医ですがそこまでの権限がありませんから。」
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「マリちゃんいいですか?ゲームしてます?」
「いいですよ〜。」
華澄は帰ったけどなんと言うか実感が湧かない。もっとこう・・・、大騒ぎするとか合ってもよかった様なそうでなくてよかった様な。なんにせよ初対面だとやっぱりコスプレって反応なんだろうなこの耳と尻尾。でも、初対面で本物ですよね?って聞かれる方が怖いかも。だってその場合そう言う者がいると言う次元で生きてるんだし・・・。
「ゲームしてなかったんですか?」
「ずっとゲームしてる訳じゃないですよ。色々と考えをまとめるなら文章に起こす方が整理しやすいですからね。で、どうしました?」
「身体測定パート2をやろうかと思いまして。空き部屋抑えたんでそこでしましょう。」
「いいですけどなにするんです?定番の腹筋とかですか?」
「してもいいですけどズルしますよね?」
「尻尾は自前なのでズルかは判断に迷いますね。」
「まぁ、使っていいんですけどね。正確なデータ取るなら体のあるものは全て使ってもらった方がいいですし。では、着いてきて下さい。」
そう言われて連れて来られたのはガランとした部屋。端っこの長机にはお肉やらプロテインバーが大量に置かれ、壁には弓道の的みたいな物やら垂直跳びして測るようなモノもある。大麻も持ってきてくれと言われたので魔法的なモノも使うのかな?いや、妖怪がいるなら妖術とか?腹が減る事を見越してなんだろうけど、下手に使って大丈夫なのかな?
「それで、着てから言うなも何ですけど、このいにしえ装備って着る必要ありました?」
「集客用の燃料にするから写真撮っと来ますね〜。なんだかんだで伝統衣装は人気ありますからね。着てよし、着せてよし。おっさん以外は多分大丈夫ですよ。」
「そのおっさんだった私は大丈夫なんですかね?」
「今は美少女だからノーカンです。それに魔法使った時にお医者さんご・・・、触診しますからね。」
「その言い間違い必要あります?そもそもお医者さんごっこではなくてお医者さんでしょうに。」
体操服にブルマ。既にハーフパンツやらスパッツに変わって長いけど、コレの人気は未だ健在。多分DNAと言うか男の煩悩には、この服はえっちな服として登録されてしまってるんだろう。実際着てもいいと言われたら着てもらうのもアリかな?今は自分で着てるけどさ・・・。敷田さんの趣味ではないと信じたいけど、この姿で触診されるのはなぁ・・・。
「ノーカンかぁ・・・。なんにしてもSNSで変な事話さないでくださいよ?」
「その辺りは大丈夫ですよ。あくまでハルPとしての発言ですからね。さてと、マットは敷いたので最初は腕立てからやりましょうか。1分間行ってインターバル置いて、身体強化系の魔法使ってまた腕立して変化を見ます。」
「尻尾使っていいんですよね?」
「いいですけど楽になるもんなんですかね?尻尾も筋肉痛になるかもしれませんよ?」
「まぁ、モノは試しですよ。」
そうは言いっても尻尾の可能性は計り知れないのだよ!腕立のなにか辛いって3点、或いは4点で支えて可動部は肘だけってところ。なら、曲げなくても尻尾が支点として増えればかかる力も分散されて腕に掛かる負荷も減る。シャワーで尻尾使ったけど結構力込められるし、物を掴む手としてではなく腕としては優秀なのよね。そんな事を考えつつヘコヘコ腕立を1分間。バテるなんて事はなく速度も落ちずにフィニッシュ!
「どうです?」
「普通ならお尻上げないとか腰を落とすとか、姿勢が悪いって話で回数は伸びないんですけど、絵に描いた様に同じ姿勢で続けたと言うか尻尾で身体を支えたと言うか・・・。」
「尻尾あると楽ですね。12本の腕で腕立てしてる様なものですし。次は魔法使ってからでしたっけ?」
「ええ。念のために言いますけど、ダメだと思ったらすぐに辞めてご飯食べて下さいね。それと、トラブルオンラインのバフってどんなもんなんです?」
「どんなもんと言われると・・・、基本的には基礎値にバフの割合を足す感じですね。だから何個も積むと割合が増えて10倍とか20倍とか増えて行きますよ。」
ゲームとしてはシンプルにバフは基礎値に対しての割合で付与される。だから割り振りポイントをそこの基礎値に振っていればバフの恩恵は大きいし、自分の好きなプレースタイルにどんどん近付いていく。そもそも全種族でMPが固定されて上限が絶対に増やせないのだから、後は出されたルールの中でどうやって強くなるのかって言う話なのよね。
「流石に10倍単位は怖いので2倍とかのバフってあります?」
「2倍くらいならいくらでも。なら・・・、マッスルアップ!ついでにリジェネ!」
大麻を持ってフリフリしつつ呪文を唱える。心なしかちょっとパンプアップした気がするけど、見た目的には変わらない。ただ、腕を触ると硬い感じがするから筋肉量が上がったのかな?リジェネも掛けたからかどんどん動いても多分大丈夫だと思う。
「見た目的には変わらないですね。ちょっと触診しますよ〜。」
ペタペタと腕やら腹筋、太腿なんかを若干いやしそうに触るのでくすぐったい。自分で触るのと触診では何か違う感想が出るのだろうか?一応、検査様ゴーグルやらを付けてるからバイタルなんかも丸見えなんだろうけどさ。
「マリちゃん、力を上げるって具体的にはどうするのが手っ取り早いと思おます?」
「力を上げる手っ取り早い方法?う〜ん・・・、筋トレは流石に時間を食いますよね?あっ!酸素?」
「正解です。普通なら血中酸素を使い、アデノシン三リン酸を再生成する必要がありますね。マリちゃんのバイタル的に中々の状態ですけど疲れてます?」
「いえ全く。」
「なら腕立てしてみましょうか。」
そう言われて腕立てを始めるけど、なんと言うかさっきよりも手応えと言うか腕も尻尾も曲げた気がしない。と、言うか重さを感じない?なんにしても出来る限り速度を上げてみようかな?




